いよいよ本格的に第一王子妃教育を受けることになりましたが、貴族のマナーって面倒くさいですわね。
「今日からいよいよ本格的に第一王子妃教育を受けることになりますわね…」
私は馬車の中で呟く。ああ、億劫ですわ。でもこれも完璧な悪役令嬢を演じるため!頬を自分でパチンと叩いて気合いを入れますわ!
「お嬢様、着きましたよ」
リゼットと共に馬車を降りて、王城に入る。城の使用人に案内されて、部屋に入り講師を待つ。
「お待たせ致しました」
講師が入ってくる。
「お初にお目にかかります。ご存知かと思いますが、私ミシュリーヌ・マチルド・プロスペールと申しますわ。今日からご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致しますわ」
「これはご丁寧に。講師を務めさせていただきます、ジョゼフ・モハメド・エメリックと申します。以後お見知り置きを」
うんうん、なかなか良さそうな先生で安心しましたわ!
「ミシュリーヌ様は最近、孤児院に寄付をしてパンなどの主食も贈られているとか」
「パンなどの主食というより、パンだけですわ。美味しいパン屋を知ったので、孤児院の子供たちにも分けてあげたくて」
「その優しさはミシュリーヌ様の美徳ですね。そのお気持ちをいつまでもお忘れなきよう」
「ふふ、ありがとうございます。肝に銘じますわ。けれど、もうそんなに噂になっておりますの?」
私が小首を傾げれば、先生は頷いた。
「貴族社会とは、狭い世界です。良い噂も悪い噂も全て広まるのが早い。ミシュリーヌ様の活躍はもう皆の知るところです。ですから、ミシュリーヌ様。どうか、自分の一挙手一投足が注目されているのだとご自覚くださいね」
「わかりましたわ」
完璧な悪役令嬢たるもの、常に気を張る必要がありますわね。
「では、早速講義に移りましょう。…と言いたいところですが、まずはミシュリーヌ様の勉強がどこまで進んでいるか確認させていただきます」
「あら?家庭教師の先生から聞いておりませんの?」
「…聞いてはいるのですが、ミシュリーヌ様のご年齢でそこまで勉強が進んでいるとは信じがたいのです。目の前でテストを受けていただくのが一番手っ取り早いでしょう」
「あらまあ…うふふ。たしかにこの歳で貴族学園の生徒レベルの教養を身につけている、なんて信じがたいですわよね。分かりましたわ。問題用紙をくださいまし」
にこりと笑ってそういえば、先生はどこかホッとした顔をする。
「ミシュリーヌ様は素直な方ですね。驕りが見えず、謙虚です。その振る舞いは第一王子殿下の将来の妃として、とても素晴らしいと思います」
「うふふ。もっとじゃじゃ馬だと思われました?」
「いえいえ…」
そして私は、用意された机と椅子を使って先生から渡された問題用紙を解き始める。最初は優しい眼差しで見守ってくれていた先生。しかし私がどんどん問題を解いていくにつれて、先生の表情は驚愕に変わる。
「…これはすごい」
問題用紙を全て終わらせ提出し、答え合わせをしてもらった頃には、流石に帰る時間になっていた。それだけ大量の問題を解かされたのだ。そして先生は私に拍手を送ってくださる。
「素晴らしい。魔法学とマナー以外の教養は既に習得済みというのは、どうやら本当のことのようですね。では、魔法学とマナーを中心に講義をしていきましょうか」
「うふふ。認めていただけたようでよかったですわ」
「まさに神童と呼ぶに相応しいですね。これから教えていくのが楽しみです」
「改めてよろしくお願い致しますわ」
「こちらこそよろしくお願い致します。では、今日はここまでですね。明日から本格的に授業を始めますので、そのおつもりで」
そう言いながら先生は見送ってくださいましたわ。




