第9話 買い物へ行こう!
日野は二階へ戻ると、借りていた病室内を簡単に片付けて、突き当たりのアイザックの部屋へ向かった。グレン達がどの部屋にいるかは知らなかったが、奥の部屋が騒がしいので、既に支度を済ませて集まっているのだろう。
わいわいと聞こえてくる声に、朝から元気な人達だなと思いながら戸を叩こうとすると、それを待っていたかのように、内側からガラリと戸が開けられた。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
見上げると、白衣姿のアイザックが微笑んでいた。昨日と同じ場所にグレンとハルも座っている。
「準備できたのか?」
「え、ええ。特に荷物もないので。でも、買い物って……」
困ったような表情に変わった日野を見て、アイザックがクスクスと笑った。
「今日は日野さんの生活に必要なものを買いに行くんですよ」
「え、でも。私、お金持ってないですし。そこまでお世話になる訳には……自分でなんとか、しますから……」
「なんとかって、どうすんだよ」
「それは……」
「どこかへ行くにしても、この街で働いて暮らすにしても、先にそういうの必要でしょう。遠慮しなくていいんですよ」
そう言って、アイザックが日野の頭をポンポンと叩いた。大きな手が、優しく髪を撫でる。すると、日野は表情を曇らせ、その目に薄っすらと涙を浮かべていた。
何日もここにいる訳にはいかない。早く出ていかなければいけない。頼ってばかりはいられない。考えてはいたが、見知らぬ土地で何も持たないまま、どうすればいいかなど分かっていなかった。いくつになっても子供のようで、情けなくなる。
俯くと、涙が溢れそうだ。すると突然、日野の手を、小さな子供の手がキュッと握って、グイッと思い切り引っ張られた。驚いて手を引かれた方を見ると、ハルがニッコリと笑っていた。ハルはそのまま日野の手を引き、戸の方へ向かう。
「しゅっぱーつ!」
明るい掛け声とともに、日野を連れて走り出した。その後ろでは、走っていく二人をグレンが呆れたように見つめていた。そして、歩き出したグレンのうしろを、クスクスと笑いながらアイザックがついていく。
「いやあ、子供は元気があっていいですね〜」
「おじさん、なんでついて来てんだ」
「面白そうなので私も行きます」
ゆっくりと階段を降りていくと、病院の入り口で、早く早くとハルが手招きしていた。ハルの後ろには、困ったように笑う日野がいた。
「おや」
「だから言ったろ。頻繁にニヤついてるって」
一瞬目を丸くしたが、グレンの言葉に、そうですねとアイザックは穏やかに微笑んだ。そして、このまま何も起きなければ──心の中で、そう願った。
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