ヒロインの聖女(予定)をこっそり見に行きますわ!
悪役令嬢として、周りを従える私。教養も身につけて、周りからの評価も得て、今のところ完璧ですわ!
となれば、後の心配は。そう、ライバルとなるヒロインソランジュですわ!
私がどれだけ努力を重ねて完璧な悪役令嬢となっても、ソランジュがへなちょこでは話になりませんわ!
「ということで、屋敷を抜け出したいのですけれど…」
屋敷を抜け出さないと、平民であるソランジュを見に行くことが出来ませんわ。でも、屋敷の警備は厳重。…ここは、リゼットを使うに限りますわ!
「…リゼット!」
「はい、ミシュお嬢様」
「私、少し屋敷の外に用事がありますの。出てもよろしくて?」
私がそう問えば、リゼットはにっこり笑って答える。
「もちろんです。護衛にも準備させますので、お待ちくださいね」
「お待ちなさい、リゼット」
護衛に声をかけそうなリゼットにストップをかける。
「どうしました?ミシュお嬢様」
「私…誰にも内緒で市街に出たいんですの」
「え?でも…」
「必要なことなんですの。貴族として、市民の生活を知ることは大切でしょう?でも、私がミシュリーヌ・マチルド・プロスペールとして外に出ればみんな畏まってしまいますわ。そうでなく、普段の市民達の姿を見たいんですの」
「ミシュお嬢様…!ご立派です…!」
私の嘘八百に感動した様子のリゼット。うんうん、従順で結構ですわ。
「では、私の服をお貸しいたします。ブカブカかもしれないですが…」
「構いませんわ。魔法でサイズを弄ればいいだけですもの。その代わり、一人では不安ですの。一緒に抜け出してくださる?」
「もちろんです!」
そして私はリゼットの持ってきた服を着て、魔法で丁度いいサイズに弄った。ついでなので、髪色と瞳の色も目立たない黒に見えるように変える。鏡を見ると、やはりどうしても悪役令嬢としての風格は隠しきれていない印象ですけれど、まあいいでしょう。
「では、リゼット。さっそく行きますわよ!」
「はい、ミシュお嬢様!」
リゼットと共にこそこそと屋敷の中を移動して、外を目指す。ちょっとドキドキしてしまいますわね。でも、きっとバレませんわ!大丈夫ですわ!
「…義姉上?」
びくっと肩が跳ねる。
「やっぱり義姉上ですよね?そんな格好で何をなさっているのですか?」
る、ルーセルに見つかってしまいましたわー!?
「え、えーっと…」
「…言いづらいこと、ですか?」
「そのぅ…」
思わず下を向いて視線をそらす。ルーセルは私から聞き出すのは早々に諦めてリゼットに向き直る。
「リゼット、どういうこと?」
「その…ミシュお嬢様が市民の生活を知りたいとおっしゃられて」
「…まさか、護衛も付けずに外に出るつもりじゃないですよね?」
「貴族であることがバレると、視察の意味がないと…」
「…はぁ」
困ったようにため息を吐いたルーセル。わ、私の奴隷に呆れられるなんて…!
「わ、私、貴族として真に相応しいのは屋敷で踏ん反り返っているような方より、市民達に寄り添う太陽のような方だと思いますわ!」
「…そうですね。義姉上の理想を否定するつもりはありません。むしろ、義姉上の思想はご立派です。ただ」
ルーセルに屈みこまれて目線を合わせられる。
「危ないことはしてはいけません。義姉上は今や第一王子殿下の婚約者なのですから。それはわかりますね?」
「…はい」
くそぅ…悔しい…奴隷に説教されるなんて…!ぬかりましたわ!
「…ということで、一緒に行きましょうか」
「…え?」
「僕が義姉上の護衛がわりについていきます。一緒に抜け出して、一緒に怒られましょう。どうせどうあがいても大人達にはバレるでしょうから」
「…ルーセル!」
「大好きな義姉上のため、特別ですよ?」
にっこり笑うルーセルは、やはり私の自慢の奴隷ですわ!
「ただ、普通に屋敷から出ようとするとすぐバレて外に出られないので考えて脱出しましょうか」
「裏口から脱出しようと思いますわ」
「ああ、それはいいですね。でもそれならこっちの通路のルートの方が…」
「あら、そうですの?ではそうしましょう」
「あと、僕も平民風の格好に着替えてきます。待っていてください」
ルーセルの言う通り、ルーセルの着替えを待つ。戻ってきたルーセルも、髪と目を魔法で黒く染めてなかなかの変装っぷりだがどうしても隠しきれない高貴さがある。まあ、仕方ないですわよね。
「お待たせしました、義姉上」
「ふふ、では三人で改めて脱出しましょうか」
「帰ってきたらまた謹慎かも知れないですね」
「うぐっ…それは辛いですわ…でも、必要なことですもの。我慢ですわ!」
「義姉上がそこまでの覚悟なら、僕も頑張らないとですね」
くすくすと笑って優しい笑顔を見せるルーセル。…なんだか私より大人っぽい気がして悔しいですわ。
「では、ミシュお嬢様、ルーセル坊ちゃん。こちらへ」
リゼットの先導で私達は、無事屋敷から抜け出してそのまま歩き、市街に出ましたわ。




