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第23話 白馬の王子様

 アイザックと一緒に、グレン達のいる方へと歩いて行く。噴水の前では、グレンがハルの首根っこを掴んでいた。その姿が可愛くてつい笑ってしまう。すると、その様子を見ていたアイザックが急に立ち止まった。どうしたのかと振り返ると、顔を覗き込まれる。


「ちょ、近……」


 突然近づいたアイザックに驚いていると、その間近にある端正な顔がニッコリと微笑んだ。


「日野さん、よく笑うようになりましたね」

「え?」

「表情が大きく変わるわけじゃないですが、私にも分かるくらいに、よく笑うようになりました」


 そう言って、大きな手がポンポンと頭を撫でた。

 よく笑うようになった……確かに、笑うのは昔からあまり得意ではない。自分ではたくさん感情を出していると思っていたが、周囲から見るとほとんど無表情らしい。元の世界にいた頃は、別の世界へ行きたいなどと考えて溜め息を吐くことも多かった。


 だが、最近はそれもほとんどなくなっていた。楽しいと思うことが増え、今まで気にもしなかった青い空や輝く星空に感動するようにもなっていた。


「楽しいから、ですかね」


 ポツリと呟いた日野の言葉に、良かったと嬉しそうに笑うアイザック。いつもにこやかで、よく笑う人だな……と日野がアイザックの顔を見つめていると、二人に気付いたグレンとハルがやってきた。


「ザック先生だ〜」

「グレン、ハルとアルも、お久しぶりです」

「どうも。出張か?」

「いえ。この街には大きな病院があるんですけど、今日はそこの院長の誕生日パーティーに呼ばれたんですよ」


 そう言ってアイザックが指差した先には大きな屋敷が見えた。パーティーは苦手なんですけどね、とアイザックは困ったように笑う。


「でも、着くの早いですね。私たちより後に出たはずなのに」

「私は馬車に乗って最短ルートで来ましたからね」

「さすがおじさん。金持ってんな」

「ええ。白馬の王子様ですから」


 アイザックが、一緒にパーティーに行きますか? と日野へ微笑むと、グレンが眉間にシワを寄せて、アイザックの傍に立つ日野の手を掴み自分の方へと引き寄せた。


「ていうか、お前はなんでおじさんと一緒にいるんだ」

「あ、さっき変な人に絡まれたところをザック先生に助けてもらったの」

「怪我は?」

「大丈夫、なんともないよ」

「ちゃんとついて来い、一人になったら危ないだろ」

「ご、ごめんなさい」


 また心配をかけてしまったと日野が肩を落とし、それを見たグレンも何だか慌てている。アイザックは日野が以前より砕けた話し方になっていることに気付き微笑ましく思いながらも、二人の態度に違和感を感じ、近くにいたハルに目線を移す。


「なんかギクシャクしてますけど、あの二人、何かあったんですか?」

「実はね……」


 ハルはちょいちょいとアイザックの袖を引くと、二人から離れた場所に移動した。ハルと目線を合わせるようにしゃがんだアイザックに耳打ちをする。


 ハルがアイザックに森の中で刻と出会ったことを話すと、アイザックは目を丸くした。そうですか……と少しの間、黙り込んで何か考えていたが、すぐにいつものにこやかな顔に戻った。


「それで、グレンと日野さんは?」


 再びハルは、森での出来事を話し始める。

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