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転生者選定NO.  作者: 鈴明明書房
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ドラゴン転生する2

 バルララの胸には斬られたドラゴンの腕が突き刺さっている。あと数10センチメートルでその爪は心臓に突き刺さる。そのような深手でもあるにかかわらず、バルララはさらに力が増していた。


 対峙するのは1人の人間と1頭のドラゴン。人間は満身創痍で、立っているのもやっとに見える。その隣のドラゴンはさらに深刻な状態であった。右腕、左の翼、尾は既に切断されなくなっている。だがこのコンビも瞳の闘志は尽きていなかった。


 このコンビの瞳がバルララの怒りをさらに燃えがらせる。


 バルララは全身全霊を込めたブレスを放つべく、口を開ける。このとき、翼が健在なバルララは空中からブレスを放つこともできた。だが、満身創痍のコンビに、ましてや人間相手に、安全策をとるのがバルララのプライドに障った。


そして、真正面から放たれたブレスは余波を含め、周囲を全て消し去った。


(終わった。・・・・いやまだだ。)


 この場の決着はついた、が、バルララの戦いが終わりになったわけではない。


 バルララは舞い上がった煙をうっとおしく思い、腕で払う。


 その裂けた煙の隙間から倒したと思ったドラゴンが突っ込んできた。バルララは驚くと同時に、口から吐血した。


 異変を感じた胸に目を向ける。人間が胸に刺さったドラゴンの腕を押し込んでいたのだ。戦闘中、抜こうとすればスキができるため、抜けないでいたドラゴンの腕。これが押し込まれたことにより爪が心臓を貫いたのだ。


 バルララに理解できたのはここまでだった。


 バルララが視線を胸にむけた瞬間、突撃してきたドラゴンにより、バルララの上あごから頭部が削り取られたのだ。


 戦争の元凶。始まりの個体。眠らぬ赤龍。バルララは死んだ。精根尽き果て倒れた人間とドラゴンとは異なり、バルララの遺体は上あごから頭部を失っても倒れることはなかった。



 

 パソコンを食いつくように見るバルララ。画面の自分は動かなくなった。


(我が負けた?死んだ?)


 確かに記憶は胸に人間がいるのを理解したところで途絶えている。今見たものも、自分の記憶とがっちしている。


「どうだい?理解したかい?」


 パソコンを操作し、画像を止める百次。


「あ・・・・・。」


 バルララはなにかを呟く。小声で聞こえないため、百次は近寄ろうとするが、ミカアルによって両耳をふさぐかたちで止められる。それと同時に


「あり得ぬうううううううううううううううううううううううううううううううううううう。」


バルララの怒号が空間に響きわたる。床が揺れ、空気も振動しているのが百次にもわかった。


「我が人間に敗れる?我が死ぬ?有り得ぬわああああああああああああああああああああ。」


 バルララの怒号はやまない。


「これ、無理だね。」


「そうでしょうね。」


 耳をふさがれたまま、ミカアルに振り返る百次。ミカアルが右手を振ると空間は静まり返る。


「今度こそ1時間くらい?」


「そうなるとよろしいんですが。」


 このあと、百次たちは同じやりとりを4回するととなる。ミカアルは次のものへ回すことを提案するが、こっちの都合で呼んだ以上、転生については説明したいと百次は断る。


「さて、話を聞いてくれるかな?」


「・・・・・・・・・・。」


 バルララは無言で百次をにらむ。体は動かないがこの目線だけでもただの人間の百次にはプレッシャーがかかる。


「結論を言うけど、死んだのは事実。でここは死後の世界。で、重要なのはむしろここから、君には転生・・・・生き返るチャンスがあるってわけ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「理解できた?」


「・・・・・・・・はっ。ははは。ばあーーはっはっはっははは。」


 バルララは笑った。


「バカも」


「人間が自分を殺すだけでもありえないのに、生き返らすなんてもってのほか。」


 バルララの言葉を遮るミカアル。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「あらわかり易い。」


 バルララは口を閉ざしミカアルを見下ろす。全くない動じないミカアル。2人のやりとりを首を振り見守る百次。


「そして、この状況は同じドラゴンによるもの。それしかありえない。いえ、それがぎりぎりで納得できる考え。周囲の状況を理解しても、これ以外の考えは認めない。認めたくない。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「力はあっても、子供は子供ね。」


 溜息をつくミカアル。


「このおん」


 バルララが叫ぶより、ミカアルの腕ふりの方が早かった。


「では再三動きを封じこめてる私も人型に変化したドラゴンに見えますか?」


 能力の高いドラゴンはヒト型に変化でき、見た目は人間と分からない。だが闘いに通じた者は気配で人との違いが判る。無論バルララはそのレベルに達しており、それ故、人でもドラゴンでもなく、明らかに他の生物とは異なるミカアルの存在に内心困惑していた。


「私は天使。この死後の世界においてはあらゆる死者より強い力を持つ存在。特に力についてはもう実感してるでしょう。」


 ミカアルは白き翼を羽ばたかせ、掲げた右手にトライデントを具現化させる。


「死後の世界は誰もが想像しても、想定はしてないものです。ですが!これは想像ではない現実。そして、重要なのは転生するか、しないか。この2択です。」


 トライデントをバルララの目前に突き立てるミカアル。バルララとは異なるオーラを醸し出しており、バルララはほんの少し冷や汗を流す。そして、初めて自分の死が頭をよぎった。今まで感じたことのないオーラ。今まで出会ってきたことのない気配を持つ存在。バルララのいや、ドラゴンの本能が自分の死を実感させてきたのだった。


「そいういこと。でどうする?あ、言葉なんかは通じるサービスはつくよ。それに答えれる範囲でなら質問も答えるよ。」


 ミカアルの独壇場を黙って見ていた、正確には口を挟む場所を見いだせなかった百次が口を開く。百次の催促を受け、ミカアルは指を鳴らす。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 バルララは無言で百次をにらむ。


「一応、最低限の説明はしたから、このままだんまりでいるとそのまま死んでもらうよ。」


「・・・・・・・・・・・貴様は何者だ。」


 ただの人間、っというのを堪える百次。人間といえばまた、振り出しに戻るのも見えていた。


「転生者の選定者。それ以外のなんでもないし、どうでもいいことだよ。」


「我はどこへ行かされるのだ。」


「今までとは違う世界。どんな世界かは君の感覚しだいだね。」


 人間には住みやすくても、ドラゴンに住みやすいとは限らない。


「我にそのような機会が来るのは当然として、我が選ばれた理由は?」


 (やっぱ誰でもその理由は気になるか。)


 条件があるとはいえ、転生のチャンスはくじ引きと同じ。そんなものんである。


「条件の1つに合ったから。ちなみに条件はもう1つあるけど、これは転生をするが決定してから伝える条件だから。」


「あとはなにかあるのか?」


「なにも、今回こっちからあーだこーだはないよ。転生するなら頑張って生きてってくらい。」


「ふむ。」


「どする?」


 


 バルララはしばしの思考を終え、口元を歪ませる。


「確かに貴様らは我の知る生物ではないようだ。だがそんなものはどうでもいい。我にはすべきことがある。さっさと転生先とやらへ送れ。」

 

「転生するでいいんだね。」


「ああ。」


 すべきことが人間の粛清なのは百次でも想像はついている。だが今回の転生条件にそれを禁じる項目も強制する項目はない。


「もう1つ秘密の条件があるけ」


「なんでもかまわん。さっさとしろ。」


 この空間からすぐにでも立ち去りたいバルララ。もう1つの条件がなんであろうと、自分なら問題ない自信があった。


「ふうん。じゃあ。ミカアル準備のほうお願い。」


「承りました。」


 ミカアルは目を閉じ両腕を広げるとバルララは光に包まれる。


「なのをしている女。さっさとしろ。」


 バルララはなにかの力に包まれるのを感じたが、特段異変を感じなかった。


「これで準備はよろしいですね。」


「あらら。」


 百次は回転椅子を回して、バルララに背を向ける。


「ふふ。かわいいじゃない」


 かわいい?


「おい、何を言っている?さっさと我を送らんか。」


 バルララはミカアルを見上げる。ここでバルララは自分の異変に気付く。今まで体を抑えられた状態になってもミカアルと百次を見上げることはなかった。真正面からとらえることができた。


 だが今は2人の頭部が先ほどよりも高い位置にある。バルララは自分の体を確かめる。


 赤い自慢の体が、人間の皮膚と同じ色になっていた。逞しい肉体がひょろ細くなっていた。翼と尾が感じない。


「き、貴様らなにをしたーーーー。」


 自分の声も甲高くなっている。


「はい。お嬢ちゃん。」


 ミカアルが全身鏡を具現化し、バルララは鏡に映った自分を見る。


「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」


 映るは裸でいる人間の女の子だった。年齢5、6歳くらいの女の子。ひょろほそい体格だが健康的な肌色。赤い眉、赤い髪。釣り目。そして無邪気な見た目を強調するかの如く八重歯が見える。


 自分が動くと同じように鏡の女の子も動く。まぎれもなくバルララの姿だった。


「き、貴様らこれはどういうことだ。」


「自分の嫌う種族として、転生することがもう1つの条件。」


 百次は背を向けたまま答える。今回の条件。


『転移者 NO.16

 人型以外の生物が、最も嫌う生物として転生する。

 「最も嫌う生物しての転生」については、条件が存在する旨を教えるのは問題ないが、詳細内容について

 転生を決意するまでは教えない。

 年齢にあっては死亡当時の年齢を転生対象生物の年齢に概算したものとする。

 

 対象外

 転生前種族 人間。エルフ、ドワーフ、獣人等の亜人。                   』


 無論バルララには知りえぬ内容ではある。


「なぜそれを言わぬ。」


「もう1つの条件はあるのは言っただろう。そして、その内容は転生するって決めてから教えるのも。」


「なんでもかまわんって言いましたね。」


「ぬううう。」


 百次、ミカアルの言葉にバルララは言葉を詰まらせる。こんな条件だとは想像すらしてなかった。


「元に戻せええええ。」


 ミカアルに攻め寄るが、右手で頭を押さえられただけで、近づけない。腕を伸ばして体を掴もうとするも、腕が届かない。全く力もはいならい。腕を回しても結果は変わらなかった。


「行くって決めたんだから、もう遅いよ。くくっ。」


 チラっと首を回してバルララとミカアルの様子を見た百次。母娘のじゃれあいにしか見えなかった。


「うるさーーーーーーーーーい。戻せえええええ。」


 バルララはいったん間合いを取り、ブレスを放つため息を吸う。がいつもと感覚がちがい、ただ息を吸っているだけだった。それでもブレスを撃とうとバルララは息を吸い続ける。


「ふふ。人間はブレスを撃てないわね」


 ミカアルの口元に笑みがこぼれる。バルララはブレスを諦め、魔法を使おうとするも何も起きない。


「その体は自分の魂をもとにできた人間の体。ドラゴンとしては桁違いの才能はあったけど、人間としては普通みたいね。」


 ドラゴンになるべきの魂、存在。


「なにか羽織るものくらい用意したら。」


「そうですね。」


 ミカアルの腕にマントが具現化される。・・・・・服装を一通り用意できそうだけど、と百次は思う。


「はい、暴れないでね。」


 バルララにマントをつけるミカアル。この間もバルララは叫んでいたが、ドラゴンの時とは違って甲高い声が響くだけだった。


「はい。出来たわ。では送りますね。」


「あた。」


 ミカアルにポンと軽く押されるだけでバルララは尻もちをつく。


「じゃあ。さっきも言ったけど、頑張って生きてね。」


 バルララ方向へ回転椅子を回した百次。


「では。」


 ミカアルは両腕を広げる。そして、光がバルララの体を包みこむ。


「おい、まだは」


 バルララは叫びながら消えた。最後まで騒がしい存在だった。



「静まりましたね。」


「そうだね。」


 ミカアルの言葉通り、空間は静まり返っている。今回は爆音と静寂の繰り返しだった。


 パソコンでバルララの状況を確かめる百次。天に向かって叫んでいるバルララが映った。マント一枚で騒ぎ立てており、ときどき、肌色が見えすぎて危ない。


「まあ。元気にやってけそうだね。」


「そうですね。」


 第3者から見れば、パソコンの画面を見ている大人2人が、5、6歳の女の子1人を未知なる世界に無一文で放りなげている状況。天使のミカアルはともかく、常識的な人間なら児童虐待なども考えるかもしれない。だが百次は元ドラゴンということで一切気にしていなかった。


「本日はこれで終了。」


 パソコンの電源を切る百次。1人目・・・1匹目で見つけたとはいえ、長時間の対応だった。


「この後はどうします?お風呂?ご飯?それとも私にします?」


 回転椅子に座っている百次に対してミカアルは後ろから腕を回してくる。綺麗な腕が自分を包み込む状態に心拍数をあげる百次。ただ、悪戯、冗談、からかいってことはミカアルの表情を見てわかる。これをミカアルに教えたのはあいつだろう。


「お疲れさまです。」


 動揺を見せずに百次は立ち上がる。


「あら。日課ですか。」


 ミカアルは物足りなさな表情をだすも、頭をさげも天使の居住区へ。


「さて、俺も、と。」


 百次も席から立ち上がり、自宅へ。


「こっちもかい。」


 自室のパソコン画面には一加が映る。一加一行はドラゴンと対峙していた。奇遇なのか、偶然なのか。

ただ、そんなお気楽な考えは自分がこの空間にいるからできるものだ。画面越しでも現場の空気が張りつめているのを感じる。自分の前にいたのは死後の世界による力を封じられたドラゴン。一加の目の前いるのはその世界に適した全力を出せるドラゴン。


 無事を祈るしかできない百次は画面を食い入るように見る。












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