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反撃の銃声が響く


 大げさな銃声に続く、高く耳障りな音は荒野の方々に響き渡った。

 その音の出元を視線で追い、黒い人影へと辿り着いた者は少なからずいた。しかし、それが誰であるかを直感した者は僅かだった。


「ユーリィ嬢?」

「嬢ちゃんか」


 ウォーレンとアリスンは同時に頼りとする名を口にした。届いた音の意味を察して、口々に叫んだ。


「みんな、逃げるなら今だ! 真っ直ぐ東、断崖に向かうんだ! 今なら逃げられる!」

「岩陰でも割れ目でも手近な所へ潜り込め! 竜から身を隠せ! ちゃっちゃと走れぇ!」


 声は四方に散り、指示を聞いた者は弾かれたように、聞こえずとも周りの後を追うように、絶望に暮れていた者達が断崖に目指して、次々と走り始める。

 ウェッブは周囲の者達が動き始める様子を確認しながら、後ろめたさから振り返る。

 遠く、小さく見える黒服と……傍らにある若者の姿。

 一瞬の逡巡を経て、謝罪の呟きを残してから、皆を追って東へと走り出した。


 

 竜誘弾の発する音は聴覚の鋭い生物、とりわけ竜には敵意を含む音となって届く。

 断崖の上にいた若竜も例外ではなく、響き渡った敵意に反応し、鱗に覆われた巨体を空へと舞い上げた。

 敵意の元、若竜に喧嘩を吹っ掛けた一人と見做されているであろうコディは落ち着きを欠いていた。竜と住人達を交互に見遣っていたため、ユーリィから放り渡された短刀を危うく取り落としそうになる。


「コディさんが直ぐに使える得物はそれ位です。他は振るだけでもコツが必要ですから」


 コツどころでは済まないだろうと、背嚢の鉄籠から幾つも突き出たゴツイ柄たちを視界の隅に収めるも、興味は妙に手に馴染む短刀へと移っていた。

 長さ二十インチ(約五十センチメートル)ほど。柄を握って少し引き出す。露わになった片刃は牛刀を思わせる。


「武器にしては変わった形ですね」

「龍刀といいます。小振りですが、刃が麟を掻き分けるように竜身を斬ります」


 背を向けたままで応じたユーリィは、背嚢から小さな麻袋を探し当てると、袋ごと投げて寄越す。


「それは仕掛筒です。赤い蓋を回し外すと三秒後に破裂、強烈な閃光を発します。至近で使えば竜の目すら眩ませるでしょう。但し、より眩みやすいのは人の目であることはお忘れなきよう」


 忙しなく動いていたコディの視線が、こちらに向けて滑空する若竜を見咎めた。

 急く心を抑え、それでも食い気味に問う。


「作戦は?」

「私が若竜の注意を引き、守りに徹します。その間にコディさんは、先ほどお伝えしたあの若竜の習性を鑑みて、思うがままに立ち回り、竜に一撃を――」

「え? ちょちょっ、待ッて、待ってください! 『思うがままに』って、僕が? 一人で!?」

「ええ。先見の無い私が指示を出しても意味がありません」


 顧みたユーリィが至極当然とばかりに答えながら伸ばした手が背嚢へと向かう。灰色の布が巻き付けられた柄を選び取り、引っ張り出す。ズルリと姿を見せた得物は五フィート(一メートル半)ほどの金棒。

 持ち手の部分は両手持ちが出来るほどに長く、ユーリィの掌で握れるほどに細いが、持ち手から先は男の太腿程に太い。その上、表面には物騒なスパイクが無数に配置されていた。


「龍刀を使っても、何をしても構いません。竜に仕掛けて、隙を作ってくれさえすれば、後は私がなんとか押し込んでみます」


 持ち手の感触を確かめながら、ユーリィは片腕だけで金棒を左へ右へと振った。試しで振ったにしては大きすぎる風切り音が鳴った。


「で、でも、僕は剣術どころか近接戦闘すら」


 口にしかけた所で、コディはその先にある弱気を飲み込んだ。


 ――もし、彼女を志望させてしまったら。


 蘇ったユーリィの気力が失われてしまう気がした。非礼極まりない願いを聞き届けてくれた黒騎士の従者の意気にコディが応えなければならない場面であるはず。身を震わせるように息を吸い、深く長く吐いていく。溜息の成分が幾分か混じった気はするが、決意の意気を絞り出すことに成功する。


「すみません。少し……いえ、かなり怖気づいてました。でも、もう大丈夫」

「いいえ。竜を前しては当然です。あの方も闘いの前はボヤくことが多かったですから」


 かつての光景を懐かしむようなユーリィの口ぶりだった。

 コディは〝あの方〟たる黒騎士に奇妙な親近感を覚えながらも、こんな状況でも和らぐユーリィの表情を盗み見て、心の奥底が微かに揺らめいた。


「黒騎士は竜を常に恐れ、正面きって闘うことを極力避けました。貴方と私だけなら尚更です。狡猾に欺き、死角を狙い、間隙を突く。それで、ようやく勝負の舞台に上がれる博打じみた闘いであることを忘れないでください」


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