お従兄様が帰ってしまいますわ
とても楽しかったのだけれど、楽しい時間は早く過ぎるもの。気付けばお従兄様が帰る時間になってしまった。
「お従兄様、名残惜しいですわ」
「私も後ろ髪を引かれる思いだよ、ミシュ。また従兄弟同士で楽しいお茶を楽しみにしているよ、ルーセル」
「はい、従兄上。いつでもお待ちしております」
「お従兄様、きっとまた近いうちにきてくださいね。約束ですわよ?」
「ふふ、ミシュは本当に可愛いね」
お従兄様は私を抱きしめる。
「必ずまた来るよ。待っていて」
「はい、お従兄様」
「ルーセルも、またね」
「はい、従兄上」
そしてお従兄様を連れて、馬車は出発してしまった。ちょっとだけ寂しいですわ。でも、ルーセルもリゼットもいるし大丈夫ですわ!
「さあ、ルーセル。今度は二人でお茶会をしましょう」
「え」
「まだまだデザートを食べたいですもの」
「ミシュお嬢様、食べ過ぎは良くないです」
「えー」
リゼットに止められて仕方なく諦める。でも、お従兄様のお土産のケーキはそれだけ美味しかったのですわ!
私はトゥーサン・ユルバン・ヴァレリアン。侯爵家の一人息子である私は、周りからすごく期待をされて厳しく育てられた。けれど、だからこそ努力は欠かしていないし自分に自信を持っている。
そんな私には従妹がいる。従妹であるミシュリーヌは、私にとって心のオアシスだ。何故なら、私に似てとても美少女だし素直で可愛らしい性格だからだ。
私がある日、魔法学の勉強中に大きな失敗をしてたまたま近くの部屋にいた使用人に怪我をさせてしまった時。使用人は幸い軽い怪我で済んだけれど、私はすごく落ち込んでいた。そんな時に、我が侯爵家にたまたま遊びにきたミシュ。
ミシュは落ち込む私に気付いて、しかし何があったのかはあえて聞かないでくれた。ただただ優しく頭を撫でてくれた。そんなミシュの心の美しさに、私はとても救われたのだ。
そのおかげで、仕事に復帰した使用人とも気まずくならず謝ることも出来た。その使用人とは今でも仲良く出来ている。ミシュには、感謝してもしたりないのだ。
そして今日、そんなミシュと久しぶりに会える。お互い勉強やイベントなどでなかなか忙しいので、息抜きのためにこういう機会が与えられるのはすごく嬉しい。
「可愛いミシュ!久しぶりだね!」
「お従兄様!お久しぶりです!」
私に勢いよく抱きつくミシュ。そんなミシュを優しく抱きとめる。
「ふふ、ミシュは本当に可愛いなぁ」
優しく頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めるミシュ。ミシュはやっぱり可愛い。
「サン、久しぶりだな」
「伯父上、伯母上、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「ふふ、サンは本当にいい子ね。こんな小さい頃から見ていたけれど、やっぱり変わらないわ」
「はは、伯母上こそ変わらずお美しいですよ」
「まあ、上手なんだから」
和やかな雰囲気に安心する。うちは殺伐としている…とまではいかないけれど、ここまで平和ではないから。父上の浮気癖のせいで。そのせいかはわからないけれど、弟や妹は期待するなと母上に言われている。
「お従兄様、私の義弟を紹介させてくださいませ」
「ん?ああ、そういえば養子を迎えたと聞いたね」
「はい。義弟のルーセルですわ」
「ルーセル・ロジェ・プロスペールです。よろしくお願いします」
「これはどうもご丁寧に。トゥーサン・ユルバン・ヴァレリアンだよ。これからよろしく頼むよ」
私はルーセルに手を差し伸べる。ルーセルも私の手を取ってくれて、二人で握手する。しかし、ルーセルは銀髪に赤い瞳でプロスペールの血が濃いと見える。
「ふふ。元々親戚だとは聞いたけど、君にもプロスペールの血が流れているね。銀髪に赤い瞳が良く映える。顔立ちも良い」
「そ、そうでしょうか」
「ああ、とても素敵だよ。仲良くしてくれるかな?」
「はい」
「ふふ、真面目な子だな。敬語なんていらないよ。お従兄様と呼んでくれたらとても嬉しいな」
ミシュの義弟ならば、私の義弟も同然だからね。大切にしなければ。
「では、従兄上と」
「はは、ありがとう。さあ、ミシュ、ルーセル。一緒にデザートでも食べよう。お土産に美味しそうなケーキを買ってきたんだ。伯父上と伯母上もよろしければ」
「ありがとう、サン。でも、従兄弟同士水入らずの時間を過ごしてほしいから私達はあとで頂くわ」
「みんなでゆっくり楽しんでおいで」
「では、そのように。ミシュ、ルーセル。せっかくだから庭の東屋でゆっくり食べるとしようか。リゼット、お茶の用意を」
東屋でゆっくりとお茶を楽しむことにする。
「リゼット、切り分けてくれるかな」
「はい」
お茶とケーキを楽しみながら、みんなで最近あった事をたくさん話した。幸いルーセルも次第に慣れてきて最後には完全に打ち解けてくれた。これからもこうして仲良く過ごしたいものだと、心の中で祈った。




