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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

山の異変

触れた

作者: いっしき
掲載日:2025/12/18

 最初は、ただ変な光景だと思った。

 白い死体袋が、立っていた。

 誰かが立てかけたまま忘れたのだろう、そう考えた。

 だが次の瞬間、それが上下に跳ねた。


 ドン。

 ドン。


 床に響く音は重く、鈍い。

 走るわけでも、倒れるわけでもない。

 袋は直立したまま、同じ場所で跳び続けている。


「……何だよ、これ」


 周囲は騒がしく、誰かが無線で叫んでいた。

 だが、なぜか目が離れなかった。

 中身は見えない。

 破れてもいない。

 ただの袋だ。


 だから、触ってしまった。


 指先が、ビニールに触れた瞬間——

 世界が傾いた。


 足元が抜けた感覚。

 頭の奥が締めつけられ、視界がぐにゃりと歪む。

 息がうまく吸えない。


「っ……」


 胃がひっくり返る。

 吐き気が一気に込み上げ、喉が熱くなる。

 冷や汗が背中を流れ落ちた。


 怖い、とは違った。

 逃げたいとも思えない。

 ただ、気持ちが悪い。


 身体が、ここにいること自体を拒否している。


「触るな!」


 誰かに腕を掴まれ、強引に引き離された。

 その拍子に膝から崩れ落ちる。

 床が揺れている。

 いや、自分が揺れているのか。


 視界の端で、死体袋はまだ跳ねていた。

 さっきより、少しだけ動きが荒い。


「大丈夫か!?」


 声が遠い。

 耳鳴りがして、言葉がうまく頭に入らない。


 吐き気が収まらない。

 心臓が、やけに速く打っている。


 そのとき、低い声が聞こえた。


「……だから、触るなと言った」


 顔を上げると、知らない服装の男が立っていた。

 落ち着き払った目で、死体袋を見ている。


「な、なんなんだよ……あれ……」


 男は答えなかった。

 ただ、誰かに向かって言う。


「符は効かぬ。

 ここは、陰が濃すぎる」


 意味は分からない。

 だが、その直後、床に白い粒が撒かれた。


 カラカラ、と乾いた音。


 すると——

 死体袋の跳ねるリズムが、少しだけ狂った。


 それを見た瞬間、背筋が冷えた。


 触れてはいけないものだった。

 理由は分からない。

 理屈もどうでもいい。


 ただ一つ、はっきりしたことがある。


 ——あれは、生きていない。

 ——そして、近づいた人間を許さない。


 誰かが言った。


「一般人は下がれ!」


 その言葉に、心の底から同意した。


 もう二度と、

 あの袋には触れない。


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