取り巻きAを見つけましたわ!
ルーセルが貶されてブチ切れた騒動の後に人気者になった私。今日も今日とてルーセルと共に割と規模の大きい子供がメインのパーティーに参加することになりましたわ。ルーセルは、当然ながら馬車はまだ怖いようだけど隣に座って手を握っていてあげれば、初対面のあの時ほどは青ざめない。
「ルーセル。無理はしていない?大丈夫?」
「はい、義姉上。義姉上さえいてくれれば、僕は大丈夫です」
「ふふ、もう。…ルーセル。私に尽くしてくれる貴方は私の大切な宝物よ。だから、辛い時はちゃんと言ってね?」
ルーセルの瞳を見つめながら言う。ルーセルは、乙女ゲームの進行にとっても、私の悪役令嬢としての素晴らしい演技にとっても必要不可欠な存在。悪役令嬢のための奴隷。絶対に失うことは出来ないのですわ。
「義姉上…はい、無理はしないと誓います」
「良い子。可愛いわ」
「義姉上…」
ルーセルの頭を撫でてやればその顔が真っ赤に染まる。リゼットにイチゴ味の飴をあげるのと同じで、良い子にしていればルーセルの頭を撫でてやるのですわ。この子供扱いが、ルーセルにとっては嬉しい様子ですわ。まあ、子供なんだからそうですわよね。
そして馬車が止まる。馬車から降りて、それでもルーセルが落ち着くまではと手を握ったままで。
すると子供達の視線が私達の握った手に集まりましたわ。けれど私が義弟を大切にしているのは周知の事実。みんな微笑ましげに眺めるにとどまり、馬鹿にしてくることはなかったですわ。…というより、あの騒動で私の義弟を馬鹿にはできないとみんなに伝わったのもあるでしょうけれど。
「ルーセル、あちらに美味しそうなお菓子がありますわ!食べに行きましょう?」
「はい、義姉上」
ルーセルの手の震えが収まったところで手を放し、パーティを楽しむ。子供のためのパーティーなので、お菓子が豊富でとても楽しい。食べることは大好きですわ!
「…あら?あの方は」
ふと、視線が一人の少女に向かう。楽しいパーティーの席で、一人だけ暗い顔をしていたから目立っていた。
よく見てみる。すると、彼女の顔には見覚えがあった。あれは…将来の私の取り巻きA!?
モブキャラAじゃない!?
「…義姉上?どうなさいました?」
「ちょっと私、野暮用が出来ましたわ」
「え」
「ルーセルはそこでパーティーを楽しんでいて?」
言うだけ言うとルーセルを放置して取り巻きAの元へ行く。ルーセルはそんな私を追いかけてきたが、まあ好きにすれば良いですわ。聞かれて困る会話はしませんもの。
「もし、そこの方」
「え…ミシュリーヌ様!?」
「あら、ご存知でしたの?ご機嫌よう、ミシュリーヌ・マチルド・プロスペールですわ。こちら、義弟のルーセルですの」
「ルーセル・ロジェ・プロスペールです。お初にお目にかかります」
「お初にお目にかかります、ナディア・ポーラ・ピエレットです…!」
ナディア・ポーラ・ピエレット。そんな名前でしたのね。
彼女は〝瑠璃色の花束を君に〟のモブキャラ。将来の私の取り巻きで、取り巻きAと表示されるほどのモブキャラ。可哀想。
伯爵令嬢で、茶髪に黒真珠の瞳。モブキャラにしては可愛らしい方ですわ。なんだかんだで男子から人気が出るタイプのちょうどいい可愛らしさですわね。
「それで、あの…わ、私なんかに何かご用でしょうか…」
「ああ、それなんですけれど…」
どうせなら、早いうちからこちら側に取り込んでおこうと思って近付いただけなんですわよね。なんて言おうかしら?私は完璧な悪役令嬢。初動が肝心ですわ。より良い、取り巻きAを虜にするような言動を。思いつけ、私!
「…それなんだけどさ。義姉上は貴女がせっかくのパーティーの席で暗い顔をしているのを見て、心配になったみたいなんだ」
「え…私なんかを心配してくださったのですか…?」
「え…ええ!そうですわ!」
全然違うけれど、この流れに乗りますわ!
「それと、ナディアさん。自分を私〝なんか〟なんて言ってはダメよ」
「え…」
「貴女はこんなにも可愛らしい方なのだから。それに…貴女は将来、きっと私にとってとても必要な人になるわ。そんな気がするの。だから、もっとご自分に自信を持って。大切にして差し上げてくださいな」
「ミシュリーヌ様…!」
「ミシュで良いですわ。長いでしょう?」
そう言って微笑めば、ナディアは大きな瞳から涙を溢れさせる。やばい、私が泣かせたと思われると評判が落ちますわ!?
「私…私…!」
「ふふ。大丈夫、大丈夫ですのよ」
ナディアを思い切り抱きしめる。私の腕の中で泣くナディア。横目でチラッと確認すれば、子供達は何故か温かい目で私達を見つめていた。よし、評判は落ちてない!
「泣きたい時には我慢をせず泣くものですわ。いい子いい子」
抱きしめたまま背中を撫でれば、ナディアはさらに泣きじゃくりますわ。
泣き止むまでには、かなりの時間を要しましたわ。