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百四十三 夕食は

 グレンの帰りを待つ間、残された三人と一匹は食事について話をしていた。

 いつもは日野が朝食を作り、昼はグレンが作っている。寒くなってからは野宿をすることもなくなり、最近の夕食は宿のご飯や外食が多かった。

 明日の朝からまた歩くことになる。グレンの過去についても気になるところだが、腹が減っては先に進むことができない。

 今日は少し時間に余裕もあるので、食材を買ってきて部屋で作ろうか。そんな話で盛り上がっていた。


「この街は魚が安く手に入りそうだから、魚を入れたお鍋がいいかなって思うんだけど……どうかな?」

「ボク、お魚好きだよ。確か、グレンもお魚は好きって言ってたと思う」

「そっか、良かった。ローズマリーは?」

「私はショウコが作りたいものでいいわ。その代わり……」


 言いかけて、いつになく真面目な表情をしたローズマリーに、日野が首を傾げた。その時、ぐっと拳を握って、ローズマリーが宣言した。


「料理を教えてもらうわ!」

「わかった……って、ええっ!?」

「ショウコが料理長で、私はお手伝い担当よ!」

「じゃあボクたちは食べる担当〜」


 そう言って目を輝かせている二人から、日野は少し視線を外した。

 グレンならともかく、自分は人に教えるほどの技術など持っていない。味付けだっていつも勘でやっている。魚はお店である程度処理してもらう気でいたので、鍋に入れてしまえばあとは待つだけだ。

 なにも教えることがない……。

 しかし、目の前のローズマリーはノリノリだ。どうしようかと焦っていると、テーブルの上で、日野に向けて拳を掲げているネズミと目が合った。

 きっと、頑張れと言ってくれているのだろう。しかし、全く自信がない。大丈夫だろうか……私なんかよりグレンに教わったほうが……。そう思った時、部屋の扉がゆっくりと開いた。

 日野たちが一斉に視線を向けると、開いた扉の向こうからグレンが部屋に入ってきた。


「待たせたな。腹減ってないか?」


 そう尋ねたグレンは、少し疲れたような顔をしていた。日野はリュックを下ろしたグレンに近寄ると、彼の脱いだコートを受け取った。


「グレン、夕食は私たちだけで作るよ。だから今日は少し休んでて」


 元気のない様子の彼に休んでもらおう。そう考えての言葉だったが、それを聞いたグレンは眉を寄せた。

 無言で見つめてきた彼の視線が、本当に大丈夫なのか? と尋ねているような気がした。

 心配されている……そう感じ取った日野は、両手をひらひらと振ってみせた。


「だ、大丈夫だよ。ローズマリーが手伝ってくれるから、なんとかなると思う。それに、この辺りのお魚は安いみたいだから、そんなにお金はかからないはずだよ。あ、今日はお魚の鍋にしようと思います!」


 まくし立てるように伝えると、グレンがフッと微笑んだ。そして、彼の大きな手がそっと頭に乗った。ぽんぽんと優しく撫でられたあと、手渡されたのはグレンの財布。それを受け取って、日野はグレンに微笑んだ。


「ありがとう。それじゃあ、買い物に行ってくるね」


 グレンのコートを壁に掛けると、日野はローズマリーとハル、アルを連れて買い物へ出かけた。




◆◆◆




 ここは大きな川の近くにある街。新鮮な魚を他の街よりも安く買うことができる。よく見ると、川魚だけではなく、海の魚や貝類なども売られていた。

 まだ人通りの多い道を、日野はハルとローズマリーを連れて、食材を探しながら歩いていた。

 買い物中、もし自分たちになにかあれば、アルがグレンのところへ走ってくれることになっている。

 部屋を出る前、グレンはローズマリーが出歩くことを心配していた。だが、日野が今はオリバーの匂いはしないと伝えると、外出の許可が下りた。

 そして今は、意気揚々と露店を巡っているところだ。


「ショウコ! これを入れましょう!」

「ショウちゃん! ボクはこれがいい!」

「あら、こっちもいいわね。それに安いわ」

「ショウちゃん! ボク、これも食べたい!」


 あれもこれもと言う割には、一応値段も気にしてはいるようだ。二人の希望を聞きながら、お財布と相談して食材を買っていった。

 買ったものは、持ってきた手提げに入れてもらった。そして、その中身を見て、日野は困ったように笑った。


「思ったより大変そう……」


 自分に出来るだろうか。少しでも不安を減らすために、二人が食材を選んでいる間、店主に頼んで魚の下処理の方法を教えてもらった。

 やり方を忘れないよう注意しながら帰ろう。そう思っていた時、どこからか声がかけられた。


「ショウコ〜!」

「ショウちゃ〜ん! 早く帰ろう! グレンが待ってるよ〜!」


 辺りを見回すと、いつの間にか二人は少し離れた場所にいた。

 ──早く帰ろう

 何故だか、ハルのその言葉が温かく感じた。そろそろ夕暮れだ。早く帰って、夕食を作ろう。そしてみんなで、温かい鍋を囲もう。

 外は寒いはずなのに、内側からポカポカと温まっていく。日野は、小さく笑みを浮かべて、二人の元に走っていった。

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