第二王子殿下が兄上に相応しいか見極めてやるとか言って突撃して来ましたわ。ブラコンですわ。
「ミシュ、ミシュ!」
ある日、お母様が珍しく焦った様子で私を呼びにきましたわ。
「どうかしまして?お母様」
「第二王子殿下が、貴女とお話がしたいとのことなの!お出迎えの準備をしておくから、ミシュも心の準備をしておきなさい」
随分急ですわね。あのブラコン、なんのつもりかしら?
「あら…第二王子殿下が?何の御用かしら。とりあえずわかりましたわ、お母様」
ということで今日、急遽セラフィンと会うことになりましたわ。ついでなので、設定通り険悪な仲になるべきか、手懐けてこちら側に引き込むか考えますわ。別に設定通り嫌われても困りはしないですから、緊張する必要もありませんわね。
「お待ちしておりましたわ、第二王子殿下」
「うむ、ご苦労」
お母様とルーセルと一緒にセラフィンを出迎える。馬車から出てきたセラフィンは偉そうな態度。まあ、実際偉いのですけれど。
「お前は兄上の婚約者の母だな」
「はい、お初にお目にかかります。マチルド・ローザ・プロスペールでございます」
「うむ」
偉そうに頷く。これで、ソランジュにはデレデレになるんだからすごい。まあ一応キャラクター的にツンデレ枠だけど、どう見てもデレデレだった。うん。
「お前は兄上の婚約者の義弟だな?」
「ルーセル・ロジェ・プロスペールと申します。第二王子殿下におかれましてはご機嫌麗しく」
「そしてお前が兄上の婚約者か」
「はい、ミシュリーヌ・マチルド・プロスペールでございます。第二王子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」
「ふん」
人の挨拶を鼻で笑いやがったぞこのクソガキ。
「僕はセラフィンだ。将来お前の義弟となる」
「はい、よろしくお願い致します」
「だが、僕はお前を認めていない」
「…」
このブラコン野郎…!
「お前が兄上に相応しいか見極めてやる」
「あら…わかりましたわ。よろしくお願い致します。とりあえず、庭の東屋でお茶でも飲みながらにしませんこと?」
「…そうだな、いつまでも立ち話もなんだ。そうしよう」
東屋に移動する。リゼットがお茶とお茶菓子を用意してくれる。リゼットが淹れてくれたお茶は今日も美味しい。セラフィンも文句はなさそうだ。あとで飴玉をあげよう。
「では、早速だが勉強の進み具合を見てやる。この問題を解いてみろ」
「はい、わかりましたわ」
さらさらと問題を解く。私には前世の知識チートがありますもの。家庭教師の先生からも魔法学とマナー以外お墨付きをもらっていますわ。このブラコン野郎をぎゃふんと言わせてやりますわ!
「できましたわ」
「は?早すぎないか?」
「採点してくださいまし」
「…全問正解だ」
悔しそうなセラフィン。自分から仕掛けておいてそんな顔するハメになるとかざまぁ。思わずにんまり笑いそうになり、必死で表情筋と格闘する。
「こ、これで終わりじゃないぞ!こっちはどうだ?」
「あら。少し問題のレベルがあがりましたわね」
「そうだろう」
「では、解いてみますわね?」
「やれるものならな」
問題を解く。そのスピードにセラフィンは目を見張る。まあ、この歳でこのレベルの問題をさらさら解くのはなかなか珍しいですわよね?
「お前、なんでそんなに早く解けるんだ?」
「勉強の成果ですわ」
一応、色々な科目の復習もきちんとしているので。せっかくの知識チートも忘れてしまっては使えませんものね。
「くそう…」
「解けましたわ。採点を」
「…また、全問正解だ」
悔しそうなセラフィンの表情が、とてもメシウマですわ!
そのやり取りを何回繰り返したか、セラフィンはとうとう持ってきた問題用紙がなくなったらしいですわ。そして私の学習が相当進んでいると理解できたようで、セラフィンは唇を噛んで悔しがりますわ。
「…」
あまりの悔しさからか、涙目になるセラフィン。仕方のない子ですわね。一応、フォローもいれてあげますわ。
「第二王子殿下。私も、第一王子殿下に今の自分が相応しいとは思っていませんの。安心してくださいませ」
「え」
「だからこそ、私はこれからもっと自分に磨きをかけていくつもりですわ」
まあ、これは本音ですわ。悪役令嬢として、もっと王太子妃に相応しいスペックを手に入れなければなりませんわ。完璧な悪役令嬢こそ、ヒロインのライバルに相応しいですもの。悪役令嬢としての生涯をかけた名演技。やり遂げてみせますわ!
「ですから、私を認められない第二王子殿下のお気持ちも良くわかりますわ。いつか認めていただけるよう、精進致しますわ」
「…」
私がそう言うと、なぜかセラフィンは黙り込む。そして口を開いたと思えば褒められて疑問を投げられた。
「…でも、お前、こんなに優秀なのに。それでも自信がないのか?」
「優秀だなんて。私はただ知識を身につけただけ。それをどう活かすかこそ大事ですわ。その点、私はまだ何も為していませんもの。いつか第一王子殿下の婚約者に相応しい人間にならなければいけませんわ」
「…」
俯きまた黙るセラフィン。そしてしばらく経って顔を上げた彼は、何故か穏やかな表情になっていましたわ。
「…なるほど、お前いい奴だな。兄上の婚約者がお前で良かった」
「え?」
なんだかよくわからないうちに、認められていましたわ?