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取り巻きAの家にお小遣いから融資したら、取り巻きAからとっても心酔されましたわ?

早速有言実行してナディアの家の借金を全額肩代わりして一括で返済。さらにナディアの父へ多額の援助も行い、ナディアの家は無事に没落の危機を逃れましたわ!


「よかったですわね、ナディアさん」


「何もかも全てミシュ様のお陰です!ありがとうございます!」


「うふふ。では代わりに、これからも仲良くしてね」


「もちろんです!」


見ての通りナディアは私に心酔しており、取り巻きAとして私を全力でヨイショしてくれますわ!これでまた一歩、完璧な悪役令嬢に近付きましたわね!












私はナディア・ポーラ・ピエレット。伯爵家の娘なのだけれど、最近父が投資に失敗した。お金は底をつき、多額の借金しか残されていないらしい。領地は担保に入れたりしていないし、領民達を巻き込むことはないと思うけど…先行きに不安しかない。


それでもなんとか、貧乏生活を送ってまで生きてきた。でももうダメかもしれない。借金は利子ばかりが膨らんで返せる見込みがない。今はまだ、なんとかもっているけれど。気が付いた頃にはきっと、完全に没落する。


そして、問題はそれだけではなかった。


「お父様…!やめてぇ…!」


「うるさい黙れぇっ!」


「いやぁーっ!」


父は絶望して、酒に溺れた。酔った父は母を殴る。不幸中の幸いなのか、私達兄弟…子供には手を出さなかったけれど。標的にされサンドバッグ状態になった母は、全身傷だらけで顔もあざだらけ。そして、段々と無口になっていき生気が感じられなくなっていた。


もはや、殴られても声一つ上げない母。兄や弟はそんな父を止められないことを悔しがる。けれど、私達子供にはどうしようもなかったのだ。


日に日に酒の量も増える。そうすると出費も増える。さらに借金が膨らむ。地獄だった。


「誰か助けて…」


耳を塞いで縮こまった私を、兄が抱きしめる。


「ごめんな、ナディア。何もしてやれなくてごめんな…!」


「…お兄様、泣かないで」


「ごめん、ごめん…っ!」


そんな兄に、弟も縋り付く。


「兄様…悔しい…何もできないのが悔しい…っ」


「トーマ…兄様も、悔しいよ…」


誰か、助けて。














そんな中で、パーティーのお誘いが来た。正直それどころじゃない。けど、家では満足に食事もできないので参加してお腹いっぱい食べたいのが本音。すると、すっかりと生気の無くなったはずの母が言った。


「行って来なさい」


「え、でも」


「私がなんとかするわ」


母は、今思えば私だけでも逃がそうとしたのだと思う。私が家の実情を訴えて、私だけでも保護されて欲しいと。結果、自分が父に殴る蹴るの暴行を受けたとしても。


私はそんな母の思いさえ汲み取れず、ただパーティーにみすぼらしい格好で参加してお菓子を貪り食べた。空腹が久しぶりに満たされて、コルセットで締め付けられたお腹がはちきれそう。


しばらくは満足に食べられたことが嬉しくて、でもしばらく経つと虚しさが襲った。そんな私はいつのまにか暗い顔をしていたらしい。けれど、それが良かった。私は、運命の出会いを果たした。


「もし、そこの方」


「え…ミシュリーヌ様!?」


そこには愛情深く正義感が強いことで有名な、公爵家のご令嬢がいた。


「あら、ご存知でしたの?ご機嫌よう、ミシュリーヌ・マチルド・プロスペールですわ。こちら、義弟のルーセルですの」


「ルーセル・ロジェ・プロスペールです。お初にお目にかかります」


「お初にお目にかかります、ナディア・ポーラ・ピエレットです…!」


どうして声を掛けてもらえたのか、私は分からなかった。


「それで、あの…わ、私なんかに何かご用でしょうか…」


「ああ、それなんですけれど…」


「…それなんだけどさ。義姉上は貴女がせっかくのパーティーの席で暗い顔をしているのを見て、心配になったみたいなんだ」


「え…私なんかを心配してくださったのですか…?」


「え…ええ!そうですわ!」


その後に続いた言葉に、私は心底救われた。


「それと、ナディアさん。自分を私〝なんか〟なんて言ってはダメよ」


「え…」


「貴女はこんなにも可愛らしい方なのだから。それに…貴女は将来、きっと私にとってとても必要な人になるわ。そんな気がするの。だから、もっとご自分に自信を持って。大切にして差し上げてくださいな」


「ミシュリーヌ様…!」


「ミシュで良いですわ。長いでしょう?」


そう言って微笑むミシュリーヌ様に、涙が溢れた。


「私…私…!」


「ふふ。大丈夫、大丈夫ですのよ」


私を思い切り抱きしめるミシュ様。


「泣きたい時には我慢をせず泣くものですわ。いい子いい子」


抱きしめられたまま背中を撫でられる。私はさらに泣きじゃくる。泣き止むまでには、かなりの時間を要した。


「泣き止みましたわね。ほら、このハンカチを使ってくださいまし」


「ありがとうございます、ミシュ様」


私は差し出されたハンカチで涙の跡をそっと拭う。


「洗ってお返し致しますね」


「いいえ。今日からお友達になったんですもの。親交の証として受け取ってくださいな」


その言葉に、私は目を見開いた。


「お友達…?私とミシュ様が…?」


「あら…違いますの…?」


不安そうに顔を覗き込まれ、慌てて首を横に振る。


「いえ、恐れ多いですけど…何よりも大切なお友達です!」


「よかったわ、ありがとう。けれど、一体何がありましたの?」


「それが…実は、実家が没落しそうで…」


「え」


戸惑うミシュ様に、私は続ける。


「父が投資に失敗して…」


「まあ、それは大変。援助しますわ」


「え!?」


「お友達の危機ですもの。当然ですわ」


ミシュ様は少し優しすぎると思う。けれど私は、それに救われた。


「え、え、そんな!申し訳ないです!」


「義姉上、それは流石にお人好し過ぎます!」


「いいえ、必要なことなんですの」


そんなミシュ様の言葉に私は困惑する。必要なことだなんて、何故かと。


「え…」


「…それは何故?」


「今ここで、助けられるお友達を見捨ててしまっては私はきっと後悔致しますわ。私自身のために、私は私のお友達を助けたい」


「ミシュ様…!」


「…はぁ。優しい義姉上らしいですね。僕としては優しすぎると思うのですが…」


ミシュ様の美しすぎる心に、私は心から感謝し、そして憧れた。


「大丈夫ですわ。お小遣いの範囲でなんとかしますわ。とりあえず、借金は全額肩代わりして一括で返しておきますわね。あと、少しばかり援助もしますわ」


「ミシュ様…何から何まで、本当にありがとうございます…!」


「いいえ、良いんですのよ。お友達ですもの」


そうこうしているうちにパーティーは終了した。お開きとなりみんな帰る。名残惜しいけれど、ミシュ様と別れて帰った。


帰ってきた私を見て、いつも以上にボロボロに殴られた母は絶望した顔をしていた。何故帰ってきてしまったのかと思ったのだろう。そんな母と、不機嫌な父、兄や弟達に伝える。


「ただいま、みんな。私、今日公爵令嬢のミシュリーヌ様とお友達になったよ。それで、ミシュリーヌ様が借金を全額肩代わりして一括で返済してくれるって」


「…え?」


「なに!?それは本当か!?」


お父様とお母様は目を見開いて驚いた。そしてお父様の方は私を抱きしめる。


「よくやった!」


正直、お父様に抱きしめられても嬉しくない。けれど、よかった。本当に良かった。


そして次の日に、早速ミシュ様は有言実行してくれた。我が家の借金を全額肩代わりして一括で返済してくれた。さらにお父様へ多額の援助も行ってくれた。我が家は無事に没落の危機を逃れた。


「ミシュリーヌ様には本当に感謝に尽きないわ。ナディア、ミシュリーヌ様によく仕えなさい。貴女にも本当に感謝しているわ」


「はい、お母様!」


お父様はその日以来、お酒を一滴も飲まない。お母様に暴力を振るうこともなくなった。お母様はしばらく経つと怪我もあざも完全に治った。それに伴って生気も戻り会話も増えた。兄や弟も今では元気に過ごしている。


でも私も兄弟達も、父がしたことは決して忘れない。許さない。絶対に。…それでも、母は父の隣に立つから私達も〝母の〟そばにいるけれど。


「…お母様はお父様のこと、どう思っているの?復讐や縁切り、しないの?」


「貴女にもそのうちわかるわ。貴族の結婚は単純じゃないの。…けれど、きっともう大丈夫。何もかもが貴女のおかげよ。愛するナディア、ありがとう」


優しいお母様が戻ってきて本当に良かった。全部は解決しない。理不尽なことも多い。けど、この不安定な幸せを決して壊したりしない。大切にお母様を、兄弟達を守る。


打算ありきで申し訳ないけれど、そのためにも私はミシュ様に尽くすつもりだ。でもそれだけじゃない。心からミシュ様を尊敬しているのも本当。


これから先、たくさんミシュ様のために役立ちたいなぁ。

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