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第2楽章 『櫛ヶ谷泪』

 雷の発する強い光に一瞬照らされた横顔。あの顔には見覚えがあった。

 あれは、俺と同じ中等部3年4組の―――櫛ヶ谷泪くしがやるいだ。


 翌朝、教室に入る。席に着いて頬杖をつく。誰かに感づかれないよう、その体勢のまま目だけを動かして周囲を探る。一番後ろの席にしてくれた担任に感謝した。

―――見つけた。窓際の列の真ん中。窓の外の薄曇りの空を眺めている、櫛ヶ谷泪。

 朝から賑やかな教室の片隅でぽつんと一人、席に着いている。友達はあまり居ないが浮きもしないような、これといって目立つ特徴が見当たらない女子で・・・

「徹ー」

「うひゃあ!?」

 突然視界に入り込んできた皇人に驚き、何とも珍妙な叫び声をあげる。

「急に叫ぶなよ、ビビッたじゃねぇか」

「え、あ、うん。ごめん」

「・・・何か気持ち悪いぞ」

 皇人に気持ち悪いとか言われた。俺の様子はかなり変なようだ。

「俺、変?」

「今訊くか?普通は『気持ち悪くねぇよ!』とか言うとこだろ」

「き、気持ち悪くねぇよ!」

「・・・無理、すんなよ」

 温かく微笑む、皇人。・・・何故か、俺が足の小指をロッカーにぶつけたときに見せるのと同じ笑みに見える。

「にしても、」

 皇人はニヤリと猫のように笑う。

「朝っぱらから偵察か?」

「へ?」

 皇人が立ち去ってから数秒後。俺は気付いた。

 ・・・バレてたよ!!

 いったいどんな勘違いをされたのか、不安でならない。というか、朝から女子見てる男って、

「変態じゃん・・・」


 授業の間。休み時間。変態呼ばわりされることも覚悟して櫛ヶ谷の動向を観察してみたが、分かったことは2つだけだった。

 1つめは、櫛ヶ谷にマトモな友達と呼べるものは1人しか居ないということ。2組の狩鵜麗舞かりうらいむだ。

 名前の字面がまるでどこかの令嬢のようだが、特に金持ちという訳ではない。一般民である。

 中学生には見えないほどの低身長で、145cmあるかないかといったところだ。漫画にすると周囲にピンクのお花が散っていそうなほわほわした雰囲気をもっていて、女子からも『可愛いよね!』と絶賛されていた。

 櫛ヶ谷とはかなり仲がいいようで、休み時間になるとほとんど毎回のように4組の教室を訪ねてきていた。櫛ヶ谷と他の女子との関係は広く浅くといった様子で、あまり親密な会話をしているようには見受けられなかった。

 2つめは、櫛ヶ谷はよく空を眺めているということ。

 朝も、授業中も。誰かとの会話の中で言葉が途切れた瞬間も、空を見ていた。

 梅雨の曇り空は、見ていてもさほど面白いものではないと思う。それでも彼女は空を眺めていた。


 放課後。部活が終わってから、荷物をまとめて屋上へと走る。

「徹?帰んねぇのか?」

「ちょっと用事が!」

 声をかけてくる皇人を振り切って階段を駆け上がっていく。

 屋上の扉の前で立ち止まる。小さく聞こえる、昨日と同じ歌声。

 荒れた呼吸を整えて、屋上の扉を薄く開けた。扉の陰に座り込む。

 流れ込む歌声。昨日と同じ曲。今日は雨音が邪魔をしないからか、その声は明瞭に響いて俺の耳に届く。

 雨音も雷鳴も響いていないのに、彼女は何かと張り合うように、誰かに向かって叫ぶように歌っていた。

 表情の見えない後姿。彼女はいつも1人だ。


 彼女は毎日のように、屋上で歌っていた。同じ曲を誰かに向けて歌っていた。毎日毎日、叫ぶように歌った。喉が枯れないのが不思議なくらい大きく響く声で、自分の存在全てをかけて歌っていた。

 それを聴くのはいつも俺だけだった。彼女は俺が居ることにさえ気付いていないけれど、それでも俺はそのことを密かに嬉しく思い、彼女の歌が俺に向けられたものではないことを思い出して―――少し、悔しくなった。

何とか一週間で更新、できました・・・。ぎりぎりセーフです。

今回は泪のことについて書いてみました。1話では名前さえ不明だったので。いつまでも正体不明の人物という訳にもいきませんw

次回更新は・・・一週間以内・・・?あんまり期待しないでください;遅くても2週間以内!!頑張ります。

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