プロローグ
不意を突くような愛の告白に、アリアは戸惑い耳を疑った。
どう考えたって、おかしいとしか思えなかった。だって、いまの自分は服装も髪型も、兄に瓜二つ。男にしか見えないからだ。
「す、好きって俺を? 友だちとして、じゃなく?」
「はい。僕は貴方様の友人になる気はこれっぽっちもありません」
テーブルを挟んだ向こう側で腰掛ける側近騎士アルヴィスは、静かにアリアを見つめている。
夜の帳が下りた屋上庭園は薄暗く、アルヴィスの髪は艶やかな黒。金色の瞳だけが黄金のように輝いている。
熱がこめられた鋭い視線に、アリアは思わず身体を甘く震わせた。
――ねぇ兄様、どうしたらいい……?
心のなかで、双子の兄に問いかける。
自分と同じ白銀の髪と空色の瞳、中性的な容姿をした第一王子である兄。
アリアに代役を頼んで城を出ていった王子は、いまどこで何をしているかもわからない。
アルヴィスが恋い慕って愛を告げたのは、どちらなのか。ベルカント王子か、それとも人知れず兄の代役をこなしている王子の妹なのか。
――どっちにしたって、いまの私はベルカント王子。愛されているのはきっと兄様で、私じゃない。
「おや殿下、こんなときに考え事ですか? 上手く伝わっていないのなら、すぐわかるように示しましょうか?」
カタンとイスが動く音がする。
ブーツと石畳が奏でる小さな足音が闇夜に響き、アリアの隣で止まった。
「僕の言う『好き』は、こういう『好き』です」
アルヴィスはアリアのあごに優しく触れ、そのままくいと顔を上げてくる。
金色の双眸がアリアをとらえ、星が瞬く空には丸い月が浮かんでいた。
――あ……月が三つ。
輝く月があまりに熱くて身が焦がれ、眩しさから目が眩む。
次第に互いの距離がゼロに近づき、アリアは強くまぶたを閉じた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼