奴隷(義弟)ゲットですわ!
「それで、お父様もお母様もどうしましたの?お忙しいでしょうにお二人でいらっしゃるなんて、珍しいですわよね?」
「ああ、それなんだが」
「ミシュ、よく聞いてね。貴女に弟ができるのよ」
ミシュリーヌ・マチルド・プロスペールの弟…というと、義弟となるルーセル・ロジェ・プロスペールですわね。銀髪に赤の瞳のイケメンですわ。〝瑠璃色の花束を君に〟のヒロインであるソランジュの攻略対象の一人ですの。
ルーセルは両親を幼くして亡くし、遠縁の親戚であるミシュリーヌの両親に引き取られる。ミシュリーヌの両親は、ちょうど公爵家を継がせる優秀な男の子が欲しいと思っていたところでタイミングが合ったのだ。
そしてミシュリーヌは、ルーセルが気に入らずルーセルをいじめ倒す。ルーセルはミシュリーヌを嫌い、心を閉ざす。それをヒロインであるソランジュに癒されるのがルーセルルート!
「まあ、弟ですの?」
私はそこまでの情報を知ってるとはいえ、本来なら知っていては不自然。私はすっとぼける。名演技ですわ!
「ええ、そうよ。ルーセル・ロジェ・セタンタという遠縁の親戚の男の子よ。両親を馬車の事故で亡くしたの。これからはルーセル・ロジェ・プロスペールとなって、この家を継ぐために頑張るのよ。ミシュ、仲良く出来る?」
「…ええ。当然ですわ!大切にしますわ!」
これは本当。私は本物のミシュ以上の悪役令嬢を目指す。ならば、ルーセルをいじめ倒すのではなくルーセルを私の奴隷として扱うのよ!そして私は、自分のモノは大切にする主義。つまり、ルーセルとは仲良くするし大切にする!嘘ではない!
「やはりミシュはいい子だな。よかった」
「なら、早速ルーセルをお迎えに行きましょう。もうすぐルーセルを乗せた馬車が着くわ」
「はい、お母様」
私はリゼットも連れて、ルーセルを出迎えにいった。
しばらくするとルーセルを乗せた馬車が着いた。馬車から降ろされたルーセルは顔色が悪い。多分、純粋に馬車酔いしただけではなく両親を亡くした原因である馬車での移動が負担だったんだろう。
気持ち悪そうに口元を隠したルーセルに、私は駆け寄った。
「大丈夫、大丈夫よ」
「え…」
挨拶もすっ飛ばして、ルーセルを抱きしめて背中を撫でる。
「吐いてもいいわ。我慢したり無理しないで。いい子いい子」
優しく抱きしめたまま背中を撫でていると、ルーセルの震えと少しだけ荒かった呼吸も落ち着いた。
「…ありがとうございます」
私から離れると涙目だが控えめな笑顔でお礼を言うルーセル。私もにっこり笑って返す。
「ふふ、落ち着いて良かったわ。よく頑張ったわね、偉いわ」
頭を撫でてやれば、ルーセルは赤面した。
ルーセルは私の奴隷。私の所有物。物事には飴と鞭が必要。今回は、その飴をあげただけ。これも悪役令嬢として必要な振る舞いですわ!
「…ふふ。ラウル様、ミシュとルーセルは心配なさそうですわね」
「ああ、私達はつくづく良い娘を持った」
頷き合う両親。誤解ですわ。けれど、悪役令嬢たるもの両親から愛されてなんぼのもの。さらに、表向きは優しく、裏では奴隷として可愛がるとはまさに悪役令嬢の所業。むしろこれも悪役令嬢を演じるにあたっていい傾向ですわよね。
「ルーセル。この間も保護施設で挨拶したが、これからお前の義父となるラウル・オダ・プロスペールだ。馬車で移動は、正直苦痛だっただろう。だが、この長距離を歩かせるわけにも行かなかった。転移魔法はコストがかかりすぎるし、仕方なかったんだ。本当に申し訳なかった。よく頑張ってくれたな」
「ルーセル。貴方の義母となるマチルド・ローザ・プロスペールです。貴方と家族になれて嬉しいわ。どうか、ラウル様やミシュ共々よろしくお願いしますね」
「…ルーセルです。今日からルーセル・ロジェ・プロスペールとなりました。よろしくお願いします、義父上、義母上、義姉上」
ぺこりとお辞儀をするルーセル。さすが将来乙女ゲームの攻略対象となるだけあって、その様すら絵になる。
「ミシュリーヌ・マチルド・プロスペールよ。これからよろしくね。お父様、お母様。よかったら私が直接ルーセルに屋敷の中を案内してもいいですか?」
「ふふ。まあまあ、ミシュったら可愛い義弟に張り切っているのね。魔法学の復習はいいのかしら?」
「もちろんそれもあとで頑張りますわ!」
「なら、大人しくミシュに案内を頼もうか。ルーセル、構わないかな?」
「はい、義父上。義姉上、案内ありがとうございます。頑張ってすぐに覚えますから、よろしくお願いします」
私はにっこり笑って答える。
「ええ。ふふ、さあ行きましょう?」
最初に飴を与えておき、周りからの印象も良くしておきながら必要な場面になれば奴隷として扱う。ふふ、完璧な悪役令嬢ムーブだわ!さすが私、やっぱり天才ね!
その後私はルーセルを連れて屋敷内を案内し、そのついでに中庭でルーセルとアフタヌーンティーを楽しんだ。ルーセルは美味しい美味しいとお気に入りのお菓子を食べる私を見て、自分の分のお菓子も少しだけ差し出してくれた。奴隷として、良い心がけだわ!