第一王子と第二王子が来ましたわ
さて。朝食も済ませていよいよ誕生日パーティーの準備ですわ。といっても、使用人達が慌ただしいだけで私はリゼットにされるがままお洒落に着飾るだけですけれど。
「はい、ミシュお嬢様。今日もお美しいですよ!」
「ありがとう、リゼット。さあ、一番乗りは誰かしら」
そして最初の馬車が着いた。あの仰々しい馬車は…。
「王家の馬車ですわね。第一王子殿下と第二王子殿下かしら」
「はい、ミシュお嬢様」
そして馬車から降りてきたのはやはりシルヴェストルとセラフィン。ちなみにシルヴェストルはもう王太子位を継承している。
「おはよう、ミシュ」
「おはようございます、殿下」
「お誕生日おめでとう。君はますます美しくなったな」
「まあ、殿下こそすごくかっこよくて素敵ですわ」
「…君は本当に変わらないな」
なお、今でも押せ押せで好き好き攻撃作戦は継続中ですわ!シルヴェストルはそんな私に顔を真っ赤にして怒り、ぷいっと顔を背けましたわ!ふふ、嫌われ作戦絶賛成功中ですわ!
「おはよう、ミシュ。ミシュは相変わらず兄上が大好きだな」
「おはようございます、第二王子殿下。ええ、私は王太子殿下が大好きですわ!」
嫌がるシルヴェストルを見ながらニヤニヤとして言う。ふふふふふ!やはり悪役令嬢は婚約者に嫌われてこそなんぼのものですわね!
「はは。だって、兄上」
「からかってくれるなよ、セラフィン。まあ僕だって…」
「なんですの?」
「…なんでもない」
そっぽを向くシルヴェストル。うふふ、こんなに嫌われている婚約者に、こんなにしつこく好き好き攻撃。悪役令嬢たる私、万歳ですわ!
「…そうだ、ミシュ。はい、プレゼント」
「ありがとうございます、殿下。開けてみても?」
「もちろん」
「…まあ!素敵なネックレス!」
シルヴェストルからのプレゼントは大きなホワイトダイヤモンドのついたネックレス。
「ふふ、殿下!ありがとうございます!」
「そこまで喜ばれると用意した甲斐があったよ」
シルヴェストルはさすが王太子でメイン攻略キャラクターですわね。嫌いな婚約者にもこんなに素敵なプレゼントをするだなんて!悪役令嬢でなければ惚れてしまうところですわ。まあ、私は完璧な悪役令嬢の演技中ですのでシルヴェストルに惚れたりなんかしませんけれど。
「僕からも一応プレゼントがあるんだけど。はいこれ。誕生日おめでとう」
「まあ。第二王子殿下、ありがとうございます」
「開けてみなよ」
プレゼントを開けると、そこには身代わり人形。
身代わり人形とは、持ち主の不幸を代わりに受けてくれる便利な魔道具ですわ。
「まあ、これすごく高いはずですけれど、よろしいの?」
「僕はこれでもこの国の第二王子だぞ?気にするな」
「ふふ、ありがとうございます。これからも仲良くしてくださいね」
「まあ、お前は将来の義姉だからな。当然だ」
ふふ、セラフィンはツンデレですわね。第一王子には嫌われて、その弟の第二王子からは認められる。そういうのも悪役令嬢っぽくて良くありませんこと?うんうん、色々上手くいっていますわね!
「では、ささやかなパーティーですけれど楽しんでくださいませ」
「ん。ありがとうな」
「僕は婚約者として君の隣に居座るけどね」
「ふふ、嬉しいですわ」
その後たくさんの貴族がパーティーにきましたわ。私はその対応に追われて、シルヴェストルはそんな私の隣でにこやかに過ごしていましたわ。王太子も大変ですわね。嫌いな婚約者のためにここまでしないといけないなんて。
ところでいつも思うのですけれども、どうして私の誕生日パーティーなのに私がゲストをもてなさないといけないのかしら。普通逆ですわよね?まあいいですけれど。
「お、これ美味い」
セラフィンは自由にパーティーを楽しんでいますわ。羨ましいですわ。今度セラフィンの誕生日祭の時は逆に私が楽しんでやりますわ。
「ミシュ」
「なんですの?殿下」
来場者の方々への対応も大分落ち着いてきた頃、シルヴェストルに声をかけられる。なにかしら?
「ああ、いや…君があまりにも美しくなったから、その笑顔を向けられる他の男性に嫉妬してしまいそうで」
「…まあ」
お世辞がお上手ですわ。
「でも…笑顔を他の男性に見せないで、なんてかっこ悪いよね。ごめん」
困ったように笑うシルヴェストル。シルヴェストルは悪役令嬢であり、好き好き攻撃をしてくる私が嫌いなはず。まさか本当に嫉妬してくれたわけではないでしょうし、どういう意味なのかしら?
「んーと…」
…まあ、適当に好き好き攻撃しつつ躱しておけばいいか!
「大丈夫ですわ、殿下」
「え?」
「私がこんなにも心を奪われるのは殿下だけですわ!さすがに男性に笑顔を向けるの禁止、とかは無理ですけれど、私が愛するのは殿下だけですわ!信じてくださいませ」
そう言ってタイミングを見計らって誰にも見られないようこっそりと、そっと頬にキスをすればシルヴェストルの肩が跳ねた。また怒りで顔を真っ赤にしている。嫌いな婚約者からのキス攻撃、ますます私を嫌いになるでしょう?
「…君は本当に大胆だな」
「うふふ!」
「お転婆もほどほどにしておかないと、また怒られるよ」
「その時は一緒に怒られてくださいませ」
「はは。もう。仕方がない子だね」
うんうん、私素晴らしい演技力ですわ!




