私はエルフ族のヤブ! お日様みたいな髪の毛と掴みやすい耳が自慢の天才外科医系美少女! こっちはヤクザ族のリュウサン。 黒いスーツとワインレッドのシャツは返り血が目立ちにくいんだって。
私はエルフ族のヤブ!
お日様みたいな髪の毛と掴みやすい耳が自慢の天才外科医系美少女!
こっちはヤクザ族のリュウサン。
黒いスーツとワインレッドのシャツは返り血が目立ちにくいんだって。
私たちは二人で世界中を旅しているの!
「さーて、今日も困っている人を根治させちゃうぞ~!」
「仁義」
今のはリュウサンの鳴き声。
大体、肯定的な意見の時に仁義って言うよ。
ニュアンス的には「うん、ぼくもそれが正しいと思うぴょん☆」って感じかな?
私の旅の目的は、病気や怪我で困っている誰かを一匹たりとも逃がさず治療する事!
さっきも言ったけど私、お医者さんなのだ☆
先祖代々、血を見るのが大好きだから天職なの♪
私は楽しい、患畜どもは健康になる……みんな幸せ過ぎてハピネス☆彡
だから今日も率先して危険な森に入っていくよ!
こういう所は冒険者とか言う調子こいて死にかける連中で入れ食いなの☆
「リュウサン、覚悟は良い?」
「上等ォ」
今の鳴き声は、「ぜんぜん平気だみぃ☆」って時の鳴き声だね。
「頼もしいね、でも油断しちゃダメだよ?」
「んだとゴルァ?」
今の鳴き声は、「えぇ~? どうしてなのだわん?」って時の鳴き声だね。
「この森は【はらぺこの森】って呼ばれていて、入った者をぺろりと呑み込んじゃう魔境なんだって。足を踏み入れた冒険者は八割しか還って来れないとか」
「意外と帰れとるやんけ」
今の鳴き声は「能書きの割にがばがば逃げられてるじゃんウホウホ」ってツッコミの時に出る鳴き声だね。
「二割は死ぬんだよ!? 一〇億匹はいったら二億匹は死んじゃうんだよ!? 下手な一国の総人口以上だよ!?」
もう……リュウサンは頼りになるけど、緊張感が薄いゆるキャラ系みたいなところが玉に瑕☆
「……ぅ……た、すけ……」
「ッ! リュウサン! 今の聞こえた!?」
「んだとゴルァ?」
「死にかけのセミの鳴き声みたいなのが聞こえたの! たぶんこれは瀕死の人間風情が近くにいるよ! 探して!」
「合点承知……血の匂いなら嗅ぎなれとるからよぉわかるでぇ……こっちや」
今の鳴き声は以下略。
◆
「う、ぅう……そ、そこのエルフ族の少女と……ヤクザ族の男……た、助けてくれ……死、ぬ」
私の耳とリュウサンの嗅覚に狂い無し!
見事に脂汗ぐっしょりで今にも死にそうな人間が一匹いたよ!
若い男性だね? 目立った外傷はないなぁ。膝を擦り剥いて少し流血してるくらい。ちょっとガッカリしょぼぼ。
体格が良いから結構な量の血が詰まってそうだのに、宝の持ち腐れだぞ、ぷんすこ!
「ねぇねぇ君。どこが悪いの? 頭? 顔? 鮮血が見れない系は私の管轄外だよ?」
「っぐ……は、腹だ……き、【寄生虫パッパラパー】に寄生されちまったんだよぉ……死にたくねぇよぉ……」
「お、パッパラパーか。なら私が治療してあげるね!」
寄生虫パッパラパーは生き物のお腹に寄生して食い殺しちゃう魔獣で、助かるには開腹するしかない厄介者☆
「合法ハラキリ~☆ ぶっしゃじゅぶりゃぁあ~ん♪ 内臓もみもみ・静脈ぱぁ~ん! ……あれ?」
ゴキゲンに歌いながら手術の準備をし初めてびっくり!
「ま、麻酔が切れている……☆」
「なッ……!」
どうしよう……麻酔が無いと患畜が暴れるから手術を楽しめない……!
それに下手したら死んじゃう……だめ、命は尊いの☆
だって生ある限り、何等かの病気や怪我からは逃げられない!
つまり今日の患畜は未来も患畜!
死体には病気も怪我もないんだもの……私は意地でも患畜を生かして帰すよ!
でも、どうすれば……。
「嬢ちゃん、これ使ィ」
「え、リュウサン……?」
今のは、私が何か道具を切らして困っている時にそっと代替品を差し出してくれる時の鳴き声……?
「この小さくて透明な袋に入った白い粉は一体……」
「国によっては、免許を持っている奴が用法用量を守って使う分にゃあ合法っちゅう、ええクスリや」
今のは「これは麻酔として使えるものなりけり☆」って時の鳴き声!
「リュウサン……大好き! ありがとう! これで何の気兼ねもなくこの患畜の腹をかっさばけるよ☆ 尊い命を助けられるんだ!」
「仁義」
リュウサン……雨の日にハチの巣みたいな状態で路上に転がっているところを助けてあげてから妙に私になついてくれているリュウサン……! あれ以来、いつも私を助けてくれるリュウサン! 控えめに言ってもエンジェル!
「……ッ、んだとゴルァ……?」
「ん? どうしたのリュウサ――ッ!」
これは……足音が聞こえる……!
かなり大きな畜生の足音! そしてリュウサンが私より先に反応したって事は血生臭い系!
「ぐぉおおおおおおお!」
「【抹茶ドラゴン】!」
木々を薙ぎ倒して現れたのはすっごくマウンテンサイズな緑色のドラゴン!
そっか、血生臭い系じゃなくて、大好きな抹茶の匂いに反応したんだねリュウサン!
リュウサンお茶しばくの好きだもんね☆
でも抹茶ドラゴンだって立派な肉食魔獣!
どうしよう、戦えば勝てるけど患畜を早く治療しないと死んじゃうかも……!
「報恩謝徳・忠孝仁義……嬢ちゃんの邪魔ァ許さへん。この喧嘩、わいが預かるでぇ」
「リュウサン!」
出た!
今のはリュウサンが「きみの邪魔をする悪い奴らは全員、ぼくが内蔵ずり出して始末してやるるん♪」って時の声!
「任せた☆」
「上等ォ」
不敵に笑ったリュウサンが懐に手をしのばせる。
あれを出すんだね、リュウサン……!
リュウサンの究極術式……!
「見さらせや……これがわいの【オハジキ・ヴァンヴァン】や」
極位の鉄造形魔法と火炎魔法と加速魔法の合わせ技!
ヤクザ族秘伝の魔術――オハジキ・ヴァンヴァン!
懐から錬成されたまるで小さなライフルみたいな形の鉄魔法の容器から、火炎魔法と加速魔法を組み合わせてすごい勢いで小さな鉄塊を発射する術式!
当たった相手はほぼ死ぬ!
万が一仕留め損ねても重体には追い込めるから匿われる前にトドメをさせば良い!
殺意の塊みたいな禍々しい魔術だ!
「リュウサン! できれば殺さないでね! 瀕死、瀕死だと嬉しい! 脾臓あたりを集中的に狙って! ダメージは入るけどそう簡単に致命傷にはならないから!」
「合点承知」
さて、抹茶ドラゴンはリュウサンに任せて――
「人間の君、ブスッといくよ☆」
「お、お手柔らかに……」
◆
「いやー今日の患畜は良い子だったね。治療した御礼にお餅をくれるなんてー。美味☆」
「絶品至極」
おまけにいつかのリュウサンみたいにハチの巣になった抹茶ドラゴンの治療もできたし☆
私もリュウサンも返り血まみれになっちゃったけど、☆大☆満☆足☆
「この森を抜けたら温泉が有名な街に出るらしいよ。そこで返り血を流そっか」
「極楽気分」
うんうん、リュウサンってば温泉も大好きだもんね。
わくわくが止まらないのかボキボキ拳を鳴らしちゃって、可愛いなぁ☆
「温泉街か……硫黄……硫化水素……ふふ、次はどんな患畜に出会えるのかな! 楽しみだね!」
「前途洋々」
「よーし! みんな片っ端から救っちゃうぞ~! 命は尊いんだぁ~☆」
「仁義」
待っててね、未来の患畜たち☆
切らなくて良い病気だろうと切って完璧に治す……!
私とリュウサンが、一匹のこらず健康体にしてあげるから!