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「ねぇ〜どこに向かってるの?」
ひたすら街を歩き続ける彗の後を追いかけて浮遊するリリアージュが言った。
「いや、特に目的があるわけじゃない。ただ街の様子を眺めて楽しんでるだけだよ」
「キミ、その様子で楽しんでたんだ……ねぇ特に用がないなら、まずは役場に冒険者としての登録に行こうよ。名前も"プレイヤー1"のままだし」
「いいじゃん"プレイヤー1"。それに冒険者なんてわざわざ大変そうな生活、俺はしたくないね」
「んもぅ!キミってば……いいのかなぁ〜?冒険者としての登録証がなければ、フィールドに出て狩りをすることも出来ないし、宿代もタダにはならないよ!?」
「何!?冒険者は宿代がかからないだと?……よし、役場に急ぐぞ!」
リリアージュの思惑通り、宿代タダに釣られた彗は颯爽と役場へと向かった。
役場の受付に立っているイカつい男が、登録用紙と彗の顔をジロリと見ながら言った。
「名前は"彗"でいいんだな?…うん、いい名だ。彗、さっそくフィールドに出て下級モンスターを5匹倒してこい。出発の準備ができたら、また俺に声をかけてくれ。これは冒険者デビューの祝い金1,000アルカだ」
「あー……ありがとう。またいつか」
彗は気だるそうに返事をすると、役場の外へと出ていった。
「おーい箱、アイテムや装備品はどこで買えるんだ?」
「むぅ〜…箱じゃなくて、リリアージュ・バレッタだもん!」
リリアージュが不満気に訴えかける。
「…リリアー……リリー、流石に武器の一つくらいは持っておきたい。買える場所まで案内してくれ」
「はぁ〜い!お任せあれ〜⭐︎」
リリアージュに案内された道具屋の店主が、店に入って早々にノリの良い声で話しかけてきた。
「いらっしゃい!にーちゃん、お得な初心者セットはどうだ?勇者にはコレがオススメだぜ。剣、盾、防具、各種薬草セットで500アルカだ!初めての冒険に必要なものは全て揃ってるぞ」
「んじゃあ、それで」
彗はササっと買い物を済ませると、店の外に出てリリアージュに尋ねた。
「なぁ…俺が初心者だってことは、周りから見て分かるのか?」
「うん、分かるよ!レベルが20以下の冒険者には、みんなから親切なサポートが受けられるよう初心者マークがついているんだよ♪あとはパーティーを組みやすいように、役職も公開されている状態になるの」
「はぁ…そんなの初心者狩りしてくれって言ってるようなものじゃねぇか…」
彗は呆れたように呟いた。
すると突然、彗の背後から大きな腹の虫が鳴る音が聞こえた。
ぐぅぅう〜
振り返った彗は目線を下に向けると少し面倒くさそうに顔をしかめ、ぶっきらぼうに言った。
「おいチビ、腹が減ってるのか?親はどうした?」
すると、話しかけてもらえたことに喜んだ少年は縋り付くようにして彗の顔を見上げ、悲しそうに言った。
「お腹…空いた。パパとママは…ちょっと前に稼ぎに行くって冒険に出たまま、帰ってこないんだ」
「……そうか、そりゃ大変だな。何が食いたいんだ?ちょうど俺も腹が減ってきたところだ。何か美味いもの、案内してくれよ」
彗は少年の頭をポンっと撫でると、優しげな口調でそう言った。
「ありがとう、お兄ちゃん!こっちにいいお店があるよ!」
少年は満面の笑みを浮かべると、彗の手を引っ張って食事処へと向かっていった。
二人の後ろ姿を見届けながら、リリアージュは静かに呟いた。
「ふーん…意外と優しいところもあるんだ。でも、あれってもしかして…」
リリアージュが少し心配そうに食事を終えた二人が出てくるのを待っていると、喜びを露わにしながら少年が店先から元気よく出て来た。
「あ〜お腹いっぱい!お土産もこんなに沢山♪お兄ちゃん本当にありがとう!」
「はいはい。親が帰ってくるまで何とか頑張れよ〜。でもな、次からはもうちょっと遠慮というものを覚えた方がいいぞ」
「えへへっ♪はーい!じゃあまたね〜お兄ちゃんも冒険頑張ってね!」
そう言って大きく手を振りながら少年が去っていった後、彗が大きくため息をつきながら心底嫌そうに呟いた。
「チビのくせに食い過ぎだろ…はぁ〜……稼ぎに行くか」
その言葉を聞いたリリアージュが嬉しそうに声を上げる。
「やったぁ〜!ついにフィールドの外に出る気になった!?そうと決まったら早速レッツゴー♪」
「致し方なく一旦出るだけだ。またすぐ戻ってくるからな」
「えぇ〜…次の街へ行こうよぉ〜」
「却下」
リリアージュの淡い期待はあっさりと打ち砕かれた。
◇◇◇◇◇
「あー……フィールドに出たいんだけど」
再び役場へと戻って来た彗は、先程の役場の男に渋々話しかけた。
「早速来たな。彗、準備はいいか?よし案内しよう」
最初のチュートリアルのような説明をしてもらいつつ、彗は購入した武器と防具を装着してフィールドへと足を踏み入れた。
「俺の案内はここまでだ。彗、なかなか良い装備じゃないか。あとは戦って強くなっていくしかない。コレは俺からの選別だ。健闘を祈る」
そう言って役場の男は、彗に薬草を手渡すと去っていった。
見渡す限りの大草原のフィールドに立った彗は、率直な感想を述べた。
「……フィールド広すぎ、装備重すぎ、スライム居すぎ!」
「あははははっ!だよねー!最初はみんなスライムを倒して経験値とお金を稼ぐところから始まるから、この地域にはいっぱい生息しているんだよね〜!まぁ、まずは一匹倒してみたら?」
フワフワと彗の横を浮遊するリリアージュが大笑いしながら言った。
「倒すって……よいっ…しょ!」
ベチャッ
彗が振り上げた重い剣をスライムの上に落とすと、スライムは音を立てて潰れた後、光の粒子のようになり消えていった。
彗の経験値ステータスがほんの僅かに上がり、0.1アルカが財布に追加された。
それを見た彗がリリアージュに尋ねる。
「なぁ、一番安い食べ物はいくらで買える?」
「ん〜…パンを一つ買うにも20アルカは必要かな」
「これを20回…ムリ腕が死ぬ。おっ、コレでいいんじゃねぇ?」
そう言って武器も防具も全て解除して身軽になった彗は、地面に落ちていた木の棒を手に取るとスライムへと向かっていった。
「えぇ…ちょ…それをどうするつもり」
戸惑うリリアージュの声を聞き流しながら、彗は木の棒をスライムの上から素早く振り下ろした。
パシンッ!
するとスライムは先程と同様に光の粒子となって消えていった。
「よし、こっちの方がいいわ。あんな重い装備、買うんじゃなかったな…」
後悔する彗の横で、リリアージュはあまりの驚きに絶句していた。
「え…ちょっと……なんで?ただの木の棒だよね?えっ?スライムを一撃で…って無理無理無理!いくらスライムといえど、そんな武器とも言えないようなもので簡単に倒せる程弱くはないはずなんだけど…!?」
「そうなのか?たまたま当たりが良かったのか…?よいせっ」
ペシッ
彗がスライムの頭を木の棒で軽く叩くと、やはりスライムは粒子となって消えていった。
「おっ…?こんな程度でも倒せるのか。なんだ全然弱いじゃん。リリーの常識が古いんじゃね?」
「えっ!?そんなはず……っでも、スライムを倒したのって何十年も昔の話だから…そうなの…かも?」
「よし、このペースならサクッと終わりそうだな」
リリアージュと会話をしつつ、彗は見かけた全てのスライムをひと叩きしながら物凄い速さで倒していった。
すると突然、彗の前に可愛いウサギのようなモンスターがぴょんぴょんと跳ねながら現れた。
「このウサギもモンスターの一種か…?悪いな、よっと」
彗が木の棒を振り翳そうとした瞬間、リリアージュが叫んだ。
「ダメーーッ!」
リリアージュの声に驚いた彗は、振り上げた木の棒を一旦降ろすと不満そうに振り向いて言った。
「なんだよ?ウサギが可哀想とかそういうアレか?だったら」
「違うよ!その一見可愛く見えるウサモンはねぇ、一度でも攻撃したら怒って凶暴化してずっとつけ回してくるタチの悪いモンスターなの!しかもスライムなんかよりずっと強いんだから…とにかく今の彗はまだ戦わない方がいいよ」
「ふーん…コイツ倒したらスライムより稼げるのか?」
「そりゃもちろん……ってちょっとー!人の忠告聞いてた!?今のレベルで攻撃喰らったら、めちゃめちゃ痛いか最悪HP0でやり直しになっちゃうからねー!?」
「まぁ…そん時はそん時だ。痛いのは嫌だけど…なっ!」
彗はウサモンに木の棒を勢いよく振り翳して一撃した。
ウギャッ!
何とも言えない悲鳴のような声を上げ、ウサモンは粒子となって空へと消えていった。
彗の財布に2アルカが追加された。
「な〜んだ、コイツも弱いじゃん。リリーは大袈裟過ぎるんだよ。おっ!2アルカも貰えるならこっちの方が全然効率いいじゃん♪」
そう言ってご機嫌そうにウサモンを討伐しに向かう彗の後ろ姿を見つめて、リリアージュは意味ありげに呟いた。
「………どういう…こと?」
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