なんだかみんな、ヤキモチ妬きだなぁと生温い視線を送って来ますわ!?
「まあ…あのミシュリーヌ様があんな可愛らしい嫉妬をなさるなんて」
「本当にお可愛らしいな」
「意外とヤキモチ妬きですのね、ミシュリーヌ様って」
…あら?あらあらあら?私の思っていた反応と全然違いますわ。なんだか生温い視線を感じますわ!?
「えっえっと…」
ど、どうしましょう。私ちゃんと悪役令嬢として完璧な演技をしたはずなのに…!ちゃんと評価されていませんわ…!?
「あの、お嬢様!本当にごめんなさい!許してください!」
「ダメですわ!私、こんなにも殿下を愛していますのよ!?それを横から掻っ攫う真似、許しませんわ!」
ぷいっとソランジュから顔を背ける。ちらっと横目でソランジュを見れば、絶望感溢れる顔をしていた。そうそう、その顔が見たかったのですわ!やっぱり私の悪役令嬢の演技は完璧ですわ!
「あの、義姉上。どうかソランジュを許してやってください」
「嫌ですわ!」
ルーセルの仲介も物ともしない私!ふふ、小物ムーブ大成功ですわ!
「そんなに怒らなくても、兄上はミシュにぞっこんなんだから大丈夫だよ、ミシュ」
心にもないことを言って慰めて宥めてくるセラフィンも無視!うふふ、私今最高に悪役令嬢をしていますわ!
「…み、ミシュ様!聖女様はミシュ様のピンチを救った大恩人なのですし、少しくらいは許して差し上げませんか?」
ナディアが優しく諭してきますが、何を言われても無駄ですわ!
「嫌ですわ」
「ミシュ様…」
ナディアが困ったような表情をしますが、無視ですわ。だって私、悪役令嬢ですもの。
「ミシュ様、可愛いです!」
…何故かオリアーヌはニヤニヤしていますけれど。無視ですわ。
「お、お嬢様に嫌われた…」
絶望感溢れるソランジュ。そうそう、それでいいんですのよ。私、それを求めておりましたのよ!
とはいえ、罪悪感がないかと言われれば大ありですけれど。今の今まで仲良くしていた子を虐めるというのは、やはり心にきますわ。それでも私は悪役令嬢!妥協はできませんのよ!
「…ミシュ」
ふと、後ろから抱きしめられましたわ。
「…え?」
シルヴェストルが私を抱きしめていますわ!?
「え?え?殿下?」
私が状況を把握しきれずわたわたしていると、周りはさらに微笑ましげな視線を送ってきますわ!?
「まあまあ、ミシュリーヌ様のあの可愛らしい慌てぶり!」
「本当にミシュリーヌ様は天使だな」
「大好きな王太子殿下に抱きしめられて、嬉しそうですわね」
全っ然嬉しくありませんわ!悪役令嬢として完璧なムーブをかましていたのに、邪魔しないでくださいませんこと!?
「あの、殿下、離してくださいませ」
「だめ、離さないよ」
「何故ですの!?」
「何故って、可愛い婚約者が可愛いヤキモチを妬いてくれて嬉しいから」
そう言ってシルヴェストルは抱きしめた体勢のまま、私の頬にキスをしてきやがりましたわ!?
「きゃっ!」
思わず悲鳴をあげてしまいますわ!しかし周りの反応は…。
「大好きな王太子殿下にキスされて、悲鳴をあげるほど嬉しいんですのね。ミシュリーヌ様は本当にお可愛らしいわ」
「王太子殿下も、こんなところで大胆だな」
「そりゃあ、あんな完璧超人に見えるミシュリーヌ様が可愛い嫉妬を見せたんだ。王太子殿下だって我慢出来ないさ」
いやいや、シルヴェストルは私が好き好き攻撃をすると顔を真っ赤にするほど怒りますのよ!?可愛い嫉妬、だなんて思うはずありませんわ!?
きっとこれも、なにかの嫌がらせに違いありませんわ!シルヴェストルの馬鹿ー!せっかく悪役令嬢として最高のムーブをしていましたのにー!
「ミシュ、ヤキモチを妬いてくれてありがとう。ミシュの可愛い嫉妬がとても嬉しい」
「…そんなこと思ってないくせに」
「拗ねないで。本当にミシュの気持ちは嬉しいんだ」
心にもないことをよくスラスラ言えますわね。
「拗ねた顔も可愛いよ、ミシュ」
また頬にキスをするシルヴェストル。しつこいですわ!
「もう!やめてくださいませ!」
「ミシュが僕からの愛を信じて、許してくれるまでやめないよ」
この…!クソ王太子、なんのつもりですの…!?ですが、流石に担任の先生が来るまでには離してもらわなければいけませんわ。くうっ!せっかく良い感じで悪役令嬢ムーブを出来ていたのに!悔しいですけれど、仕方ありませんわ!
「わ、わかりましたわ。殿下のお気持ちはよくわかりましたわ!だから離してくださいませ!」
「機嫌、治してくれた?」
「ええ!もちろんですわ!」
「ソランジュのことも許してくれるかい?」
「わ、わかりましたわ!わかりましたから!」
担任の先生が来ちゃうー!不埒な生徒だと思われちゃうー!
「じゃあ、離してあげる。ほら、ソランジュに意地悪言ってごめんなさいは?」
「ごめんなさい、ソランジュ…」
「い、いえ、そんな!私こそごめんなさい、お嬢様。王太子殿下も」
シルヴェストルは頭を下げて謝るソランジュにウィンクする。
「火種を持ち込んだのは僕だから気にしないでおくれ。でも、そのプレゼントは受け取っておいて欲しいな」
「は、はい」
「ミシュも、大切なお友達はそう簡単に手放しちゃダメだよ。でも、嫉妬させて本当にごめんね。愛しているよ、ミシュ」
「…私も愛していますわ、殿下」
愛しているよ、なんて大嘘を吐くシルヴェストルに、好き好き攻撃で対抗する。でも、何故か今日はご機嫌な様子のままなシルヴェストル。余裕のある表情がムカつきますわ!




