暗殺者になるはずだった専属護衛のお兄さんとその妹もお祝いしてくれますわ
部屋に戻ってプレゼントの確認もした後、お風呂に入って部屋着に着替えましたわ。リゼットから早速美顔器も使ってもらってマッサージを受けた後、そろそろ寝ようかしらと思っていたところで部屋のドアがノックされましたわ。
「はい、入っていいですわよ」
私がそう言えば、ネルとネイが部屋に入って来ましたわ。
「あら、ネル、ネイ。どうなさったの?」
「その、朝から護衛の仕事で中々お祝い出来なかったのですが…」
「お嬢様、お誕生日おめでとうございます!」
「お誕生日おめでとうございます、お嬢様」
「まあまあ、今年も祝ってくれるのね。ありがとう」
ネルとネイもお祝いしてくださいましたわ。嬉しいですわ。
「これ、私とネルお兄ちゃんからの合同のプレゼントです!」
「ふふ、ありがとう。開けてみますわね」
プレゼントを開封すると、そこには呪文の刻印された木で出来た杖。
「まあ。これは?」
「それは魔法に使う杖、らしいです。呪文の詠唱を省略して魔法を繰り出せる、優れものだそうです」
「まあ!そんなすごいもの、すごく高かったでしょう?大丈夫なの?」
「魔法学をすごく頑張っているお嬢様に、なにか出来ることはないかなって考えて。そしたらそれを見かけて…正直すごく高かったですけど、お嬢様の専属護衛として働いたお金でお小遣いを貯めて、買えました!」
「ネイ…」
すごく嬉しそうにそう語るネイに涙が出そうになる。私は優しさや正義感ではなく、あくまで身の安全のためにこの子たちに手を差し伸べたのに。なんていい子たちなのかしら。
「ネル、ネイ、ありがとう。本当に、大事にしますわ!」
「お嬢様のお役に立てて嬉しいです!」
「思う存分使いまくってください」
「ええ、大事に使いまくりますわ!」
リゼットといい、ネルとネイといい。私は従者に恵まれていますわね。両親だって、私を大切にしてくださいますわ。義弟にだって従兄にだって友達にだって愛されていますわ。
正直、この状況を考えれば悪役令嬢なんて目指さずに良い王太子妃を目指した方がいいのでしょう。大切にすべきものが多い中で、破滅の未来に突き進むなんて正気の沙汰ではないですわ。
…それでも、私は完璧な悪役令嬢令嬢を演じてみせますわ。前世では叶えられず終わった演技の道。ここで諦めることは出来ませんの。
「ネル、ネイ、リゼットも聞いて」
「はい、ミシュお嬢様」
「どうしました?」
「なにかありましたか?」
これは私の決意表明。
「ごめんなさい。正直、私、多分みんなに将来迷惑をかけますわ」
「え?ミシュお嬢様、どうしたんですか?」
「なにかありましたか?」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
心配してくれるリゼットとネルとネイ。
「なにかあったわけではないの。でも、きっと迷惑をかける場面は必ずあると思いますの」
「ミシュお嬢様…そんな心配する必要ありません!むしろどーんと迷惑をかけてください!そもそも私達、きっとそれを迷惑だなんて思わないですから」
「お嬢様からの迷惑なんて、きっと可愛いものでしょうしね」
「むしろお嬢様にはたくさん甘えて欲しいんです!ぜひぜひ甘えてください!」
「リゼット…ネル…ネイ…ありがとうございます。嬉しいですわ」
本当に、この子たちがそばにいてくれてよかった。安心して夢に向かって突き進める。
「迷惑はかけると思いますけれど、その分その時にはしっかりと償うつもりですわ。社会にも貢献して、あなた達にも報いますわ。だからどうか、これから先何があってもそばにいてくださいませんこと?」
「もちろんです、ミシュお嬢様!」
「たとえ地獄にだって、お供致します」
「そばでお守り致しますから、ご安心ください!」
「…ふふ、本当に心強いですわ」
これから私は、学園に入学しソランジュをたくさん傷つける。そして、悪役令嬢として完璧に振る舞う。そんな姿を見せても、きっとこの子たちは私について来てくれる。そんな確信がある。
家にもこの子たちにも、色々な迷惑をかけることにはなるけれど。私はきっと、夢である演技の道を極めることを叶えてみせますわ!
「ふふ。…ありがとう。あなた達と話して、幸せ過ぎて揺らぎそうだった覚悟が決まりましたわ。私は絶対に夢を叶えてみせますわ」
「夢、ですか?ミシュお嬢様」
「ええ。今は話せませんけれど、いつかお話しますわ。その時には、どうか笑わずに聞いてくださいね」
私がそう言って微笑めば、強く頷いてくれるリゼットとネル、ネイ。
「笑ったりなんて絶対しません!」
「お嬢様の夢、陰ながら応援しています」
「お嬢様なら、どんな夢でもきっと叶えられると思います!大丈夫ですよ!」
ああ、やっぱり私は、きっとどの世界を探しても一番幸せな悪役令嬢ですわ!
私は私を信じて愛してくれる人たちを一度裏切ることになってしまうとしても、後悔の無いよう悪役令嬢をやりきりますわ!
でも、その後は懺悔のために生きていきますわ。だからどうか、人生を賭けた私のわがままを今だけは許してくださいませ。




