08.初日から相手していいボスではない
《退毒の首飾り》が壊れていた。
おそらく蛇と戦闘した時だろう。
戦闘ログを確認したら、『毒』『麻痺』『混乱』『沈黙』の状態異常にかかったというログと、『魅了』『怒り』『睡眠』に抵抗したというログがあった。
装備で麻痺耐性も上がっていたはずだが、それでもかかったのは数が多かったか、ステータスが足りなかったかといったところだろう。
それ以外の状態異常で抵抗できたのは、なぜだ?
《退毒の首飾り》は毒状態の場合、ダメージを受ける代わりに3回まで毒を解除できた。
結構便利そうだと思っていたんだが、まさかの壊れてしまった。
いや、使い切ったら壊れるのは当然なんだが。
無事仕事は全うして貰ったという事にしよう。運よくもう一個ぐらい手に入らないだろうか?
広間から先に更に通路が一本。
進むしかないだろう。
通路を抜けると、また広間が一つ。
その広間には巨大な蛇が一匹、鎮座している。
『ようこそ、客人よ。この先を見たければ汝の力を示して見せよ』
「おや、もしかして知能を持った相手なのか? 色々語り合ってみたかったが、力を示せと仰るならばそちらを優先して進ぜよう」
『いざ参る』
そんな少しばかりの会話を皮切りに、戦闘が開始される。
その戦闘は少し異質だった。
互いに構えもせず、微塵の動きも見せない。異様な程静かな時間が経過していく。
クリアはExスキルを含む複数の回避系スキルによる疑似的先読み、大蛇は【先見】という名の未来予知スキルによる先読み。
互いのスキルが作用し合って、互いの動きを封じていた。
あー、困る。困るなあ。
このままだと、こっちが先に力尽きるしなあ。
ここで負けるわけにもいかないが、だからといって今の手札じゃ決して勝てない。
だからといって、小手先の生半可な技術では歯が立たない。
ならば今持てる技術を使い、理外な方法で討つしかない。
〈ウィンドウィング〉、〈ウィンドウォール〉。
永く短い膠着を無理矢理破り、覚悟を決め蛇に向かって走り出す。
自己強化に加え、自身と蛇の周りを囲むように空気の渦が発生し、風の壁が現れる。
空気の渦に乗り、風の壁を、床を、天井を縦横無尽に走る。【軽業】による平衡感覚強化、極少歩数限定の壁走りで実現した立体機動。
曲芸の類だが、曲芸でも使わないと掠り傷を与えるのさえ厳しい。それだけの実力差が存在する。
超高速移動をしながら短剣で攻撃を仕掛け、大蛇の肉体に無数の小さな切り傷が出来ていく。
ダメージなど殆ど入っていないだろう。
それでも僅かな隙を作り出せるまで、死ぬまで繰り返す。
蛇の攻撃が髪や服を削っていく。
普通にこの速度と動きについて来れるのか。本当に困るなあ。
一瞬動きを緩めても、相手の攻撃を読み違えても、攻撃する箇所を間違えても、それは死だ。
更に言えば、APがなくなっても、MPがなくなっても死。
最善な行動を続けなければ死に、そのうえで相手の"読み"を上回らなければ勝てない。
ゲーム始めたばっかりでやる難易度ではないかな、うん。
しばらくそんな均衡が続いた。
MPもAPも欠乏寸前。
短時間で大技を使って一撃で決めに行かなくてはな。
あまり使いたくはなかったが、これも使わせて頂こう。
だが問題な事に、これを使うにも相応の隙が必要な事か。
〈マインドカース〉、〈マインドショック〉。
〈マインドカース〉で敵の精神を下げつつ、〈マインドショック〉で混乱付与。完全に混乱しなくても、一瞬だけでも思考を逸らせればいい。
これでMP切れで魔術も打ち止めだな。
そして間髪入れず――を投擲。
『ぐぬぉっ』
見事に眼球に命中し、大蛇が呻き声をあげる。
放り投げたのは毒袋。例え毒に耐性があろうと、眼球に毒液が染みれば痛い。寧ろ痛くなかったら困る。
大蛇の背後に回り、飛び上がる。
「〈ネックハント〉!」
今覚えたばかりの【短剣】スキル。
クリティカル攻撃に関する確率、威力共に補正が入り、極低確率の即死判定を発生させる。
一度きりの博打。これで決めきれなければ、もはや手がなくなり負けだ。
大蛇の首が切断され、頭部が地面に落ちる。
倒れてくれたか?
『ここに汝の力は示された』
「……首落としても生きているのか」
『なに、あと数分もせず息絶える。間際の虫と変わりはせん』
「そうか……」
『気に病まれるな。我は守護者。いずれにせよ、我に勝たねばこの先には進めん。いずれこうなる運命だったのよ』
「この世界に生を受けた時に、生命を失う覚悟も、生命を奪う覚悟も済ませた。心残りはあるが……、後悔はない」
『道理で強い。最期の相手が理知ある強者だったことが、我にとっては僥倖か』
「間際にこんな質問に答えるのも億劫かもしれないが、質問させてくれ。この先には何がある?」
『この先に何があるのか知らずに来たのか。それは行ってみてのお楽しみという奴だ。そうだな、汝なら充分任せられる』
やはり教えてくれないか。
それにしても任せるってなんだ、任せるって。
『客人よ、最後に汝の名を教えて教えてはくれぬか』
「……クリアだ」
『クリアか、汝との再見を愉しみにしておこう』
そう言い残すと大蛇は光粒子となって霧散し、消え去った。
クリア
――――――――――――――――――――――――
ダークエルフ・♂ 斥候 Lv.40
HP: 411( 411)MP: 20( 431)AP: 21( 472)
■称号
来訪者
狩人
戦闘狂
――の祝福
時の女神の祝福
■ステータス
STR : 25
VIT : 1
AGI : 40(+25)
DEX : 52(+16)
INT : 21(+15)
MND : 21
LUK : 70(+ 5)
■スキル(残SP12)
【短剣Lv.20】【弓Lv.18】【投擲Lv.5】【二刀流Lv.13】
【闇属性魔術Lv.19】【風属性魔術Lv.18】
【敏捷強化Lv.25】【器用強化Lv.16】【知力強化Lv.15】【魔力強化Lv.16】【行動力強化Lv.14】【幸運強化Lv.5】
【不意討ちLv.15】【先制Lv.16】【急所狙いLv.22】【回避Lv.22】【体捌きLv.13】【闘争】【心眼】【見切り】【先見】
【同時発動Lv.6】
【潜伏Lv.14】【気配希釈Lv.14】【認識阻害Lv.3】
【索敵Lv.19】【気配察知Lv.23】【鑑定Lv.14】【千里眼Lv.20】
【罠解除Lv.3】【軽業Lv.9】
【採取Lv.5】
【細工Lv.5】
■装備
武器 吸血の短剣 (初心者の弓)
初心者の短剣
頭 ――
腕 黒紅の小手
胴 夜のタキシード
背 ――
腰 矢筒
脚 初心者斥候の革靴
他 皮製の指貫
精密の指輪
――