第194話 後始末
「チッ、どんだけ散らかしてんだよ。後始末する身にもなれってんだ」
ブツブツと文句を言いながら、血の跡を追う。兄貴は、そこら中に散らばったグレン達の荷物を拾い集めていた。
リュックやトランク、真っ二つになった銃の残骸に、ひらひらと風に揺れる服。それを一つ一つ腕の中に集めながら、兄貴は頭の中で状況を整理していた。
「ザック先生、グレン、ハロルド、ルビー。なんで四人しかいないんだ? あの姉さんは……?」
ひとまずその場にいた人間を馬車に詰め込んで出発させたが、グレンやハロルドと一緒にいるはずの日野の姿が見当たらない。
婦長には、もしかしたらザック先生の傍に刻やルビーがいるかもしれないと言われた。しかし、そこにいたのはルビーだけだった。刻の姿は見当たらない。
それに、明らかに女物であるワンピースが散らばっていたが、日野の荷物とは違うようだ。だが、近くに女の姿や死体などは見当たらなかった。
もし近くにいるならば、ハロルドが何か言ったはずだ。何も言われなかったということは、最初からこの場にいなかったということだろうか?
「一体なにが起きたんだ……わからねぇ」
ああだこうだと自問自答しているうちに、散らばっていた荷物を拾い、まとめ終えた。背中にはリュック、手にはトランクを持って、兄貴は白い馬車を探しはじめた。
チラホラと人の姿が見えはじめた街の中。恐る恐る顔を出す街の住人たちを横目に、兄貴は念のため日野や刻の姿を探して歩いた。
そして、ひときわ大きな屋敷の周りをウロウロと徘徊しているうちに、一両の馬車を見つけた。
「白馬に真っ白のキャビンだなんて、汚れが目立ってしょうがねぇだろ。趣味わる……なあ、お前もそう思わねぇか?」
悪態をつきながら白馬をよしよしと撫でると、兄貴は集めた荷物を乗せて鞍にまたがった。
「あの……」
「あ?」
その時、おずおずと声をかけられた。兄貴が不機嫌そうに声のした方へ顔を向けると、そこには複数の医者や女たちの姿があった。
「俺になんか用か?」
幼い頃から医者にはあまり良い印象がない。何を言われるか分からないため、できるなら早くその場を離れたかった。
兄貴がぶっきらぼうに尋ねると、一人の医者が額の汗を拭いながら口を開いた。
「……あの、あなたはザック先生のお知り合いで?」
「ああ。だからなんだ?」
「ザック先生は、その……」
無事か? と聞きたいのだろう。だが、あの血だらけの姿を見て生きているとも思えないという表情だ。
「たぶん死んじゃいねぇよ。ザック先生はこの程度で死ぬような人じゃない。心配してる暇があるなら、いつも通り医者やってろ。聞きたいことはそれだけか?」
「……助けに行けず、すまなかった。そう、伝えてくれ」
「……わかったよ。じゃあな」
助けに出て行けなかった罪悪感からか、その場にいた全員が俯きがちだった。ペコリとお辞儀をした医者にぶっきらぼうな返事を返すと、兄貴は手綱を取り、アイザックの病院へ向けて馬車を走らせた。
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