開幕
新作始めました。
【亡国の姫の傭兵譚】開幕です。
風の吹き荒ぶ草の根も生えぬ荒野。喧ましい轟音と共に剣と盾を装備した者達が入り乱れ血に昂っている。
互いに膠着状態の続く中、戦場に一陣の風が吹いた。
「者共、頃合いだ!私に続けぇーッ!!!」
「「「ウオオォォオオッ!!」」」
それは正に一陣の風、いや、嵐と言えるだろう。小高い丘の上から騎馬突撃を敢行し、敵軍である西帝国軍の横っ腹を見事に食い破ったのである。
メンダー王国軍第一師団長のボルパーツは年甲斐もなく燥ぐ。
「ハッハッハ、愉快な奴よのう!おい、今のを見たか?丘の上から騎馬突撃なんて誰が考える。……よし、あの者等を支援するように部隊を動かせ。それから全軍で西帝国の糞共に当たり、擂り潰せ!」
「し、しかしながら閣下、奴らは唯の傭兵ですよ!そのような下賎の者共を支援するなど…王国貴族の、引いては王国の面子に関わりますーー」
若い副官が意見を伝える。
そう、傭兵など使い捨ての存在であり金で動くだけの何でも屋だ。
その様な者達を国軍で支援するなど恥辱だろう。だがボルパーツは副官を鼻で笑い、こう答えた。
「ーー面子だと?そんなもん犬にでも食わしておけ!勝機を逃すな!机上では幾らでも推察など出来るがこの様な好機、逃すのは何処ぞのバカ貴族で十分だ。おっと、書記官殿。今のは私言なので記録は止めてくれ。…わかったか?さっさと伝令を走らせろ!」
「はっ!失礼しました!直ちに伝えて参ります!」
「行ったか…ふぅ、この戦い。何とか勝てそうか…」
椅子にドカッと座ると、火照った体を潤すように並々と注がれた水で薄めた葡萄酒を一口含む。何とか首の皮一枚繋がったか、とボルパーツは嘆息する。
やがてボルパーツの呟きは実現した。傭兵団の団長が敵指揮官を一騎打ちで降し捕縛したのだと伝令から報告が為された。
「ふむ…中々有能な様だな。此処に傭兵団の長を連れてこい!」
「直ちに!」
伝令が走り去っていくとボルパーツは傭兵団を率いる人物がどの様な人物なのか興味を持った。
粗暴で有名な〈見えざる手〉や金に煩い〈銀狼の爪〉とは違う。
見えている団旗も剣に鈴蘭の委託が描かれた物だ。
新進気鋭の若手かそれとも何処ぞの田舎出身か…
まぁ、有能そうではあるので取り立ててやることも考えておこう、と一人考えていた。
やがて現れたのはどう見てもチグハグな格好をした騎士崩れという言葉がお似合いの者だった。
西帝国産の籠手に、ザンバニア王国のフルフェイスメット、鎧はホールゲン法国のものだろうか白く目映い輝きに傭兵団の旗章を放っている。
脚甲は我が国メンダーの北部産だろう。
しかしどれもこれも一級品だ。
数々の戦場で鹵獲した名品ばかりなのだろう。
なんともチグハグだが、傭兵らしいと言えばそうなのかもしれない。しかし手練れだろうとボルパーツの感が騒いだ。
手綱に引かれる馬はヨレイナ産の名馬だろうか、体高は大きくすらりとしていて無駄な筋肉もない美しい白馬だ。
その白馬の影から三十年前に滅んだ旧統一帝国風の鎧に身を包んだ老兵が跪き、挨拶を始める。
「閣下お初に御目にかかります。儂はこの傭兵団、〈スターリア傭兵団〉の指南役ガンズと申します。この度はお呼び立て頂き光栄にございます。」
「良い。おい金貨を有りったけ持ってこい!今助力の報奨を用意する暫し待たれよ。ーーしてその方がスターリア傭兵団なる傭兵団の長か?兜を外し面を見せよ。」
「それだけはご勘弁をーー」
「ーーどうした?閣下の命令が聞けないのか?」
「ガンズ、大丈夫。分かりました、これで宜しいでしょうか?」
ボルパーツが兜を外させるとチグハグな傭兵、スターリアなる者の顔を見て驚いた。
美しい金髪に筋の通った端麗な顔立ち、その出で立ちからは想像も出来ない上物だった。
兜を外したくないと、副官が躊躇ったのも分かる。
こんな美女を見たら並みの男はあの手この手を使って率いれようと躍起するだろう。
この様な稀代の美女が何故傭兵を?
それも含めて不思議に思うボルパーツ。
一目見た瞬間、この者が欲しい…
と、ボルパーツは心の奥底から湧き出る情欲を抑えきれなかった。
「はっ、スターリア傭兵団団長スターリアです。閣下のご尊顔を拝す名誉をーー」
「ーーよ、良い。してその方等は我が国と取引はしているのか?しておらなければ是非私と取引して貰えんかの?悪いようにはせん。スターリアと言ったか、そなたの傭兵団ごと是非仕官してほしい!」
「いえ、我々は移動の折り偶々通り掛かったもので。先を急ぎますれば、此度の話はなかった事に。」
「むぅ…そうか。またメンダー王国に立ち寄る際は是非私の元に足を運ぶと良い。此処から北に六リーグ(一リーグ四キロ換算=約二十四キロ)ほど進むとあるピアッツェという都市だ。」
「ピアッツェですか。何度か訪れたことが有ります。とても綺麗な町並みで記憶に残っています。必ずご挨拶に伺いましょう。」
「ほう…」
自分の治める都市を褒められ自尊心を擽られたボルパーツは先程覚えた情欲など何処かに消し飛んだかのように、喜んだ。
逃した魚は大きいが、口約束ではあるが必ずと約束をしてくれた。
また出会えるのならばそれも良かろう、とボルパーツは自身を納得させた。
金貨の詰まった袋を手渡し握手を交わすと、颯爽と馬に跨がり去っていくスターリアの尻を眺めながら、呆けていたボルパーツと同様に他の仕官や副官もスターリアに視線が釘付けだった。
いち早く我を取り戻したボルパーツは戦後処理やこの後の仕事を考え、頭を抱えたのは言うまでもない。
しかしスターリア傭兵団か…
これは陛下に直接報告しなければ、とボルパーツは一人ごちた。
目覚めたら白い空間の中にガシャポン台が有ったので回してみた~出てきたマイナー戦国武将美少女と共に元社畜の俺は真の王を目指す~
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実は上記のめざガシャより先に草案して書いていたのですが、こちらは内容が内容なのである程度の文字数を確保したいため後から連載となりました。