取り巻きBをぽっちゃりから痩せ型にしてやったら、取り巻きBに抱きつかれましたわ!?
「ミシュ様!」
「オリアーヌ様?どうされましたの?」
「ミシュ様のおかげで、お父様とお母様とお兄様達から美しくなったと褒められましたの!全部ミシュ様のおかげですわ!」
ぎゅっと抱きついてくるオリアーヌ。それの何がそんなに嬉しいのかと戸惑うけれど、人には人の喜ぶポイントがあるもの。オリアーヌにとっては、家族から容姿を褒められるのが何か嬉しいことだったのだろう。
「ふふ、私はただお金を出しただけですわ。頑張ったのはオリアーヌ様ですわよ?」
「そんなこと…!ミシュ様があの時私に微笑んで手を差し伸べてくださったから、今の私があるんです…!」
オリアーヌは私を真っ直ぐに見つめて言う。
「私、一生ミシュ様について行きます!お役に立ちます!」
「ありがとう、オリアーヌ様。なら、一つお願いしても良いかしら?」
「なんですか?」
「将来、学園に入学したら…その時は、私の隣にずっといてくださいな。オリアーヌ様が私には必要なんですの」
「ミシュ様…!」
感動のあまり泣くオリアーヌ。別に嘘は吐いていない。オリアーヌは悪役令嬢としての私にとって、必要不可欠だ。
「…ミシュ様、私、ずっとミシュ様のおそばで役に立ちます!学園でも、その先でも、ずっと!」
「ふふ、学園生活が楽しみだわ」
「私も今から楽しみです!」
オリアーヌも、ただ〝美しさへの信仰〟だけで私に取り入って虎の威を借る狐となる未来は回避しただろう。きっと、より良い〝取り巻きB〟となったはずだ。これは悪役令嬢として振る舞うその時が楽しみですわ!どんな働きをしてくれるかしら!
私はオリアーヌ・ノエル・ペトロニーユ。子爵家の娘。男児ばかりに恵まれた両親の元に生まれた、待望の女児だった私。
両親も兄達も美形ばかりだったため、当然私も美形になるだろうと期待されていた。
実際私は素の顔立ちは悪くないし、烏の濡れ羽色の髪に紫の瞳でとても神秘的な美しさを秘めていると評判だった。
「病気の治療の副作用でこんな姿にされるなんて…可哀想に…」
「きっと色々言われるでしょうけれど、私達は貴女の味方よ。可哀想な、可愛いオリアーヌ」
しかし、私は幼くして病気にかかる。幸い完治したけれど、その頃には薬の副作用でぶくぶくと肥えていた。
たしかに、その姿を見て意地悪を言う人は多い。けれど私が酷く傷ついたのは、他人の悪意ある言葉よりもむしろ…。
「ああ、オリアーヌ。あんなにも美しかったのに、可哀想に」
「大丈夫。きっとまたいつか美しいオリアーヌに戻るさ」
悪意どころか善意で紡ぐ、両親や兄達の言葉の方が私の心を刺したのだ。
そのくせ病気が完治したばかりの私を過度に心配して、痩せたいから運動がしたいと言っても認めてくれない。食事で痩せようと思っても、栄養を取れとたくさん食べさせられる。
私はいつからか、色々なことがあった反動なのか〝美しいモノ〟を愛するようになった。花、宝石、そして美しい人。そんな私がある日親に連れられた先で出会ったのは、美しい少女ミシュリーヌ・マチルド・プロスペール様。弟君であるルーセル・ロジェ・プロスペール様もお美しいけれど、ミシュリーヌ様は別格だった。少なくとも私の目にはそう映った。私は興奮しながらも挨拶をする。
「お初にお目にかかります!オリアーヌ・ノエル・ペトロニーユです!よろしくお願いします!」
「お初にお目にかかります。ミシュリーヌ・マチルド・プロスペールですわ」
「お初にお目にかかります、ルーセル・ロジェ・プロスペールです。姉共々よろしくお願いします」
「わあ…!ご兄弟揃ってとてもお美しい…!」
「え、そ、そうでしょうか」
「はい、ルーセル様!ああでも、私なんかに敬語なんて使わないでください!」
目の保養になる美しさ。私なんかに敬語なんてもったいない。
「…えっと。なんというか、うん。ありがとう。でもそんなかしこまらなくていいんだよ」
「いいえ!ルーセル様はとてもお美しい方ですもの!蔑ろには出来ませんわ!」
「ええ…?」
軽くドン引きしているルーセル様に気付くが、こんなにお美しいご姉弟を見て感動したのだから許して欲しい。
「ところで、オリアーヌ様。単刀直入にお伺いしてもよろしいかしら」
「なんでしょうか、ミシュリーヌ様」
「ミシュでいいですわ。お友達になったんですもの」
「お友達…!ありがとうございます、ミシュ様!」
なんてもったいないお言葉…でも嬉しい…!
「そんな大切なお友達を、私の手で磨かせてくださいませんこと?」
「え?」
「幸い、私のお小遣いは無駄に多いですし。お金なら幾らでもかけられますわ」
「どういうことですか?」
「私と共に、ダイエット致しませんこと?」
そう言って私をスッと見つめるミシュ様。この方は女神か天使の生まれ変わりなんだろうか。
「ああ、気を悪くされたらごめんなさい。でも、オリアーヌ様はとても可愛らしい方。痩せればもっと可愛らしくなること間違い無しですわ!烏の濡れ羽色の髪も、紫の瞳もきっともっと輝きますわ。どうかしら?」
ミシュ様はそう言って私に手を差し伸べる。私はガシッとその手を取った。
「よろしくお願いします、ミシュ様!!!」
ということで、ミシュ様のプロデュースで私のダイエット大作戦が決行されることになった。
と言っても、ミシュ様のダイエット大作戦の内容は簡潔だ。スポーツである。
しかし、私に対して過保護になっていた両親や兄達も私のお友達…しかも公爵家のご令嬢からの誘いとなれば断れない。
ミシュ様は早速あの後、ご自分のお小遣いを使って私にテニスと水泳、バトミントンを習わせてくださった。もちろん私の両親からしぶしぶながら許可を得て。ミシュ様は、しぶしぶ許可したとは気付いていないようだけど。
さらにミシュ様は、私一人では心配だと思ったのか一緒にスポーツを習ってくださった。今でも二人で続けている。数ヶ月程続けているけれど、最初はキツかったが今ではすごく楽しい。ミシュ様は最初から余裕の表情だったけれど。
「オリアーヌ様、段々と痩せてきましたわね!やっぱりオリアーヌ様は私の見込んだ通り、お美しい方ですわ!」
「そ、そうでしょうか…でも、ミシュ様のお美しさには敵いません」
「でも、実際生まれ変わったようですわよ」
「え、えへへ…たしかに自分でも、痩せただけなのに格段に綺麗になったと思います」
「でしょう?やはりオリアーヌ様は磨けば光る原石でしたわ!今はさながらアメジスト!神秘的な美しさを秘めたお姿ですわ!」
ミシュ様はそう言って私の手を取る。私は嬉しくて思わず自然に微笑む。
「私がアメジストなら、ミシュ様はホワイトダイヤモンドですね」
「まあ、嬉しい!」
こうして私のダイエット大作戦は無事に成功した。とはいえ、人間は気を抜けば元の体型に戻ってしまうもの。自然に体型を維持するためにも、二人でスポーツを続けることにした。
そんなある日のことだった。
「オリアーヌ、美しくなったな。今まですまなかった」
「可愛い貴女が戻ってきて嬉しいわ。貴女の気持ちに気付かずごめんなさいね」
「オリアーヌ、今まで過保護にしすぎてごめんな。お前やミシュリーヌ様の言う通り、運動は必要だったよな」
「綺麗だよ、オリアーヌ。今までお前を守ろうとして、逆に傷つけていたんじゃないかってミシュリーヌ様とのやり取りで気付いたんだ。本当にごめんね」
両親と兄達から、久々に容姿を褒められた。そして、謝罪の言葉までもらった。こんな日が来るなんて思わなかった。
「お父様、お母様、お兄様…私…」
「うん」
「本当は他人に言われる言葉よりも、お父様とお母様とお兄様からの言葉にこそ傷ついて居ました」
「…そうか。本当にすまなかった」
「でも、もういいんです。謝っていただいたらすっきりしましたし、美しくなったと褒めていただけて素直に嬉しいです」
私がそう言えば、何故かお母様は泣き出した。
「…貴女の一番の美しさはその心の優しさだと言うのに、私達は見た目ばかりに囚われてそんな貴女の心を傷つけてしまったのね」
そんなお母様に私はぎゅっと抱きついた。
「いいんです、お母様。みんなが私のことを思ってくださったのは知っていますから」
「オリアーヌ…!」
こうして私達家族は、再び心の平穏を取り戻すことが出来た。
それもこれも、全てはミシュ様のおかげ。私はミシュ様に、一生を掛けても返しきれないほどの恩が出来た。
私はこれからの人生を、ミシュ様のために捧げると決めた。