英雄の帰還
表に出ないはずの黒歴史設定
Q リングコスチュームや水着のアイディアを出したエクバのセンス評価を100点満点で表すと?
大英雄『ファルナ・フォン・ラランド』
背丈ほどの両手剣を武器としていたことから『大剣一刀公』
その浅黒い肌と金色の長髪から『純黒獅子』
斬撃が月に跡をつけたことから『月斬り卿』
斬撃で月の模様が猫からバニーガールに変わったことから『ウサたん公』
などと呼ばれているこの英雄を、出身国である大国イゼルンガでは誰もが知っている。この国だけではない、それもそのはずでこの世界でも5指に入る偉人なのだ。戦士、騎士では最も有名である。
彼は地方貴族の次男として生まれ、幼少期から他とは規格外の力を持っていた。訂正生まれたときから規格外の力を持っていた。
『赤ん坊時のはいはいで地面に手形をつけた』『生まれた日にゆりかごを壊す』『おもちゃは鋼鉄製の特注』『ゴブリンの集団が戦う前から逃げ出す』
などなど真偽はともかくそのような逸話が残っている。
その力は幼少期の害獣退治、少年期の山賊退治で周囲、国へと知れ渡っていく。そして、活躍の場が国になると、彼の義に厚く、高潔な性格が名声を一層広めた。
このまま活躍の場が大陸へとなると誰もが思った。がそれは少し時をおくことになる。
『空白の5年』
彼は忽然と世界から消えたのだ。幽霊の如く。消しゴムで字が消えるかの如く。彼の活動はピタリと止まる。判明している事実は一つ。彼の仲間や友人たちもある朝忽然と姿を消していたと口をそろえていること。
そして人々の間では々なうわさが流れた。
さらなる高みをめざし鍛錬に励んだ。名と姿を変え、人助けをしていた。記憶を失い別人として活きていた。不治の病にかかって死んだ。暗殺された。知られてはいけない戦いに赴いていた。国の馬鹿どもに幽閉されていた。などなど。
結局、彼がどこでなにをしていたのかは彼が答えなかったことから、いまだ謎である。余談だが、彼を扱う作品では創作者の腕が鳴る期間でもあり、この謎の期間が彼の魅力ともなっているのも事実だ。
彼の復活も物語としては劇的だ。
イゼルンガにおいても、彼の死亡説が信じられはじめたとき、世界では厄災大竜オゾガが猛威を振るっていた。
そして、オゾガが迫ったことからイゼルンガは討伐隊を編成した。討伐隊には彼のかつての仲間もいた。
そのオゾガとの闘いで劣勢に追い込まれた討伐隊の前にふらりと現れた彼は周囲のどよめき、混乱を無視して、さも当然とオゾガに挑み始める。
そして、満身創痍の討伐隊の前でオゾガを単身撃破。自ら本物であること証明し、彼は再び表舞台へと姿を現したのだ。
浅黒い肌に獅子を彷彿させる髪はかつてと変わらない。
新たな武器であり、長身である自身と変わらぬ大きさの両手剣「メリーゴーランド」
5年前とは比べものにならないほどの強さ。
変わらぬ姿と新たな力とともに彼の復活は瞬く間に世界へと広がる。
オゾガ退治を皮切りに、彼は大英雄としての道を歩む
10の海賊団とその傘下海賊による死武海同盟を粉砕したヴィルラヴァ海戦
8人の凶悪武闘集団『絶武ハ極』の八人抜き
隣国トドランの侵略の阻止と真相解明
仲間の貴族令嬢と結婚。式での大乱闘ブーケトス
新婚旅行で愛馬ウェーブとの出会い
巨人『国つぶし』のコンスタ討伐。巨人『開拓』のパムパムとの交友。
魔神ハルドーナとの闘いでは月の模様を変えた
後に秘宝迷宮サルジン、新島幻惑バンガン等を攻略する希代の冒険家サナン・ランディールの保護、育成
語られぬ最後の死闘
大英雄として生きた彼は家族に見守られて大往生をとげた。
これから語られるのはその大英雄の物語……ではなく、その子孫の話。そして、その子孫も今、死を迎えた。
完
とはならない。まだ英雄の物語は序章を終えたばかり。そうなるとは本人すら想像していなかった。
「そうか、それはよかった」
満足な笑みを浮かべて男は死んだ。
男の名はガーゼン・ロンダー・ラランド。『大英雄の再来』『黒珠の剣士』『イゼルンガの守護壁』と呼ばれた紛れもない英雄である。
大英雄の血筋である彼は数代ぶりに「メリーゴーランド」を扱うことができる戦士だった。性格も語られる大英雄と同じ義に厚く、高潔な性格であり、それゆえ再来とまで呼ばれた。
ゴブリンの大集団を正面から単騎で殲滅
一躍有名となるイゼルンガ剣闘会での優勝
ネクロマンサーが復活させた『絶武ハ極』との死闘
暴竜帝バルララ一団との竜雅戦線では副将格3頭および100頭近くの竜撃破
(ガーゼン自体はバルララと戦う計画だったが、いろいろあって相対することはなかった)
友を失いながらも『帰還者』との闘いを終結させる
決着つかずじまいの東イビックの英雄である弓兵スワンドとの決闘
英雄最後の戦いで、悲劇の始まりとなる眠れる大蛇ムカンジャル討伐
そして、ガーゼンの最期。それは内乱勃発を止めるための自害。
享年28歳。英雄の再来の最期は戦いを止めるためのものであった。
「ここがアルトリウス……」
新たな世界を目にして、ガーゼンはつぶやく。目に映る景色は自分のいた世界とそうは変わらない。がさっそく違和感に気付いた。それは『メリーゴーランド』どこか疼いているように感じる。
メリーゴランドから疼きを感じるとき、それは強者と戦うとき。だが、今日の疼きかたはどこか違うように感じた。付近に人の気配を感じないから、原因がわからない。異世界だからか?それとも新天地での戦いの予感に闘志を抑えられないのか?それはわからない。
「あれは?」
周囲を見渡したガーゼンは一つの異変に気付く。今にも雨が降りそうな空模様だが、雲には一筋の晴れ空があるのだ。その晴れ空は偶然ここから見えるといったわけでなく、どこまでも真っすぐに続いていた。
元居た世界にはない空の切れ目。ここが異世界だとガーゼンは実感した。だけど、メリーゴランドだけはそれを知っているように思った。
「きゃーーーーーーーーー」
人の叫び声がガーゼンの意識を引き戻す。これからどうするか?それらを考えるいとまもなく彼は動き出す。
体の芯から英雄である彼にとって、悲鳴を見逃すことは考えられない。いや、今まで以上に、だ。
時はそこそこ遡る。
友の顔が虚ろになり、だんだんと遠くなっていた意識。それが急に双方ともにはっきりとする。
目に映るのは真っ黒い空間だが、暗闇ではない。自分の姿も確認できる。ぱっとみだが、死ぬ間際の汚れや胸の傷もない。争いを止めるために手放していた「メリーゴーランド」も背にある。
戦士としての経験が既に、周囲を確認と自身の身体確認、考えられる可能性の模索を同時並行で実施していく。死ぬ間際とは状況が違う。それははっきりしているので、自然と柄に手を添えた。
ネクロマンサーによる蘇生の可能性、魔法の効果は感じられない。精神面も自分としては異常なし。
『メリーゴランド』3つの隠し要素の1つ、『破術効果』を発動させたので、魔法効果は掻き消された。
そして、複数の気配を感じる。前方2人。自分とならぶように位置するのが5人。
「皆さん、意識ははっきりしましたか?」
女性の言葉に反応して、前方に意識がいく。座っている男性と立っている女性。女性の言葉から、この2人は状況を把握している。警戒心を引き上げたガーゼン。どうやら自分側の4人も警戒のレベルをあげたようだ。空気がピリつく。
空気だけでもわかる。自分側の5人は只者ではない。中にはあの弓兵スワンドを思わせる気配を感じる。
「流石、各世界で大英雄と呼ばれるだけはありますね。大丈夫です?」
「だ、大丈夫じゃない、」
ほんの少しだけ冷や汗をかいた女性ミカアルと死にそうな顔の男性百次。
「すいませんが、警戒を解いてくれます?私はともかく、彼がまいってしまいますので。それに皆さんが気にしているこの状況について説明しますので、こちらにおかけください」
ゆったりとした声でのお願いに1人1人警戒を解いていく。
「お茶を用意しますので、少しお待ちください」
数分後、
「どうぞ、楽にしてください」
ミカアルの出されたお茶に口をつけたのは2人。均整のとれた肉付きの男と方眼鏡の老紳士。
「ふむ。いい味ですね」
「ふうん。美味しいとしか、俺にわからん」
「美味しいと分かれば十分ですよ」
「そういうもんか?」
「それで十分というお方ですよ。あちらのお方は」
「へえ。よくわかるねえ。年の功ってやつかい?」
「そんなところです。お三方もどうです?毒などは入っていませんし、温かいうちに味わうべきだと思いますよ。それに我々に敵意や悪意がないのはすでにお判りでしょう?」
老紳士に促されて1人を除く3人もお茶を口にする。
「待たせてしまいしたね。それでは説明をお願いしますよ」
老紳士はミカアルと百次へ目線を向ける
「それでは……」
ミカアルがガーゼンたちの状況を説明する。皆死んだこと。ここが死後の世界であること。6人には転生の機会があること。行き先は魔王により平穏が崩れつつあるアルトリウス。6人が選ばれた理由の1つは英雄であること。この説明により候補者6名は互いに只者ではない理由を知ることとなる。
「それでは6人全員が転生するのですか?」
唯一の女性が手を挙げ質問する。
「いえ、1人になります」
「1人ですか。ではそちらの方が選ぶのです?」
候補者の視線は百次のほうへ。6人はすでに気づいている。百次が自分たちのよく知るただの人間となにひとつ変わらないことに。ミカアルが自分たちとは異なることに。だが、立場的には百次が上司である。そのようにふるまっていることも分かっている。
「あ……」
説明をミカアルに任せていた百次はあほ面でお茶とお菓子を味わっていた。そして、候補者の視線に気づいて、固まってしまう。
「選定の方法は話し合い。この中からか1人に決めてください」
そんな百次をスルーしてミカアルは選定方法の説明をした。視線がそれたことで百次はホッとする。逆の少しの戸惑いを見せたのが6人。転生する人以外のものに『死ね』ということを一瞬で理解
したからだ。
今回、百次は各世界から6人を選ぶまでで、あとはいるだけの立会人である。だが、転生先が転生先なので、入念に候補の資料を目に通し、一加のためになる候補者を選んだ。それで、燃え尽きていたという事実はある。
そんな百次のことをスルーして、選定は進んでいく。
「まずは自己紹介からですかね。レン……いえこれは不要ですな。私はロンウォー。生前はと言うと奇妙ですが、軍師をしておりました。お見知りおきを」
ロンウォー・ノルデン。科学と魔法が高レベルで混じりあう世界バウトリア出身。 杖に帽子、ステッキとだれがどう見ても老紳士。享年86歳。異名『白灼のロンウォー』 3代の王に渡って仕えてきた武闘もできる軍師。
「俺は三治 厳。格闘家だな。誰が選ばれても恨みっこなしだぜ」
三治厳。異能力者のいる現代社会に近い世界コフィーディア出身。均整のとれた筋肉だが胸に大きな傷のある男性。享年28歳 異名『雷槍の三治』 異能『発雷』を武器に戦ってきた格闘家
「騎士シオン。各界の英雄と出会えたこの奇跡に感謝を」
シオン・レイル
魔物はないが魔法はあり、群雄割拠の争いがいまだ続くジピア出身。内側に花びらが刺繍された白マントをつけるこの場で唯一の女性。 享年21歳。異名『蒼百合』 帝国に仕えた可憐なる女性騎士
「その点については同意。某は自来也。隠密でした」
自来也(偽名)
百次でも知る歴史人物と同名の者や空想の人物が現代に混在するジ・アース出身。背中で背負う巻物を含め7つの巻物を装着した姿を忍んでいるとは言わない。享年32歳。異名、隠密の姿は『無感』。戦う姿は『天地雷鳴』。平穏を影から守ってきた戦士
「……レドー」
レドー(本名は捨てた)
アンドロイドやらロボがそこらにいるまで科学の発達した現代世界エスエファ出身 享年38歳 異名なし トレンチコートに黒グローブの長身男性。変身はしないけど改造人間。実害しかないカルト宗教や秘密結社、犯罪組織等と戦い、壊滅させてきた男。
「ガーゼン・ロンダー・ラランド。戦士です」
ガーゼン・ロンダー・ラランド
魔物と魔法、ギルドにクエストな世界ネトゲム出身 以下略
「ほんのひと時の間ですが、よろしくお願いしますよ」
自己紹介で把握できたことを脳内で整理しながら、話を進めるロンウォー。
「それで、まず言わせてもらいますが、私は辞退させてもらいます」
当然のように話すロンウォー。
「おいおい、いいのかよ、じいさん」
たちあがって驚く三治。驚いているのは三治、シオン、ガーゼンの3人。自来也は視線をロンウォーにむけるのみで、レドーは腕を組み、目を閉じている。
「理由を聴いても?ロンウォー様」
シオンが尋ねる。
「なに簡単な話ですよ。皆様と違って私は十分生きていますから。おそらく一番年上のレドー様でも、私の半分にも満たない年齢でしょう。なにより楽しいのはこれからって方が多そうですからね。後進に道をゆずるというものです」
年配者の余裕を見せるロンウォー
「ふうん。そういうことか」
椅子に座りなおり、顔をあげる。
「そういや、ウーのじいさんもそんなこと言ってたなあ」
何度か手合わせした永闘拳のじいさん。強かったし、また闘いたかったけど、その前に亡くなっちまったしなあ。あ、案外ここに来たりしてたかも。
「納得してなによりです。サンジ様」
「しかし、その世界のことはどうお考えです?」
騎士シオンが再びたずねる。これから行く世界は混沌へ進んでいる。おとぎ話で聞くような恐怖の存在がいる世界。
そのを聞いて見捨てることは私にはできない。騎士として。シオン・レイルとして。姫に信頼された者として。
ましてや、ここにいるのは各界の英雄と聞いている。自分なんかがとは思うところはあるが、重要なのはそこではない。
「確かに見方によっては、そこの世界を見捨てているとも言えます。ですが。私でなくてもその手助けはできると考えています。そのための皆さんなのでは?」
その世界の魔王は異世界から呼ばれた勇者でしか倒せない。自分たちのような者はその世界の住人として捉えられるので倒すことは不可能。できるのはその手助け。もちろん、その手助けをしないで自分の生きたいように生きても構わない。とミカアルから説明を聞いている。
「それに私は軍師の端くれ。少数精鋭より大軍を有する場でこそ力を発揮するもの。私の知る者のいる私がいた世界ならまだしも、異世界だと、私は無力ですよ」
戦略を練るにしろ、戦術を練るにしろ、自分が働くには大群が必要不可欠。ぽっとでの老人に大軍を預ける人物は普通はいない。軍を組織していくとうい考えもあるが、組織編成に必要な人材もそうそう集まるものではない。軍師はできても、指揮官ではない。戦場の管理に普段の生活の管理までとなると手が足りない。
個人としての実力はガーゼン、サンジの2名には遠く及ばない。恐らくこの中ではこの2人が上位。元いた世界でも彼らと戦える人物はそうはいない。
単純な戦力でいうなら、彼らのどちらかが行くべきなのだろう。だが、自分を含めた6人はそれぞれ得意分野が異なる。
誰が転生しても、勇者のプラスにはなる。彼(百次)は考えているようだ。
「それに主からゆっくり休むように言われますのでね。それにも応じたいと思っています」
10代で国に使え始めてから、国民の中では激動の人生を送っているほうだと思うし、周りの人もそう言っていた。自ら望んだ生き方で、後悔もなく十分働いたと思うし、働きすぎと小言を言われ続けたものだから、ここらでゆっくり休むのも悪くないと思う。
「ああ。今日までありがとう。ロンウォー、今までの分も含めてゆっくり休め」
最期に聞こえた主の言葉。『休むこと』それが結果的に死ぬことでも、他の世界を見捨てることでも、自分の望みでもある。
「主の言葉ですか……」
死にゆく理由の一つに主からの言葉。仕える者して生きてきたシオンには十分すぎる理由であった。決して、死ねとか言っていることではないと理解できる。労いの言葉にも死後でも応える。そのあり方には敬意をもてる。
「そういう生き方もあるもんなあ」
とある国の誇り高いキックボクサーが脳裏に浮かぶ三治。あいつメッチャ頑丈だったなあ。
「軍師殿のお考えはわかりました。そして、手前勝手ながら某も辞退させていただく」
「な、忍者もかよ」
目を丸くする三治。
「理由は今、サンジ殿がいった立場故」
自分は世界の影の極一部。だが自分の持つ情報が元の世界に渡る可能性はなくさなければならぬ。想定外の死後の世界だろうと、異世界だろうとその可能性は0ではない。それに自分が仕えるのは首領にのみ。死後であっても誰かに仕えるわけにはいかない。
「……影は影であれか」
理由を聞いてい似合わぬ真剣な表情となった三治。忍びの生き方と死に方を体現した男を知っている三治。その男の任務に巻き込まれ、敵対し、共闘し、その死を看取った。この自来也も同類なのだから、なにを言っても無駄なことも理解した。
「すいません、忍者とはいったい?私以外は理解しているようなんですが」
その言葉の意味を知りえないのはこの場ではシオンのみだった。
「言葉が通じても、世界や時代が違うとそういうことありますか。そうですな。まずはスパイ、諜報員といったところですかね。故に知られてはいけないことに近い存在」
「諜報員……そうですか」
ロンウォーの説明で自来也の理由を理解したシオン。それもそのはず、シオンは騎士という表の役目のほかに、諜報員という裏の役目を持っていた。だからこそ、世の出せない事実の重みを知っている。異世界、死後の世界だから、そこまで考えなくでいいのでは?とも考えるが、この状況でもその行動を実行するのは、自分と異なる死生観を持っているからだろう。
「ご理解に感謝申し上げます」
頭を下げる自来也。
「なんか、このままだと辞退ばっかになりそうだから言うけど。自分が転生する、したいってのはこの中にはいないのか?」
自分を含めて進退をあきらかにしていない面々の顔を見る三治。
「「「……」」」
無言だった。
「はああ?いないの?」
流石に想定外だったのか、立ち上がり大声を出す三治。
「ちょいちょい、あんたら、英雄なんだろ?自分が勇者の手助けするぜって言うんじゃないのか?とくにお嬢ちゃんやあんちゃんなんかズバリって感じなのに」
シオンとガーゼンの2人を交互にみる三治
「そういう、サンジ様はどうなんですか?」
「俺?」
シオンの問いかけにキョトンとする三治。
「うーん。その異世界ってのには興味ある。強い奴らにあえるだろうし、俺は今より強くなれるかもって考えるから、行ってみたいと思う」
「なら、サンジ様が」
「でもな。理由が結局それなんだよな。世界うんぬんなんかより、戦いてえ、強くなりてえって思って生きてきたからなあ。あ、一応堅気には迷惑かけない生き方はしてきたつもりだぜ、たぶん。まあ、俺みたいな奴が勇者様一行ってのもなあって思うわけ」
腕を組んでしかめっ面となる三治
「あと、俺の頭じゃ、自分が『英雄』として選ばれる理由が全くない。少なくとも、俺なりに考える英雄の基準にはあてまってないと考えるわけ。まあ、選ばれたら、俺なりにやるし、選ばれなくて文句はないな」
「……そうですか」
この中では一番単純そうに見えた三治の考え方を聞いて、少しだけ見方を変えたシオン。自分たちの知らない基準で自分たちは『英雄』と認められた。それが自分の考えと合致していない。だから、決断には至っていない。自分は英雄なのか?その疑問が脳裏から離れない。
「それなら、俺も同じだ」
名前を言った以外無言だったレドーが口を開く。
「俺はただ復讐の果てに死んだだけだ。転生とやらもする気もない。話は以上だ」
家族と友人の仇討ちから始まった戦いの日々。己の不甲斐無さから、裏への道連れとしてしまった9人の漢達。赤と黒の世界で生きてきた自分に次は不要。
「……そうか」
このやりとりで了承した三治。
「いいのですか?」
「そりゃそうだろ。誰だって言いたくないことだってある。それに他の2人と同じで覚悟が決まっている空気を持っている。説得とかは無駄だろ」
不思議そうな顔をしているシオンの問いに答えた三治。
「そうなると転生するのはあんたたち2人のどっちかだな」
シオンとガーゼン。転生するのはどっちだ。すでに辞退を決意しているロンウォーと自来也は成り行きを見守り、レドーは我関せずの立ち位置から変わらない。
「それならすでに答えが出ていますね」
口を開いたのはシオン
「行くべきはガーゼン様、あなたです」
真っすぐな瞳でガーゼンを見つめた
「な?!」
ガーゼンは戸惑う。ここまで辞退する者ばかりだったことにも戸惑っていたが、理由を聞いて納得もしていた。だが、この中では一番、異世界の状況を案じていたのは彼女だった。それに年若い女性だ。心優しい女性に優しくしないと生前の悪友や従妹に殴られる。だから、自分も辞退しても良いと考えていた。
「それでいいのかい?」
三治が気をつかったようだ。彼は複雑ではないが、決して単細胞ではない。と彼を好意的にとらえている人達の評価だ。シオンは一番年下の女性であることで、ガーゼンも辞退するつもりであったことに彼は感づいている。
「私とガーゼン様との力の差を皆さんもお判りでしょう」
ガーゼンと自分では天と地の差があることは既に理解している。
「それは……そうだ。確かにお嬢ちゃんよりは戦士のほうが力は上だろうな」
「それに私は対人の経験しかありません。この差は大きいと思います」
「戦士のほうは?」
「魔物と呼ばれる存在との戦闘経験はあります」
「私は騎士です。もしこの場で私しかいないなら、私がその世界に行きます。ですが、この場では私よりふさわしい人がいます。その世界のことを思うなら、私の弱さが世界を救うための枷になる可能性があります。ですが」
「ですが?」
「この考えは、ガーゼン様の意志を無視して押し付けているとも思います。ガーゼン様、あなたの意志をお聞かせください。辞退するなら私が行きますし、転生する場合も席をゆずります。どちらにしろ、私には迷いはありません。もちろんサンジさんが言ったように恨むことはありません」
レドーを除く面々の視線がガーゼンへ集まる
「少しだけ、考えさせてくれ」
ガーゼンは目を閉じる
なにがなんでも異世界に行くという考えは微塵もなかった。
自分と同じ英雄と呼ばれた面々がいる。単純な力なら自分か、サンジと呼ばれる武闘家なのだろうが、皆、単純な力ではなんらしかの技能を持っているのは分かる。この面々ならその世界のことも託せるとも思った。
だが予想に反して、各々が自らの意思で辞退している。残ったのは自分と女性騎士。
誰よりも若い、おそらく20歳前後の彼女。だが、高貴な精神を持ち、自分とはかかわりのない世界を心から憂いている。
自分は行くべきか?それとも目の前にいる女性騎士に託すか?
そもそも自分はその世界のことを真剣に考えたか?自分はその世界の勇者の力となれるのか?
脳内で自問自答が繰り返さえられる。
「自分の思ったままに行動もできないってなると英雄もたいへんだなあ」
「おや?あなたもその英雄と判断されていますが、サンジ殿。」
「俺はただ、周りに迷惑をかけない程度に自分のやりたいことやってきただけだぜ。そんな行動は一切したつもりなんだいけどな。ただ、修行したり、手合わせしたりしてただけなんだが?」
三治は知らない。修行中に襲ってきた相手や大会に出てきた一部の相手の危険度を。たまに巻きこまれた戦いや、成り行きで共闘したときの敵対者の危険度を。表世界の情報は常識範囲で知っているが、知らないうちに踏み込んでいた裏世界の情報を全く知らなかったから故に。
「それがあちらの判断する英雄的行動に当てはまったってことなんでしょう。サンジ殿」
「実感がないことを評価されてもなあ。あんたらのほうが選ばれた理由の心当たりの一つや二つあるんだろ」
「私も軍師としてするべきことをしていただけですね。自分のやろうとしたことが国のため、世界のためになったいました。死後の世界で評価されるとは思っていませんでしたが」
「生前そう評価された任務はあります。ここでも評価してくれることには礼を述べますが、某は任務をこなしていただけです」
「あの2人もそうでしょうし、そういうほうが力を出せるタイプですね」
誰かのため、守るため、平穏のため。なにかを背負うことで強くなるタイプの人間。ロンウォーはシオン、ガーゼンをそう判断する。それと同時に自己犠牲も躊躇しない精神を持っている。英雄という言葉が分かりやすい形で似合うタイプであろう。
「自分が思うままに生きても、同じ道を生きるようにも思います」
あの2人は騎士として生きる道と自らが思う道が重なっているように見える。忍びの自分とは違う道。その道に悩みながらも歩んできたのだろう。
ガーゼンは三人の雑談を耳にし、
『たまに思うままに生きてみたいとは思わないの?』
生前の幼馴染の言葉を思い出す。自分の思ったままの行動。
答えが出る。
「お。決まったかい?」
「ええ。待たせてすまない。サンジ殿」
「それでお答えは?」
「シオン殿。私が異世界に行く」
「そうですか。ではお願いします」
全てを受け入れ微笑むシオン。死への恐れは微塵とも感じられない。
「よろしいのですか?ガーゼン殿」
世界のために戦いに赴くこと。そのために相手を死に向かわせること。そのことへの葛藤はないのか?ロンウォーは年配者として尋ねた。
「シオン殿を死なせてしまうことに思うところはあります。ですが、彼女は『平穏のため』を優先する。そして、託されたことに応えたいと私は思いました」
思ったままに行動する。その答えが『想いに応じたい』というものだった。結局自分は、そういう思考に至ってしまうようだ。それに戦うことには慣れている。自分らしくがこの結果に至るのだ。
「そうですか。では皆さん。ガーゼン殿でよろしいですね」
レドーも含め皆が頷く。
「任せたぜ」
「ご武運を祈る」
「気負うことなく気楽に。老人からの言葉としておぼいてといてくだされ」
「……」
「騎士として、ガーゼン様に出会えたことを誇りに思います」
異界の英雄に見送られ、ガーゼンは旅立っていた。
「これで、ガーゼン様は転生しました。お次は皆さまを逝くべき場所へ送ります」
ガーゼンを送り出したミカアルが5人ほうへふりかえる。
「左様ですか。ではよろしくお願いします」
「最期の最後にあんたらに会えてよかったぜ」
「某も同意です」
「……」
「最期の最後にですか……」
光に包まれながらシオンは思い返す。生前予言を受けていた。
『騎士である限り2度死ぬ。世界の平穏のため生きる限り2度死ぬ』
聞いたときは意味が分からなかったが、確かに予言の通りだった。元の世界で死んで、死後の世界に来た。死後の世界で新たな人生より死を選んだ。2度死んでいると捉えれる。
『逆の道を選べば2度目の死はない。選ぶのはあなた自身』
自分は騎士として、世界の平穏を選んだから死ぬことになった。その世界の行く末はわからないが、ガーゼンなら、きっと良い方へ進むだろう。だからこの選択の後悔はない。これでいいと思っている。
生前も死後も素晴らしい出会いに恵まれた。
「サンジ様のいう通りですね」
姫様、私は最期まで出会いには恵まれたようです。
笑みを浮かべてシオンの意識は消えていった。
「素晴らしい方ばかりでしたね」
「そうだね」
前衛戦力枠 ガーゼン 三治
諜報員枠 自来也 シオン
指揮官枠 ロンウォー
汚れ役枠 レドー
ロンウォーの想像どおり、今回の候補者は誰がアルトリウスに行っても一加一行のプラスになる。百次は1か月近くも吟味に吟味を、思考に思考を重ねて選んだ候補者達である。
誰でもいいから、一加の助けになってくれ。
この願いのために選定したメンバー。
『NО61 英雄
死した良識ある英雄の中で。また英雄として生きていくことになってもかまわないもの 』
映像内のガーゼンは叫びの聞こえたほうへ走り出した。
かくして、英雄は死後の世界から生者のいる世界に帰還した。英雄の物語の新章はここから始まる。ネトゲムには伝わらない、彼のファンに伝わらない。だが、彼の物語は終わってはいない。
英雄の新章を知りえる数少ない一人、百次は英雄の歩みを見守る。
が10秒もしなうちに一加のほうに映像を変えた。ごつい男より恋しい恋人じゃああ。
「……あいつか」
麗しい恋人は、また、新たに転生者と出会う。
「なんだ?こいつ」
そして、百次新たな敵を見つける。
A エクバやミニアドなど実際の着用した者 20点
理由 可愛いとか、素敵と思える部分はあるのは確か、だけど肌色が多すぎ、日常向きではない
ルティや『リボンの闘士』のデザイナー等の制作者 100点
作り甲斐はあるし、惹かれるし、嫉妬してしまうセンスです
エクバ系男子、女子からの評価 1000点
理由 同類は同類をぶちぎって評価した