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百三十七 ファッションショー

 宿の中で食事を終えたあと、四人がけのテーブルはランウェイと化していた。温かそうな緑色のポンチョに、細かい作りのタキシード。おまけに、スカジャンのような派手なデザインの服もある。購入したアルの服が全部で三着、そこに並べられていた。

 それらの服を順番に着こなし、テーブルの端から端まで、ポーズを決めながらネズミが歩いていく。小さなファッションショーに、日野たちは盛り上がっていた。


「これ、全部ボクじゃなくてアルが選んだんだよ! ね、二人はどれが一番好き?」

「そうだなあ……私はこのヤンチャな服が一番好きかな」

「私はさっきの正装のほうがいいわね」

「ボクはね、緑のポンチョが好き! みんなにも気に入ってもらえてよかったね、アル」


 褒められて、嬉しそうな仕草をしたアルの頭を、日野が人差し指で優しく撫でた。

 指の腹に当たる灰色の毛は、ふかふかと柔らかい。彼は、ネズミという割には身体が大きく、ぽっちゃりとしていた。だからなのか、今着ているヤンチャな服もよく似合う。

 グレンの好みはどれだろうか……ふとそう思い、聞いてみようと隣を見た。しかし彼は、声をかけ辛いと感じるほどに、タキシード風の服を凝視していた。


「すごいな……」


 縫い目などを確認しながら、小さな声で、何度もそう呟いていた。どうやら、服の完成度に感動しているようだ。

 この街に入った時は少し嫌な顔をしていたのに、すっかり楽しんでしまっている様子の彼に、日野は小さく微笑んだ。

 そして、夢中になっている彼の二の腕を、指先でつんつんと突いた。気付いた彼が、こちらに視線を向ける。


「なんだ?」

「グレンは、どの服が一番好き?」

「…………これだな」


 しばらく迷ったあと、彼が指差したのは、日野が選んだものと同じものだった。それを着ていたアルが、嬉しそうにその場でくるりと回ってポーズを決めた。

 その姿が可愛くて、日野は再びアルの頭を撫でた。

 ──彼と服の好みが同じだった。たったそれだけのことで、なんだか嬉しくなって顔が緩んでいった。

 ふわふわの毛を撫でながら、日野はふと前を見た。すると、向かいの席に座っているハルとローズマリーが、口元に手を当ててニヤニヤとこちらを見ていた。


「ラブラブね」

「ラブラブね」


 同じ口調で、からかうように二人が言うと、日野の顔は途端に赤く染まっていった。


「違っ──これは、えっと……その……私たちだけじゃなくて、グレンの好みも聞いたほうが、アルが喜ぶんじゃないかなって!」

「いいのよ。恋する乙女は周りを気にしてはいけないわ」

「大丈夫。ボクたちはそっと見守っているから」


 必死に否定しようとするが、目の前の二人は面白がって聞いてくれなかった。助けを求めようとグレンを見るが、彼は服に夢中でこちらに気を向けていない。

 頬はどんどんと熱を帯びていき、恥ずかしさを隠すように、日野はテーブルに突っ伏した。

 こういう時、どう対処すればいいのかわからない。どうして私は器用に人をあしらうことができないのだろうか。

 そんな自分に対して溜め息を吐きながらも、日野は顔を隠したまま、楽しそうに微笑んだ。


 賑やかな夜は、あっという間に過ぎていった。日野がそっと窓に近づくと、遅くまで開いていた飲食店なども営業を終え、外は真っ暗になっていた。

 明日の朝になれば、また次の街へ向けて歩くことになる。あとどのくらいで、ザック先生のいる街へ行けるだろうか。あとどのくらいで、ローズマリーは刻とルビーちゃんに会えるだろうか。

 そんなことを考えながら、窓の外を眺めていると、パッと部屋の明かりが消えた。


「寝るぞ」


 彼の言葉にこくりと頷くと、日野はベッドに入って目を閉じた。

 そして、楽しかった今日を思い出しながら、ゆっくりと眠りについた。

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