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転生者選定NO.  作者: 鈴明明書房
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勇者燃ゆる2

 山頂のど真ん中でドラゴンは居座っており、一加一行はついにドラゴンアジュラと対峙した。異世界の住人一加はもちろん、エクバもミニアドも話には聞くがドラゴンは初めて見る。その巨体からでるプレッシャーに3人は息をのんだ。


 ミニアドとネネラが前にドラゴンの前に出る。


「約束通りこの娘を連れてきたわよ。」


「貴様たちはなんだ?」


「偶然、村に立ち寄ったギルドの戦士で、山頂まで連れていくようにと依頼されました。」


 ミニアドが事前に決めておいた内容。これで村人は月円王国へもギルドへも行っていないことにはなる。納得するのはべつだが。


「ふむ。ギルドには行っていないのか。」


 不満そうな顔をするドラゴン。


「これで村には手をださないんですね。」


「ああ当分の間はな。」


「当分?それはいつまでなんです?」


「さあな?勇者が現れるまでは定期的に続くな。」


 目の勇者の言葉が出たことに一加、エクバは驚くが、ミニアドが冷静に2人を制する。


「どういうことです。」


「我が望みは勇者を喰らい、栄誉と力を得ること。そのために勇者の現れた国の近くであるあの村で張ることにしたのだ。噂はあっても姿までは知らんからな。ここで生贄を取っているとすれば噂が流れ向こうからやってくるだろう。」


「そのためにここまで来たのですか?」


「ああ。そうだ。西の大陸に着くまで生きてる保障はないからな。あの老人どもが王国やギルドに救援を求めないとは思いもしなかったわ。ま、貴様らが来たことでよしとしよう。」


 余計なことをするなと言われたら無理だろとエクバは考える。


「・・・・勇者についてはどれくらい知っているのです?」


「その国を出て、魔物を退治しながら世界を回り始めたことくらいだ。胸板の厚い奴って噂だから屈強な男なんだろ。」


 ドラゴンの言葉を聞いて両手で胸を隠す一加と吹き出すエクバ。だがドラゴンは気にもとめていない。

間違った噂から、目の前にいるのが勇者であることを思いもしないからだ。


「そうですか。」


「さあ。もういいだろ。」


 ドラゴンは右腕をネネラに向けて伸ばす。その前にエクバと一加が剣を構えて立ちはだかる。


「なんだ貴様ら、依頼はここまでなんだろう。お前らはさっさと戻って噂を流せ。それか勇者に知らせろ。」


「最後の勇者を倒したら。村はどうするつもりなんです?」


「ふん。この地の思い出としてくれるわ。」


 一加の質問に答えるドラゴンの表情が歪んだ。その表情が滅ぼすと言っているっことを、一加は理解した。


「そういう訳にはいきません。」


 うっとしそうにするドラゴンに対して一加が答える。


「まさか、このゲスカルと戦うつもりか。」


「最初からそうだよ。」


 ニヤと笑うエクバ。


「ネネラさんは下がって。」


 ネネラを下げさせ杖を構えるミニアド。


「ふん。バカどもが。生き残れるチャンスをふいにしおって。」


「いやいやいや。あんたこそ今私たちを返しちゃうと、チャンスをふいにしちゃうよ。」


 エクバがミニアドの前に立ち首を横に振る。


「どういうことだ。」


「それは・・・・・・・・・・・・・・なんでしょうね!」


 エクバが左に走り出すとともにミニアドの杖より強烈な閃光が放たれる。戦いは始まる。



 

 戦いの中、ゲスカルは勇者が来ていることを知り、全力で出してきたが、一加たちは互角に戦っていた。


「俺を、この俺を、バカにしやがって。どいつもこいつも。ふざけるなああああああああああああ。」


 ドラゴンの怒号は山頂を揺らした。


「お前らに見せてやる、このゲスカルの火炎を。真の火炎を。」


 翼を羽ばたかせ飛びあがろうとするゲスカル。だがミニアドの放つ魔法ががゲスカルを這いつくばらせ、その一瞬にエクバと一加は4枚の翼のうち右翼2枚に斬撃を加える。


「貴様らああああ。」


 ゲスカルは飛ぶのをあきらめ、口から火炎を連続でまき散らす。ミニアド、一加は防壁の魔法で防ぎ、エクバはミニアドの後ろに隠れる。一加はネネラを心配したが、彼女も事前に持たされた魔石で防いでいた。命中しなかった火炎は燃え盛り、山頂は一気に熱気に包まれる。火炎により移動に制限も生まれていた。ゲスカルの狙いはこれだった。


「ふう。熱い熱い。これは火傷じゃすまないね。」


 ミニアドの後ろでエクバが愚痴をこぼす。


「これで終わりなはずないわよ。本命は次!」


「見せてやる。真の火炎を!」


 重力の魔法効果が切れたゲスカルは身を深く構える。ゲスカルのオーラが、熱気が燃え上がる。


「真の火炎は燃やすんじゃない、燃やし尽くすのだ!!!!」


 口から火炎が放たれる。


今までとの火炎とはケタ違いに威力が違う。戦士3人は本能がそれを察した。


「イチカ!ネネラさん!」


 ミニアドは全魔力を込めた力の防壁を作る。このあと魔法が使えなくなってもかまわない、ミニアドが次を考える余裕がないほどの威力の火炎。一加の防壁でふせげるか?ネネラに渡した魔石では間違いなく防ぎきれない。ミニアドは焦るも防壁を張るのに精いっぱいだった。


「ネネラはイチカが守ってる。見えた。」


 後ろにいるエクバが答えた。それでも無事でいられるかわからない。


 一加は最速の動きでネネラの前に立ち、防壁を張る。少しでも力を抜いたら死ぬ。一加も全力だった。


(・・・・・・・もう!)


 一加の限界が来る。だが炎は尽きない。防壁が揺らぎ始めた。もう持たない。もう一度魔法を発動させるにはどうしても、一呼吸以上の間がいる。


「ネネラさん、右後ろに逃げて!」


 何個か使っていたが、ネネラは魔石をまだ持っているはず。魔石を使いながら、右後ろにあるくぼみ、戦いでできたくぼみに身を隠せば、直撃は避けれる。それなら助かるかも。


「ダメ」


 一加の防壁は消え、炎が一加を襲う。




「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」


 悲痛な声が山頂に響いた。炎の爆音が鳴りやまぬ中、確かにその声はエクバとミニアドの耳に届いた。


「「イチカ!」」


 2人の脳裏に最悪が想像される。一加がネネラを見捨てることはない。だとしたら、自分の身を盾にしてでも守るはず。


 火炎は余波も併せて、山頂の光景を一変させた。大地は焦げ、木々、草は消失している。周囲が煙と焦げた臭いで充満する。


「はあはあはあ。」


 ゲスカルも息が荒くなっていた。だがこれで片付いた、そう思った。そこに人影が見えた。その影はミニアドとエクバだった。


「貴様らあああ。」


 口を噛み締めるゲスカル、自分の火炎で生きている人間が信じられず、許せなかった。だが今の火炎に全力を使ったのですぐには動けない、まずは呼吸を整えないといけない。


 魔力のほどんどを使ったミニアドは膝をついている。エクバは一加のいた場所へ走り出す。その様子を見て、勇者は倒したと確信するゲスカル。ゲスカルの耳にも女の叫びが聞こえた。あれは今まで聞いてきた死を迎えた者が出す叫びと一緒だった。


 勇者は喰えなかったが倒すことはできた。これはこれでいいあとは雑魚2匹。疲労はあの娘で癒そう。

ゲスカルがそう思ったところで


「イチカ!」


 エクバは煙の中から現れた人影に抱き着いた。ゲスカルはその状況を見て、唖然とし、ミニアドは安堵した。


「よかった、生きてて。」


「・・・・・・・・・・・・・・」


 エクバに抱き着かれても一加はなにも反応しない。


「イチカ?」


 エクバは身を放し、一加の体を見る。怪我らしい怪我はない。気絶もしておらずただ、呆然としているのだ。


「・・・・・・・・ネネラが・・・・・・・・・・・・・。」


 その名前を聞いて、エクバははっとし周囲を見渡す。ネネラの姿が見当たらない。


「防壁の消えた私をそこのくぼみに押し込んで、魔石を全部、私のほうに投げたの。」


 エクバはもともと一加がいた付近に横わたっている物体を見つけた。人の大きさをしている物体を。焦げた物体を。


「村を救ってって言ってた・・・・・・・・・。そのあと炎に包まれて・・・・・・・・・・・。」


「ミニアド!」


 エクバは一縷の思い掛ける。直撃はしたとしても、防壁で威力は減っているはず。それならもしかしたら。死んでなければ、まだ、魔法で治療が。


 ミニアドは力を振り絞り、ふらつきながらもネネラのもとへ行き、焦げた物体に手を当てる。そして、悔しそうに目を閉じ静かに首を横にふった。その行動を目で追っていた一加は膝から崩れ、エクバが抱きかかえる。


 ネネラは死んだ。


 昨日、出会ったばかりの年の近い女性。婚約者がおり、これからもっと幸せになるはずだった女性。守ってほしいといわれた女性。世界を救う勇者である自分を救った女性。最期まで村を救ってと言った女性。


 一加にとっては初めての経験だった。目の前で人が死ぬ、殺される状況を見るのは。


「ふん。魔法のおかげで、形が残ったのか。」


 呼吸の整ってきたゲスカルは焦げ残ったネネラの死体を見下ろす。


「今終わらせてやる。」


 ゲスカルは焦げた大地の爪を立て、腕を振ることで土砂を巻き上げた。エクバは身をていして、一加をかばう。


「くう。」


 致命傷こそないが、脚をやられる。


 ゲスカルは一加のほうへ近づいてくる。エクバは焦った。ミニアドは魔力切れ、一加も心ここにあらず。戦えるのは自分だけ。だが一加を放すことができない。ミニアドもネネラのもとで精魂つきたようで立てないでいる。


 一加の前に立ったゲスカルは右腕を高く上げる。


「これで終わりだ勇者。」


「勇者?」


 一加が反応した。エクバに支えられたまま、目線をゲスカルに向ける。


「しねえあああああ」


 エクバは死を覚悟し、振り下ろされる腕を見つめていた。ゲスカルの腕は振り下ろされ、山頂はまた揺れた。

























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