第18話 情報屋
朝。日野はキッチンでおにぎりを作っていた。三人分のおにぎりと一匹分のチーズを用意する。出来上がった朝ごはんをテーブルへ運びに行くと、既にハルがアルと遊びながら待っていた。グレンも席についている。
「おはよう」
「ショウちゃん、おはよう」
朝からニコニコと笑うハルの笑顔に癒される。結んでいる前髪がぴょこんと立っていて可愛らしかった。ふとハルの向かいの席を見ると、グレンがまだウトウトしている。
「無理に起こさないほうがいいかな……」
「グレン寝起き悪いもんね。ショウちゃんの買い物の日は頑張って起きたみたいだけど」
いつもはボクのほうが早起きだよ、とハルが自慢げに言う。確かに、ハルはいつも早起きだ。それにグレンは、病院でも森の中で野宿した時も朝は不機嫌そうだった。いつも目付きが悪いので、あまり普段と変わらないようにも見えるが……。そんな事を考えていると、テーブルに置いたおにぎりにグレンが手を伸ばし、ウトウトしたまま食べ始めた。
「私たちも食べようか」
のんびりとした朝。みんなで朝食を済ませると、それぞれ身支度を整え始める。途中まで半分眠ったまま動いていたグレンもようやく目が覚めたようで、機嫌も元に戻っていた。
「今日は街を回るぞ。情報を売ったら次の街へ向かう」
「情報?」
「各街には情報屋というのがいるんだ。噂レベルのものから街の情勢まで何でも買い取ってくれる」
「ボクたちは旅の途中で寄った色んな土地の情報を売って、お金を稼いでいるんだよ」
情報の売買というと何やら物騒な感じもするが、グレン達が旅を続ける資金を集めるには、この方法が一番効率が良いのだという。身支度を整えた三人は、情報屋を探すため宿屋を後にした。
小さな店がポツリ、ポツリと並ぶ街中を日野はハルと手を繋いで歩く。そんなに大きな街ではないので、すぐに回り終えそうだった。日野は無意識に辺りをチラチラと見回しながら、白髪の男を探していたが、この街には刻らしき人物はいないようだ。前を歩くグレンは街の人に声をかけ、何か話をしながら歩いている。すると、話を終えたグレンがクルッと振り返り、こちらを見た。
「行くぞ」
言われるがままグレンについて行くと、小さなカフェのような建物の前で立ち止まった。そのお洒落な外観は、若い女の子が好みそうな可愛らしいものだったが、まだ営業していないのか、カーテンは全て閉まっていた。小さなショーウィンドーにはフリルがたくさんついたワンピースが飾られている。
「グレンってこういうのが好きなの?」
「好きなわけないだろ、仕事だ」
「ショウちゃんが着たら似合いそうなのにね」
「いや、私は年齢的にも無理があるから」
そう言いながらもジッとワンピースを眺める日野を横目にグレンが扉を開けると、カランという音が響く。その音が聞こえたのか、店の奥から赤いワンピースを着た女性がひょっこりと顔を出した。コツコツと靴音を立ててこちらに近寄ってくる。歩くたびに女性の髪がふわふわと可愛らしく揺れていた。
「すみません。うちは夕方からで……」
「情報屋はここか?」
女性の言葉を遮るようにグレンが言うと、どうぞ、と店の中へ案内された。中へ入ると、赤と白を基調とした可愛らしい内装が目を惹き、日野が辺りをクルクルと見回す。
「わあ、可愛い」
「ありがとう。狭くて小さなお店だけど、私の自慢のカフェよ」
情報屋は日野の様子を見てニコニコしながらそう言うと、日野とハルにテーブルへ座るよう促し、グレンをカウンターへ呼んだ。