表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/203

第33話 蝋燭点けて飲むの好きだよな

 静かな部屋の中に、カランと氷の音がする。部屋は薄暗く、小さな蝋燭の灯りが微かにテーブルを照らしていた。

 日野とハルはベッドの上ですやすやと寝息を立てている。


「おじさんって蝋燭点けて飲むの好きだよな」


 ユラユラと揺れる炎の影を追いかけて遊んでいるアルを眺めながら、グレンがそう呟いた。


「綺麗でしょう、この不規則に揺らめいている感じ。まるで命の灯火のようで」

「趣味わる……」


 グレンが顔をしかめてそう言うと、アイザックは小さく笑っていたが、今日は苦手なパーティーへの参加で疲れたのか、いつもより目がウトウトしているようだった。


「ていうか、おじさんいつまでこの部屋にいるんだ? 宿屋取ってるなら送るぞ」

「ああ、取りましたよ。この部屋に」

「……は?」


 グレンは眉間にシワを寄せる。いつの間に……まさか、このおじさん一緒に泊まる気か? ベッドは三つしかないんだぞ。そう思ったのがあからさまに顔に出ていたのだろう。アイザックはグレンの表情を見てクスクスと笑った。


「さすがに日野さんのベッドには入りませんよ」

「当たり前だ」

「ハルと一緒に寝ますから。もうお金も払ってますし、今晩は許してください。私の名前で泊まると、朝の出待ちが凄くて……」


 そう言うとアイザックは大きく欠伸をして、また飲み始める。モテる男も大変だな、と溜め息を吐き、グレンもグラスに氷を入れて酒を作った。二つのグラスがぶつかる音が小さく響くと、ユラユラと揺れる炎を見つめながらアイザックが呟いた。


「グレン。日野さんを、青い本にあまり近付けない方がいいのではないでしょうか」

「……そうだな」

「青い本を目にしただけで身体に異常が現れるなんて……話を聞く限り、本に触れてはいないようですが、もし触れてしまったら何が起こるか分かりません」

「……あの殺人鬼はどうだったんだ?」

「刻ですか? あの本の力でこの世界へ来てから、ずっと持っていたと思いますよ。アルバートに渡すまではね。刻は数年かけて徐々に力が解放されていきましたが、日野さんが同じとは限らない」


 グラスを持つアイザックの手に力がこもる。これ以上、誰も傷付いて欲しくない。誰も傷付けて欲しくない。街ごと破壊するような力を持ったとしても、それを抑える方法は無いのか。ずっと研究しているが、何も見つからない。残った酒を一気に飲み干すと、音を立てないよう静かにグラスを置いた。


「刻を抑える手掛かりは、あの青い本。しかし、日野さんが覚醒するきっかけになるのも、あの青い本かもしれません」

「ああ、厄介な事にな。と言っても、あれは子供が持って逃げた。今はどこにいるんだか……」

「居場所なら分かりますよ。情報屋を使えば」

「そんな金があるかよ。いくら吹っかけられるか分からないぞ」


 情報屋はどんな些細な話でも買い取ってくれるが、手に入れた情報を売る時はとんでもない金額を吹っかけることが多い。根無し草のグレン達は旅の資金を集めることで精一杯で、情報を買うような余裕はなかった。しかし、目の前のおじさんはどこか楽しそうにニコニコと笑っていた。人差し指をピッと立てると、自信ありげな顔をする。


「私に任せてください」


 そう言ったかと思うと、アイザックは大きな欠伸をしながらおぼつかない足取りでハルの方へ近付き、ベッドへ入るとそのまますやすやと眠ってしまった。きっと朝起きたらハルに酒臭いと文句を言われるのだろう。そんな事を思いながら、テーブルに残ったグラスや酒を片付け、ふと日野の方へ目をやると、心なしか楽しそうな顔で静かに寝息を立てている。


「似てるんだよな……あの人に」


 そう小さく呟くと、グレンは残り少ない蝋燭の灯りをそっと吹き消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



──────柚中眸の作品一覧──────

【完結済】日のあたる刻[異世界恋愛]

【連載中】五芒星ジレンマ[異世界恋愛]

【番外編】日のあたる刻 - Doctor side -[短編]

Twitter

OFUSE(柚中のブログやイラストなど)


────────────────────


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ