第18話 C
人が消えるという噂は、十年程前に週刊誌が書いた記事によるものだった。ハイキングには適さないだろう鬱蒼とした木々が生い茂る山の写真が、タイトルのバックに映っていた。遺書を残してその神社に向かった人が、そのまま姿を消すのだという。一年に一人か二人。神社を悪者にするには、ちょっと無理やり感が否めなかった。神主を訪ねたとしても、その後どこへ向かうかなど分からない。ほとんど言いがかりに近い。
けれど……。
何かが引っ掛かるのだ。
すべてが曖昧模糊としている。気ばかりが焦った。その神社へ行ってみようか。いや、準備もなく突撃したところで得るものがあるとは考えにくい。
何だろう。何が気になるのだろう?
考えても、分からなかった。
「ボケてきたのかしら?」
冗談でそう呟いて、少々本気で落ち込んだ。
娘婿である一ノ瀬は、何かを掴んでいたのだろうか。
工藤を通じて、興信所に再び依頼を掛けた。調査対象は「C」。娘の夫が調べた内容の再調査に加え、最近の動きを調べてもらう。
『人を探しているらしい』工藤はそう言った。貢の事ではないのだろうか。考え過ぎだろうか。
的外れかもしれない。それならそれで良かった。可能性は潰しておきたかった。思い過ごしなら、それに越したことはない。
貢が狙われる理由があるとしたら、それは何だろう。
利発な子供だった。何にでも興味を持ち、色々なことを知りたがった。
『大人になったら、お父さんみたいな弁護士になるんだ』
そう言っていた。
仲の良い家族だった。一ノ瀬は娘の静香と大学のゼミで知り合い、彼が司法試験に合格してすぐ、二人は結婚したのだ。
あの二人は、もう居ない。
貢が迷路を怖がるようになったのは、いつからなのだろう。退院してすぐの頃、気晴らしにとテーマパークへ連れて行った。中学生の男の子からしたら祖父母と遊園地に出かけるなど敬老の日のイベントのようなものだったかもしれないが、貢は楽しんでくれた。いや、楽しい振りをしていただけかもしれない。優しい子だから。
そう、あの日、リアル脱出ゲームというアトラクションに入ったのだ。クイズを解きながら閉ざされた部屋から脱出する。年寄り二人の知識と若い頭脳によって、小百合たちのチームは速やかに先へと進んでいった。
終盤に迷路があった。薄暗い通路に歪んだ鏡が並ぶという有り触れた迷路だったが、貢はそこでパニックを起こしたのだ。しゃがみ込んだまま歩けなくなり、小百合に縋りついて泣きじゃくった。どうしようもなくなったので係員を呼び、肩を貸してもらって外に出たのだった。
幼い頃は、お化け屋敷が大好きだったのに。




