第22話 軟派男
そこはまるで西洋。そう、絵本や漫画で見たような、華やかな街そのものだった。日野たちが森を抜けた先にあったのは、とても賑やかで大きな街。そしてその街は、今までとは全くの別世界のようで、街というよりは国という感じがした。日野は明るい街の中を楽しそうに見回しながら歩いている。
「私のスーツ姿に誰も突っ込まなかったのは、こういう街もあるからだったんだ……」
「この世界は個性の主張が激しい街が多いからね。あ、噴水だ!」
街行く人々を見ながら、ハルが楽しそうにそう言うと、少し遠くに噴水を見つけ、目を輝かせて走り出した。
「おい、危ないから走るなって……」
グレンが静止しようとするが、珍しいものに興味を向けた子供は止められない。溜め息を吐きながら、グレンがハルを追いかけた。追いかけてきたグレンに捕まるまいとハルが噴水の周りを走り回り、鬼ごっこのようになっている。そんな二人の様子を見つめていると、背後から肩を掴まれた。
「お嬢さん、何してるの?」
突然かけられた声に驚いて振り向くと、派手なシャツを着た若い男が立っていた。男は日野に、にこやかに笑いかける。
「こんなところでボーッとしてたらぶつかっちゃうよ」
「あ、すみません」
「お嬢さん一人? 良かったら僕とケーキでも食べに行かない?」
「……え?」
意外な言葉をかけられて身体が固まってしまった。今までこんな声のかけられ方をしたことがない。会社の同僚はよくこんな風に声をかけられていたが……実際に自分が体験すると意外とビックリしてしまうな。しかし何故私なのだろう。そんな事を考えながら、日野が目の前の男をマジマジと見つめていると、男は日野の手を引いて歩き出した。
「ほら、あっちに美味しいお店があるんだ。行こう」
「え、ちょ。私は連れがいるので」
そう言ってチラリと噴水の方を見るが、グレンとハルはまだ走り回っていてこちらに気付いていないようだ。その間にも男はグイグイと日野の手を引き進んでいく。
「あの、すみません。離してください」
止まろうとするが、男の力には勝てない。どうしよう……そう思った時、誰かが男の手を掴み、引っ張られていた手が解放された。
「女性はもう少し優しくエスコートしないと駄目ですよ」
目の前には、いつの間にか白いスーツの男が立っていた。日野を引っ張っていた男は、白いスーツの男に手を捻り上げられ悲鳴を上げている。
「手を捻られると意外と痛いですよね〜」
この声、この口調、どこかで聞いたことがある気がする。日野が背の高いその男を見上げると、そこにはニッコリと微笑むアイザックの顔があった。
「ザック先生!?」
「お久しぶりです、日野さん」
アイザックがパッと手を離すと、男は痛みで目に涙を浮かべながら逃げるように去っていった。




