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Sample2 同じ空のもとで

生まれても、生まれなくても、世界は変わらない。ただ腕に残る重みと、隣の毛布の温もりだけが、命の痕跡を告げる。祝福でも希望でもなく、虚しいままに、それでも確かに在ったと、せめて記録しよう。始まりと終わりの声が交差しても、何ひとつ変わらず、ただ在るという事実が、ここに刻み込まれるのだ。それが命の輝きだ。


****


 彼女は、その子の重さを腕に感じながら、自分が本当は、子供など望んでいなかったことに気付いてしまった。


 胸に湧いたのは後悔ではなく、嫌悪だった。

 この子は美しくないと思った。

 世界は何も変わらないし、自分も変わらない。

 ただ、生まれた。それだけだ。


 隣の病室で母が毛布を抱き締めている。

 その毛布の中にいた子供は、死んだことですら何も意味を持っていない。


 それを看護師は知っていた。

 哀れむことも、同情することもできない。

 この女は解放されたのだ、と不意に思った。


 看護師はドアを閉めながら、ほんの一瞬だけ、「これが明日なら良かった」と思ってしまう。

 何が、どう良かったのかは考えないようにした。


 光の差す廊下が、ひどく気持ち悪かった。

 始まりも終わりも、同じに見えた。

 生まれたての声と、死にかけた声は、どちらも聞き慣れた音で、何も言っていなかった。


 誰の声でもない産声が、遠くにあった。

 それは誰にも届かない。


 二つの命。

 始まりと、始まらなかったもの。

 どちらも、ただあった。


 価値はない。 何も残らない。


 それでも、それでも。


 始まった命も、

 始まることすらできなかった命も、

 その小さな痕跡を、そっと残そう。


 祝福ではなく、記録として。

 希望ではなく、証として。


 虚しいままで、

 それでも、確かに在ったと。

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