団長と指南役
戦場から一リーグほど離れた場所で待つ部隊に合流するため移動していたスターリア。
二人で馬に跨がり軽口を叩き合っていた。
「へっくち!」
「アンナ姫、少し寒うなっております。部隊と合流したら鎧を脱ぎ上衣を纏っては?」
スターリア改めアンナの心配をするガンズ。しかしアンナは何処吹く風とばかりに素っ気ない調子で返す。
「大丈夫よ、多分誰かが噂したんでしょう?それと今の私はスターリア傭兵団の団長スターリアよ。スターシャのアンナ姫はもうあの日死んだのーー!間違えないで、じいじ。あの頃には戻れない…私はすべての帝国を滅ぼすまで戦うことを止めるわけにはいかないんだから。」
スターシャ神聖王国…十年前に帝国三国を相手に果敢に挑んだが滅んでしまった祖国で幸せに暮らしていた時の…過去の話を持ち出され、アンナは少し腹を立てた。そんなアンナの現実と大きく解離する言動と幼少期のままの接し方を見てガンズは顎に手を置き口を開く。
「ほっほ、ならば儂は姫の傅役のじいじではなく、新進気鋭、面目躍如の偉大なるスターリア傭兵団の指南役ですぞ?二人だけだからと少し気を緩めすぎですな。儂も姫の歩む道を微力ながらお手伝いさせて貰いますぞ?」
「うぅ…反省してますぅーだ。これでもじいじにはいつも感謝してますよ?でもあのメンダー王国のボル何とかさん、お金払いは良かったね。メンダーのお貴族さんは皆お金持ってるよねー。これで暫くは安定して移動できそう。」
「はぁ…全く。姫ほどの美貌を目の当たりにすれば男なら誰しも鼻の下を伸ばしましょう。何故自らの価値を理解して居ないのか…ほとほとじいじは不思議でなりませんぞ?」
「じいじ、素に戻ってる。気を抜いてるのはじいじも一緒じゃん。」
「ほっほ、それも然り…そろそろ部隊に合流しますぞ?兜をお被りになってくださいませ。」
「分かってるてば!もう被ってるし!」
頬を膨らませコロコロと表情を変える年頃に育った愛くるしい大姪を見ながらガンズは一人笑い、一度馬を止めて降りると手綱を引き始めた。
彼女の目的の為ならばこの命すら捧げよう…と、ガンズは改めて誓った。願わくばこの者の行く末に祝福を…心の中で亡き祖国流の祈りを捧げ、部隊と合流するのだった。