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嫌がられつつも決まるはずだった婚約

今日、お母様に連れられて王妃殿下のお茶会という名の第一王子とのお見合いに行きますわ。


もちろん表向きはただのお茶会。そして、お見合いと言っても他の子達は期待されていない。私とシルヴェストルを会わせるためのもの。


ということで安心して悪役令嬢として振る舞えますわ!何事も初動が大切。シルヴェストルからこれでもかとたくさん嫌われますわよ!


「ミシュ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。王妃殿下はお優しい方だし、第一王子殿下は素敵な方よ」


「はい、お母様」


緊張しているのではなく、やっと悪役令嬢らしいことが出来ると武者震いしているのだけど。お母様はやっぱり優しい。


お母様と一緒に馬車に乗って移動して、お城についた。降りるとお城のお庭に案内される。ここでお茶とお菓子を楽しみながらシルヴェストルと顔合わせをするのだ。


「第一王子殿下、まだかな…」


楽しみすぎて思わず声に出た。ハッとして口元を押さえる。


「そんなに楽しみにしていてくれたの?嬉しいね」


そんな透き通るような声が聞こえて、振り返る。


シルヴェストル!


「あ、お、お恥ずかしいところをお見せしました…お初にお目にかかります、ミシュリーヌ・マチルド・プロスペールと申します」


「やっぱり君がミシュリーヌ嬢かぁ。噂に違わぬ美しさだね」


当然!


「おっと、これは失礼。自己紹介がまだだったね。僕はシルヴェストル・サシャ・ジョフロワ。この国の第一王子だ。よろしくね」


にっこりと笑うシルヴェストルからは、敵意は感じられない。まあ、まだ嫌われる要素がありませんものね。


「少しあちらでゆっくりお話しないかい?」


「もちろん喜んで」


ということで私達は木陰の静かな場所に移動して、そこでお茶とお菓子を堪能することにした。


「君とは一度、話をしてみたいと思っていたんだ」


「まあ。何故でしょう?」


「君、義弟のために怒りを燃やした正義の人と有名だろう。さらに破滅寸前だった伯爵家を救って見せたり、子豚と蔑まれていた少女をあんなに美しく変身させたり。君のことを話に聞くたび、興味が湧いたよ」


「うふふ、だって義弟(あの子)は私にとって大切な存在ですもの。何も特別なことはありませんわ。ですから、あの子が私以外の人間に傷つけられることなど絶対に許しませんわ。姉弟ってそういうものでしょう?」


私がそう言うとシルヴェストルは笑う。


「たしかに!僕も弟が可愛いからわかるよ」


「伯爵家への支援だって、お友達を助けるのは当たり前のことですわ。オリアーヌ様に関しては、一緒にスポーツを楽しんでいたら自然とああなっただけですの。私は何もしていませんわ。オリアーヌ様の生まれ持った美しさが輝いただけのことですわ」


「なるほど?君は随分とお美しい心を持っているようだ」


「…うふふ。どういう意味かしら」


「この世は綺麗事だけでは出来ていない。そんなにも可愛らしい考え方では、貴族社会で生きていくのは大変だ」


…ああ、なるほど。挑発して楽しんでいるわけだ。


「うふふ。お生憎様」


「え?」


「私、殿下が思っているような可愛らしい女の子ではありませんのよ?」


私は元々あの手この手でシルヴェストルに嫌われるよう努力しようとしていた。ゴキブリやネズミなど嫌がらせになりそうな生き物のおもちゃをプレゼントと称して隠して持ってきている。


「あ、ゴキブリ」


「え!?ひゃああああ!」


「あら、可愛らしい悲鳴ですわね?」


ゴキブリのおもちゃを魔法でシルヴェストルの顔の近くに飛ばした。案の定怯えきった顔を見せるシルヴェストル。護衛隊はシルヴェストルの顔に向かってゴキブリのおもちゃが飛んだのは見ているので、シルヴェストルのプライドを守るためにも駆け寄ってくることはなかった。あまり過保護ではないらしい。助かった。まあ、バレてもこれくらいなら怒られるだけだろうけど。


「…き、君、まさかわざとか!?魔法を使って嫌がらせか!?」


「あ、ネズミ」


「うわぁあああ!」


シルヴェストルは足から始まり手を登ってくるネズミのおもちゃに涙目。ざまぁ。


「うふふふふ。女の子を怒らせると恐ろしいのですわ!」


「くっ…挑発した僕が悪い、悪いんだけどムカつく!!!」


「おーっほっほっほっ」


悪役令嬢として一度はやってみたかった高笑いもくれてやる。シルヴェストルは顔を真っ赤にして怒っている。


「なんなんだ君、思っていたのと全然違う!」


「こちらが本性ですわ!」


「最悪だ!!!」


ああ、面白い。私、今最高に悪役令嬢をやっていますわ!


「…まあいい。とりあえず、僕たちは多分母上の意向で婚約を結ぶことになる。ほんっとうにムカつく子だけど、僕が最初に仕掛けた結果だから許してあげる。…というか煽ってごめん。そこまでやられると思ってなかった」


「うふふ。許して差し上げてもよろしくてよ」


「謎の上から目線ムカつく。でもまあ、側にいて飽きはしなさそうだし婚約自体に異論はないよ。これからよろしく」


「よろしくお願いしますね、殿下。殿下は私にとって一番大切な方ですので」


「…え?」


真っ赤になって固まるシルヴェストル。何を勘違いしているのか知らないけど、シルヴェストルは悪役令嬢としての私の大切な要素の一つですもの。嘘ではありませんわ。都合良く勘違いしていていただきましょう。ソランジュとの恋路を邪魔する際の良いスパイスになるでしょう?


「…なんだよ。やっぱり可愛いじゃん」


「殿下、どうなさいました?」


「なんでもないよ?そんなことを言うなんて可愛いね、ミシュリーヌ嬢」


「うふふ。ミシュとお呼びくださいませ」


「…ミシュ。なんだか、将来がとても楽しみになってきたよ」


…あら?なんでかしら。嫌われるために来たのに嫌われていない気がしますわ?

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