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第76話 大人って変な生き物だね

「刻! ルビー! ごめんなさい、ほんとに、ほんとにごめんなさい! あああああ!!」

「煩い……」


 空の色が暗い青に変わった頃、星が照らす山道に、目を覚ましたローズマリーの泣き叫ぶ声が響いていた。黒い馬の手綱を引きながら歩く刻の後ろを、ローズマリーが溢れ出る涙をグスグスと拭いながら歩いている。


「ローズマリー、泣き過ぎだよ……私達はもう大丈夫だから……」

「だってぇ……私のせいで、私のせいでルビーに寂しい思いをさせちゃって、刻のことも困らせちゃったのよ……」


 目を覚まして、起きた出来事を話してからというもの、何を言ってもこの調子だ。刻の引く黒い馬にちょこんと跨っているルビーは、子供のように泣きじゃくるローズマリーを呆れた様子で見ていた。


 日野達から離れた後、刻は暗くなるまで山道を歩き続けていた。途中で目を覚ましたローズマリーも、刻やルビーに心配をかけたことを謝った後、馬から降りて歩き始めたのだが……それからずっとこれが続いていた。


 刻も、どうやってローズマリーを泣き止ませようかと考えてはいるが、泣き叫び命乞いをする女を殺した経験は幾度もあれど、泣いている女を泣き止ませた経験など一度も無い。どうすれば良いのかと悩んでいた。


 すると、泣き止ませる方法を考えながらもスタスタと足早に先へ進む刻とルビーに、ローズマリーが声をかける。


「刻、ルビー、本当にごめんなさい」

「何度も謝るな。もういいと言っているだろう」

「だってぇ……」

「煩い。それ以上泣けば置いて行くぞ」

「!? ……ご、ごめんなさい」

「だから、もう謝るなと言って……!?」


 謝ることも泣くことも止めないローズマリーにそう言いかけ、刻が溜め息を吐きながらチラリと顔を向けると、ローズマリーが落ち込んだように肩を落として項垂れている。


 先程までは煩いばかりで落ち込んだ様子では無かった筈だが……何故だ? 俺は何か落ち込むような事を言ったか? しかし、そんな事を言った記憶は無い。何だ……何だこの女……何故急に口をきかなくなった……?


 トボトボと後ろをついて来るローズマリーに困惑していると、馬の上で、前方を指差してブンブンと腕を振りながら、ルビーが刻に向かって叫ぶ。


「刻! 前、前!」


 ルビーの叫び声にハッとして前方を見た瞬間、ドカッと鈍い音を立てて、背の高いその体は、目の前に生えていた大きな木に顔からぶつかっていった。


 ルビーと黒い馬が呆れたような顔で刻を見つめる。刻は一瞬だけ苦痛に顔を歪めたが、顔についた擦り傷はすぐに治り、それは跡形もなく消えた。


 すると、今度は後ろからトボトボと歩いて来ていたローズマリーがそのまま刻の背中へとぶつかる。ウッ、と声を上げたローズマリーに、ルビーは溜め息を吐いた。


「二人揃って何やってんの? ローズマリーは分かるけど、刻まで……具合でも悪い?」

「俺は何ともない」

「とにかく、ローズマリーを何とかしなきゃ。刻が置いて行くぞなんて言ったから落ち込んじゃったじゃん」

「……なるほど」


 ルビーの言った言葉に暫く首を傾げていた刻だったが、そういう事か! と納得したように頷いた。再び呆れ顔になったルビーを横目に、刻は落ち込んだローズマリーへ向かい合う。


「置いて行きはしない。だが、泣くのと謝るのはもうやめろ」


 刻がそう言うと、ローズマリーはパッと顔を上げ、安心したように微笑んだ。そのまま刻の胸に飛び込むと、背中に手を回し、ギュッと刻を抱き締める。


「良かった……私、置いて行かれちゃうかと思ったわ。私のこと、怒ってない?」

「俺もルビーも最初から怒ってなどいない」

「はぁ……これでやっと仲直り! 良かったね、ローズマリー」


 愛しそうに刻を抱き締めるローズマリーに、ルビーは笑いかけた。ウンウンと上下に頭を振る姿が、大人なのになんだか可愛らしい。


 すると、ルビーはふと刻の姿に違和感を覚えた。何故か両手を少し上げ、ローズマリーに手が当たらないようにしている。動かずに、されるがままになっているところを見ると、嫌がってはいないようだ。


 刻もローズマリーを抱き締めてあげたら良いのに……なんで触れないようにしてるんだろ?


 そんな疑問が頭に浮かぶ。そう言えば、刻は私とは手を繋ぐ事があるけど、ローズマリーとは繋がない。私は抱き抱えて馬に乗せてくれるけど、ローズマリーには自分で乗れと言う。


 ローズマリーから触れられても拒否しないけど、自分からは触れない……なんで? どうして? 嫌いじゃないから拒否はしないけど、好きじゃないから触らないってこと?


 うーん……と唸りながら、ルビーは頭を抱えて悩み始める。しかし、目の前でイチャついている男女が何を考えているのか分からない。


「大人って変な生き物だね……あ、流れ星!」


 溜め息を吐きながら黒い馬にコッソリとそう伝えた時、夜空に一筋の光が走った。ハッと空を見上げて、目を閉じる。

 どうか、この二人が、仲良くやっていけますように。ずっと一緒にいられますように。


 満天の星空の下、ルビーは心の中で、そう祈りを込めた。

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【完結済】日のあたる刻[異世界恋愛]

【連載中】五芒星ジレンマ[異世界恋愛]

【番外編】日のあたる刻 - Doctor side -[短編]

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