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第1楽章 雨音と雷鳴、そして歌声

 窓の外にのぞく灰色の雲は、俺の気分に比例してますます色を濃くしていくようだ。

 プリントの束と憂鬱をまとめて鞄に放り込む。その鞄を背負って、体育館へと向かった。床でボールが跳ねる音と、生徒の声と足音がごちゃ混ぜになって響いてくる。

 俺はこの音が好きだ。聞いていると何故か気分が高揚してしまう。

「徹!おせぇよ!」

「また説教くらってたんだろー?」

 バスケ部の仲間が口うるさく騒ぎ出す。いつもと同じ。

「うるさいよ!悪かったなぁ、説教ばっかで!」

 俺も笑いながら答える。


 着替えるために部室に入ると、

「あ、徹」

皇人おうとが居た。

 同じバスケ部で同じクラスでもある桜坂さくらざか皇人は、俺の親友だ。たぶん。

 柔らかそうな金色に近い茶髪と、猫のような緑色の瞳。学年で女子から一番人気なのは、間違いなくコイツだ。

 ・・・おかげで、他のバスケ部員が引き立て役にしか見えないという弊害も発生しているのだが。

「へぇ今日は遅いじゃん、皇人」

「今日も遅いな、徹」

「・・・うるさいよ」

 ささっと着替えて、狭い部室から出る。

―――バスッ

「いっ!?」

 俺の顔目がけて飛んできたボールが、隣に居た皇人の手に収まっていた。

「反応、鈍くなってるんじゃねぇの?」

 猫のような目を煌めかせて、ニヤリと笑う皇人。

「・・・お、おう」

 こいつはたまに、人間離れした運動能力を見せる。ここだけの話、人間ではないのでは?とたまに思う。けっこう本気で。

「悪い悪い!こっちパスして!」

 高等部のコートのほうから聞こえた声に向かって投げ返す。

 ばふっと受け止めた音がして、ボールが床を打つ。

「全く、最近はボールのコントロールがきかない奴が多くて困るねぇ」

 冗談混じりに言ってみる。

「お前が言うか。しかも悠河ゆうが先輩に向かって。次期エースだぞ?」

 呆れた顔で言い返された。ひどい。

 ボールを持って、床で弾ませる。シュート。・・・外した。こんな日もあるさ、と自分を擁護しつつシュート。ネットをくぐり抜けたボールをそのままドリブル。シュート。


 体育館の屋根を雨粒が叩く音が聞こえてきた。続いて、空気を震わせる雷鳴。

「せんっせー、雷落ちそうでーす」

 お調子者の誰かがそんなことを言い出して、今日はそのまま解散になった。

 狭い部室に他の部員がおしよせて来る前に急いで着替え、皇人の姿を追って昇降口へ。

「皇人、今日さー」

 一緒に帰ろー、と言いかけて、慌てて靴箱の陰に隠れる。

 皇人の隣に小柄な女子が居た。去年の秋ぐらいから皇人とよく話すようになっていた、3組の学級委員だ。

 美人と言うよりも可愛いという印象を持つ子で、短い髪がよく似合っている。名字は・・・たちばな?だった気がする。

 一度皇人に向かってその女子との関係を、つまり「アレは彼女か!?」と訊ねてみたことがあるのだが、「うーん、まぁ」と何とも微妙な返事が返ってきた。

 よく考えれば皇人とその彼女(仮)が話していたからといって俺が隠れる必要はないと思うのだが、なんとなく入れないのだ。

 親友のいつもと違う顔を見ることを、気まずいと感じてしまうのは俺だけだろうか。俺はその場に入っていけるほどの図々しさを持ち合わせてはいなかった。あの2人のような関係を、少しうらやましいと思う。 

 2人が傘をさして雨の中に出て行ったのを確認してから、上履きを履き替える。出入り口で立ち止まり、鞄に手を入れたところで気が付いた。

「傘、教室に忘れた・・・」

 間抜けにも教室まで戻る羽目になり、3階まで階段を上る。

 静かな校舎に、雨音と雷鳴と俺の足音だけが響く。暗くなって誰もいない校舎は不気味な雰囲気をまとっている。今ならお化けやら幽霊やらが信じられそうな気がした。

 教室に入り机の上に鞄を置こうとすると、

「・・・」

そこに傘があった。机の上に置いといて忘れるとかアホじゃん俺!とちょっとした自己嫌悪に陥りかけたので、鞄に入れようとしたときに先生が話しかけてきたのが悪かったんだようん、とカバーしておく。

 先ほどよりも濃さを増したように見える廊下の暗闇の中に右足を踏み出す。

―――不意に、歌声が聴こえた。たった一瞬。

「ん?」

 それはとても小さくて、いつもなら聞き逃してしまうくらいに小さくて、気のせいだと言ってしまえばそれまでなのだが。

 上から聴こえた、という自身の感覚を頼りに階段を上る。屋上の扉の前で立ち止まった。

 扉の向こうから、歌声が聴こえる。

 冷えた扉に手をあてて、ゆっくりと開いた。

 雨が隙間から入りこんできて、俺の制服と床を濡らす。分厚い扉に遮断されていた歌声が、俺の鼓膜を震わせた。

 屋上。フェンスに四角く切り取られた灰色の空の下で、1人の少女が歌っていた。制服と長い髪が雨に濡れている。暴風にスカートがはためく。

 その背中は広い屋上の真ん中でひどく小さく見え、その歌声は大きく響いて雨音と雷鳴を圧倒する。

 灰色の空の向こうを目指して、彼女は叫ぶように歌う。ソプラノの歌声が空を切り裂いて、もっと、もっと向こうを目指している。大切な誰かに届けと願っている。

 温かくて、とても優しい曲なのに。

―――こんなにも悲しくなるのは、何故だろう。


 

やっと本編の流れが入ってきました・・・長かった・・・。

ラストまでの流れは考えてあるので頑張って更新していきたいです。

実は皇人にはものすっごい裏設定があります。いつかスピンオフ?みたいな感じで皇人の話も書きたいなーと思っているので(いつになるんだろう・・・)まぁ、気長に待っててください;;

さらに関係のない話をさせて頂くと、作者はバスケ部ではありません。主人公をバスケ部にしたのはただの思いつきです。むしろ作者は運動オンチです。

これからも更新頑張るのでよろしくお願いします!!

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