ガンズとテルノとロストマン
スターリアとウミネコが話していた時、ガンズはテルノとロストマンを連れフォビエに会いに行っていた。
というのも傭兵団幹部による会議前にフォビエの指示によって兵士から手渡された一枚のメモ用紙に会って話をしたいという旨の内容が書かれていたからである。
指定された旗の掛かった天幕の前に辿り着くと警護の兵士に誰何され手紙を渡すと、慌てた様子で戻ってきて中に入る様に促される。
中に入るとフォビエが跪きガンズを迎えた。
「スタネヴィア公爵閣下ご無沙汰しております。先程は不躾な態度、申し訳ありません。お分かりの通り、私はメラニア・フォーツェビッヒです。しかしここではフォビエとお呼び下さい。」
「良い…顔を上げてくれ。今はガンズと名乗るただの傭兵だ。…息災だったか?」
「はい。実家に呼び出され今では近くの都市を任されております。」
「実家…というと、バルナート王家出身だったか…」
「庶子では有りますが、陛下には第五王女の肩書きを頂きました。亡き前夫の元に降嫁しましたが、子は出来ず。今は先程隣に居たマリアスに嫁いでおります。当時王家から連れた女中や護衛に連れられ気付けばバルナート首都へ逃げ延びました。あれから三年になりますね。しかし私は今でもスターシャ神聖王国の臣民だと思っております。」
「そなたの忠義、確と見届けた。義弟…ハレリオはどうした?」
「ハレリオ…あの子は帝国同盟軍の追撃と心労が祟り病に伏せ…一年前に亡くなりました。あんなに良い子だったのに…スターリア団長はアンナ姫様なのですね?」
「それは…お悔やみ申し上げる。儂は婿候補として一番ハレリオを推していたんだが、惜しい若者を失った。あれもメラニア…フォビエに懐いておったからな。機会を設けよう。会ってやってはくれないか?」
「それはもう、是非お願いします。美しく成長なされたのでしょうね。」
「あぁ、あやつの婆さんの若い頃にそっくりだわい。」
「天上の美姫と称された皇后様に…!それはとても楽しみですわ。」
「あぁ。ロストマン、お前も黙ってないで何か言ったらどうだ?」
それまで黙って会話を聞いていたロストマンの方に視線を向けると寡黙な彼は一歩前に出た。
「……久しぶりだな。」
「ロストマン様、お久しぶりですね。王国一の剣星と謳われたあなた様がアンナ姫様をお守りしていたのですね。」
「…昔の話だ、忘れろ。」
「ふふ、相変わらず照れ屋ですね。ヘレナ様のこと、お悔やみ申し上げます…」
「…それがあやつの運命だっただけだ。私はその遺志を継ぐのみ。」
「懐かしい名だな…テルノ、覚えているか?」
「んあ?姉上の事か…俺は幼かったからうろ覚えだが、大層な槍の名手だってのは聞いていた。つうか、ガンズのおっさん何処でその話を?」
「ファッハッハ、儂の耳もまだ衰えちゃおらんわい。」
「んじゃー、俺がウィルメンスの王子だっつうのも知ってる訳だ。怖い怖い…」
テルノは両手を上げ降参と言った態度を取る。
「儂の末娘アレーナの…義息子になる予定だったお主のこと、調べない方が可笑しいじゃろうが…」
「ただ婚約してたってだけだろ?その前にウィルメンスは滅びたし、スターシャも…昔の話だ。」
「あら…じゃあ貴方はウィルメンスの放蕩王子なのですね?」
「だから、昔の話だって…ガンズのおっさんよぉ、俺をからかうために呼んだのか?」
「いや、お主の本音を聞こうと思っての。スターリア…アンナの復讐をどう見る?」
ガンズがそう問うた瞬間、テルノの飄々とした態度が一変し、真剣な目に戻った。
「団長の?無謀だとは思うが…ふぅ…真面目な話俺ぁ、団長に賭けてんだ。あの嬢ちゃんならば無事に復讐を遂げ、国を再建しちまうって夢物語にな。」
「そうか…ロストマン、話を進めておいてくれんかの。」
「…承知…!」
「おい、どういうこった?話を進めるってなんの話だ?」
「その内話すわい。さて、戦が終わったら改めてまた訪ねる。またな…!」
「お待ちしております。御武運を…!」
天幕を出るとテルノがしつこく尋ねるがのらりくらりとガンズが躱す様子が暫く見られた。