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「あぁ〜クッソ、やられた。はぁ…コンビニ行こ」
いくつも並んだモニターとゲーミングPCに囲まれた部屋の中で、西島彗17歳は生気の無さそうな目をして呟いた。
彗はパーカーにスウェットという部屋着姿のままで外へと出ると、近所のコンビニまで気だるそうに歩いていった。
時刻は平日の昼下がり。
普通ならば高校2年生として学校に通い、青春を謳歌していてもおかしくはない。
だが、彗は高校に通うことを全力で拒否。
日々配信をしながら稼ぐ、プロゲーマーの道を歩んでいた。
生まれ持った高身長で茶髪に染めている効果もあってか、大学生くらいの年齢に見える彗は昼間に出歩いていても違和感を持たれることはなかった。
幼い頃に両親を事故で亡くし、引き取られた先で唯一の肉親であるじいちゃんも、彗の中学卒業を間近にして病気で亡くなった。
それ以来、彗は誰にも頼らず一人で生きてきた。
「お、新作のポテチあんじゃん。買いだな」
コンビニを出て帰宅路を歩いていると、高架下に見慣れない物体が浮いているのが見えた。
近くまで行って確認する面倒くささと好奇心とが戦った結果、彗は近づき見てみることにした。
近づくにつれハッキリと見えてきたそれは、ピンク色をした四角い箱だった。
その箱の正面には文字が浮かび上がっている。
『あなたの願い叶えます。願いをどうぞ』
「はぁ…?なんだこのいかにも怪しい箱は。ってか、どんな原理で浮いているんだ?」
彗が触れて確認しようとした瞬間、箱がフワリと避けるかのように不自然に動いた。
「!?避け……はぁ〜何なんだよコレ。こんなの気になっちゃうだろ…やっぱり見に来なきゃよかった」
彗が後悔したように呟くと、箱の正面に再び問いかけるかのように文字が浮かび上がった。
『願いをどうぞ』
「ハッ…本当にそんなことが出来るのなら、この退屈でどうしようもない世界から、早く俺を連れ出してくれよ」
『りょーかい!お任せあれ♪』
妙にテンションの高い文字が箱に浮かび上がった瞬間、彗の視界は真っ白い光に包まれ、次に目を開けるとそこは見たこともない街だった。
◇◇◇◇◇
彗は状況整理のために周りをよく観察してみたが、木で造られた温かみのある年季の入った建物が立ち並んだ活気ある街の風景と、先程まで彗が歩いていた無機質なコンクリートに囲まれたどこか冷たい街並みとでは、比較するまでもなくここは異国の別世界だった。
あまりに現実離れしたその風景に、彗は決まり文句のように呟くしかなかった。
「ここは……どこだ?」
すると目の前に先程のピンクの箱が現れ、意気揚々と喋り始めた。
「やっほ〜新米勇者くん!ブレイブアルカディアの世界へようこそ。ここはワクワクとドキドキが交錯する始まりの街ウィンディアムだよ♪」
「………」
「あれっ、あまりの驚きに聞こえてない?おーい!おーーい!おーーー」
「うるさい、聞こえてる…が、お前は一体何なんだ?」
「私!?よくぞ聞いてくれました!私はねぇ〜……偉大なる天才魔導士、リリアージュ・バレッタちゃんだよ♪」
「ふーん…この世界は箱でも魔導士になれるのか。すごい多様性だな」
「ってちょっとー!えっ、天才魔導士なの!?とか、元の世界に帰してくれ〜!とかさぁ、もっと他に色々ないの?!」
彗のあまりに落ち着いた様子に、リリアージュは逆に混乱しながらテンション高く叫んだ。
「だから…ここはブレイブアルカディアとかいう世界で、俺がいた世界とは別次元か何かなんだろ?つまり、俺は何らかの理由で異世界に転生した状態ってことになる。新米勇者ってことは…RPG系のゲームか何かか?」
「えっ…キミ冷静すぎてちょっと怖いんだけど。まぁ大体そんな感じだけどさ…一応キミの案内人として、最初の説明だけはさせて?」
そう言ってリリアージュは、まるでゲームのプロローグのようにこの世界の創造神話から語り始めた。
ーーーその昔、ある女神が人間に恋をした。
想いが通じ合った二人は結ばれる…しかし、男は時間の経過と共に老いてゆき、寿命という隔たりはやがて二人を引き裂いた。
男のいなくなった世界で女神は嘆き悲しみ、自身の存在と引き換えに"魂が消えない世界"ブレイブアルカディアを創造した。
人間族、フェアリー族、獣族、そして魔族が共存するこの世界で、各種族は互いに干渉すぎることなく穏やかな日々を過ごしていた。
だが…魔法の研究が急速に進むにつれ、力を手にした魔族が次々と各地で侵略を繰り返すようになり、世界の秩序は崩壊。
各種族ごとに暮らしていた平和な時代は終わりを告げ、今では様々な地での緊迫した生活を余儀なくされている。
日々の平穏を守るために魔族と戦おうとする者、保身のために魔族にひれ伏す者、自身の野望を追い求める者など…留まる理由も冒険する理由も多岐に渡るそんな時代。
「ーーーさぁ、キミはこの世界をどんな風に冒険する?」
語り終えた達成感を絵文字(^^)と共に表現しながら、リリアージュは物語の始まりらしく彗に問いかけた。
そんなリリアージュの問いを完全に無視したまま、彗は逆に尋ねた。
「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「ちょっと〜キミ、私の言葉聞いてた?まぁいいや…なあに?」
「勇者って、冒険しないとペナルティはあるのか?」
「……え?それってどういう…もしかしてキミ、冒険に出ないつもり!?」
「魔王を倒すとか、富や名声を手にするとか、そういうの別に興味ないし。で、どうなの?ペナルティはあるのか?」
「えっ…と…あると言えばある。…ないと言えばない」
リリアージュは答えたくなさそうに言葉を濁しながら言った。
「はぁ…何だそれ。結局どっちなんだ?」
「うぅ…街の外に出て薬草とかアイテムを拾ったり、魔物とか倒さないとお金が尽きて暮らしていけないよ?…あ!経験値も稼いでレベルアップしていかないと、戦う能力が低いままだし…あとはあとは…う〜ん……」
「つまり、時々この街の外に出る必要は出てくるが、冒険者として世界を渡り歩かなくても別にペナルティはない…ってことだな?」
「ううっ…そう…だけど……っでも!キミは退屈が嫌なんでしょ?それなら」
「いや、異世界転生してる時点で退屈には程遠いだろ。そういえば、攻撃を受けた場合に痛みはあるのか?ここに見えてるHPがなくなったらどうなる?死ぬのか?」
リリアージュはなんとか冒険に向かわせようと説得を試みたが、彗の様子に諦めたように長いため息をついた。
「はぁ〜……まぁいいや。えっとね…もしもHPが0になったとしても、死ぬという概念は無いの。その代わり、努力して積み上げてきたステータスが全てリセットされて初期値になる。これが"魂が消えない世界"の仕組みってこと。でも、レベルや所持品はそのままキープされるから安心して。攻撃が痛いかどうかは…HPの総数に対して、その攻撃が影響を及ぼす割合によるかな。つまりHP値が高い人ほど痛みを感じにくくなるってこと。だから……最初のうちはめちゃめちゃ痛いよ⭐︎って感じ!」
「ふーん、なるほどな。なぁ…箱は魔導士で、俺は勇者なんだろ?最初から役職みたいなものが振り分けられているのか?」
「そうそう、そんな感じ。キミの場合は他所から来たからちょっと違うけど…この世界では10歳の誕生日を迎える時、個々の能力やステータスに応じて一番向いている役職が与えられるの。それが冒険に出られるタイミングみたいなものかな。役職は勇者、魔導士、賢者、戦士の4つに振り分けられるよ。自分のステータスを見てみて」
「ステータスって…この辺に見えてるやつだよな?」
彗は右下のあたりで手を動かしながら答えた。
「そうそう。そこにレベル、役職、HP、MP、パワー、スピード、運っていう各項目ごとの値が表示されているはずだよ。それがキミの今の強さってこと!まぁ、まだレベル1だからね♪そんなに気にする必要はないよ。それよりも、勇者だけは特別に『スキル』って項目があるはずなんだけど…キミのは何て書いてある?」
「スキル?あぁこれか…"無し"って書いてあるぞ。もっとレベルアップしなきゃ解放されないんじゃないか?」
「………えっ?"無し"って…そんなはずないよ!もっとちゃんと見て!?勇者にだけ与えられる特別スキルは、選ばれた瞬間に付与される特殊能力みたいなものなの。スキルが無い勇者なんて、今まで見たことないよ!?」
「そんなこと言われてもなぁ…『スキル:無し』ってハッキリ書いてあるし。ひょっとして何かのバグかもな?まぁ…魔王と戦うって話なら特殊スキルくらい欲しいところだけど、俺には不要ってことだな」
彗は全く気にしていない様子でアッサリそう告げると、街の様子を興味深そうに見回しながら歩き始めた。
「えぇーっ!?ちょ、ちょっと待ってよ〜!……うぅ…こんなことって……」
リリアージュは歩いていく彗の後ろ姿を見つめながら、ガッカリしたように呟いた。
読んでくださりありがとうございます。
異世界転生の冒険ものを書いてみたくなったので、初チャレンジです(^^)
気長に読んでいただけたら嬉しいです♪
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