転生するのは2
「生き返るのは1人、どっちが生き返るかはそっちで決めて。」
百次の言葉を2人は深刻に受け止める。だがそれは5秒もなかった。
「こいつを。」
「彼を。」
2人は同時に述べる。男はなにも考えていない雰囲気で、女は哀願するように、パートナーを選んだ。
王国の兵士だった男と宮廷魔術師の女。
鍛冶屋の次男であった男は腕っぷしが強かったことから兵士として働いてた。最低限の礼儀こそあるも規律に対してゆるく、出世や手柄に興味もないことから、異端扱いされていたが、飄々とした性格の本人は全く気にしていなかった。
女は代々王国に仕えてきた魔術師の家系のものであり、女も幼いときから、国で務めてきた。真面目で礼儀正しい性格に魔術師としての優秀さもあり、将来を有望されていた。
真面目な女の目に飄々とした男の行動、性格は問題児にしか見えなかった。そえゆえ初めの出会いは衝突からだった。男はいつもどおり気に留めていなかったが、それ以降、女の目から男が外れることはなかった。その衝突が何度か繰り返され、男がようやく女を覚えたところで、新たなきっかけは生まれた。
国境付近で、人さらいを敢行してた山賊退治に2人は参加することになったのだ。男は腕っぷしから選抜され(手柄を気にしない実力者なので、手柄を一つでもほしい上司には重宝されていたのだ。)女は立場故、山賊討伐班に参加していた。
攫われていた子供を庇い負傷した女を男が助けたのだ。そこで男は女の勇敢さに、女は男の優しさに気付いた。その後も衝突、助け合いを繰り返し、女からの告白で付き合うこととなった。そこから2年ほど経ち、女の頭に結婚が浮かびあがった矢先、隣国が戦争を仕掛けてきた。2人は国を守るため戦い、終戦間際に新人兵士達を助けて戦死した。
女は男の方を見て、静かに口を開く。
「私のせいであなたは死んだ。だから、あなたが生きて。」
女らしい真面目さと誠意が込められたお願いだった。
新人を助けるとき、男は持ち場を無視して女に付いてきたから、男も死んだと思っている。自分は死ぬとき男と一緒にいれた、それだけで自分は幸せだったし満足だった。だから純粋に男に生きてほしかった。また、魔術師としいう狭い世界でしか生きてこなかった自分は未知なる異世界で生きていける自信がなかった。逆に男は自分と違ってどんな世界でも飄々と生きていけると思う。それが安易に想像できて心の中で笑ってもしまった。だから安心して自分は死を受け入れられた。
「それだけじゃないわ。山賊のときも、闇商人のときも私はあなたに助けられて、今日まで生きてこれたわ。だからそのお礼をさせて。」
女は男に抱き着き、顔を胸に押し付ける。
「生きて。」
これが最後となるから、心音を温かさを体いっぱいで感じるように女は抱きしめた。
「いやだよ。」
男はいつもどおりの口調で否定し、女を押し離す。
「そんな、なんで。そうしないとここで終わっちゃうのよ。」
女は驚きの表情を見せる。自分のできる最後で最大のお礼のつもりだった。
「それはお前もだろ。俺はお礼が欲しくてやったことは1つもないし、お礼を言われても困る。」
男は困った顔をしている。この表情は本心であることに女は気づく。単純にピンチだから助けた、ただそれだけ。下心や打算などもなく、自分が窮地や死ぬことなについて深く考えていない、彼らしいところだった。
「でも、」
「それに異世界で生きていく自信もないから、俺に生きろって言ってるだろ。」
「それは・・・・・。」
男の指摘に女は口を閉ざす。
「あとさ、魔術師以外の自分ってあったのか気になってたんだろ。ならチャンスだろう、試してみなって。結局魔術師になるかもしれないけどよ、やってみなー。」
「覚えていたの?」
女は驚きの表情をする。交際する前に、お酒の席でこぼした話だ。女は男が覚えていないものだと思ってので、交際をしてからもその話をすることはなかった。
「その話はね。あー俺なんかと違って、難しいこと考えているなって。」
女としてはそこまで難しくは考えていないことだった。これも彼らしいところだった。
「だから、俺の願いとして、いろいろ試して、頑張って生きてな。約束だぜ。」
「え?」
その瞬間、女は気絶した。男の手刀が女の首筋を打ったのだ。男は女を横渡らせて、腕に巻いてたバンダナ、右耳についてたピアスを外し、彼女の手に持たせた。さらに自分のナイフと槍も横に添える。
「あー字を掛けるもんあります?」
「ん、ああ。」
百次は机の袖から油性ペンを取り出すして手渡す。ディーガにとっては得たいの知れない物であったが、百次のジェスチャーを見たあと、槍、ナイフに何かを書く。百次は注視すると槍には『売って資金に』と書いてある。
「ということなんで。シャウサでお願いしますわ。」
自分が死ぬのに悲壮感も断固たる覚悟もない。あくまで飄々としている。
「あー、条件出してなんだけど、彼女でいいのかい?」
「どこに悩むところが。」
百次の質問に迷うことも、照れる様子もなく答える男ディーガ。自分とシャウサならシャウサに生きてほしい、幸せになってほしい。彼にとって迷うことでも考えることでもなかった。
「そうかい。」
(かっけー。男の中の男だ。)
百次は表情にこそ出さなかったが、内心尊敬した。
「あ!」
なにかに気づきハッとするディーガ。
「どっちで転生したかったんだろ。・・・・・まあ、このままでいいか。美人では通るだろうし。この件は文句言わんか。」
今の肉体か、赤ちゃんからやり直すかどっちを選ぶは本人かにしか分からない。ここまでずっと、飄々としていたディーガが少しだけ遠い目をする。
(シャウサを転生させた件は泣かれて文句を言われるな。・・・・・・・・・・・・・・ま、いいか。)
「じゃあ、お別れはいいかい?」
「どうぞ。」
横わたるシャウサの顔を一瞥し、あっさりうなずく。
「ウリアル。お願い。」
「はいよ。」
終始大人しくしていたウリアル。ディーガの顔を見て、にやりと笑う。
「よ、あんた男だねえ。」
「そりゃ、どうも。」
ウリアルは目をつぶり、手を広げる。斧を使わないってことは敬意を表しているのかなと百次は考える。光がシャウサを覆い、消えていった。
「これで異世界に行ったんで?天使さんよ。」
ウリアルを見ながら、シャウサの横わたっていた場所を指さすディーガ。
「そうだよーん。」
「確認する?」
百次はパソコンをいじり、シャウサの状況を画面に出して、ディーガの方に見せる。パソコンも見たこなんてないディーガは怪訝な表情をしながら画面をのぞき込む。
ちょうど、シャウサが目をさましたところだった。街道に並ぶ木によりそそっていた彼女は周囲を見渡し、自分が転生したことに気付いたのだろう、自分が持っていたディーガのバンダナとピアスを抱きしめて泣き始めた。この様子をディーガは画面越しに無言で観ていた。
しばらくして、シャウサはディーガのバンダナ、ピアス、ナイフを身に着け、槍を手に持ち立ち上がる。魔術師以外の生き方があるのか、探しなとディーガは言っていたが、しばらくは魔術に頼らざるをえないか、っと苦笑するシャウサ。
魔術で街と思しき集落のあるほうを見定め歩き出す。その後、彼女はその街に住み着き、1か月もしないうちに、ディーガとの子を妊娠していたことが判明する。
シャウサが歩きだすの見て、笑みを浮かべるディーガ。満足したのかウリアルの方へむく。
「じゃ天使さんよ、俺のほうもサクっとお願いするんで。」
「いいね。その覚悟。あんたのこと当分の間、忘れないよ。」
ウリアルは目をつぶり、手を広げる。光に体を包まれ、足元から消えていくディーガ。最後まで満足した表情であり、パソコンの画像に目が行ったまま彼は消えていった。
2人だけとなった百次の執務空間。
「見つかった・・・・・・な。」
「いやー、いろいろ良いもん見た見た。」
疲れた顔をする百次、対照的に満足した顔をするウリアル。いがみ合う光景も、男を見せたディーガもウリアルの心を充実させるものだった。
『転移者 NO.10
一緒に死んだ恋人を転移させることを即決できる、恋人同士のうちどちらか1名。』
20組目で見つかったディーガとシャウサのカップル。
そこまで互いを罵るもはもちろん、掴み合う、殺し合いまで発展する者たち。最初こそ互いに相手を選ぶ発言をするも、最終的には自分を選ばせようとする者たち。無力な百次に遅い掛かる者たち。ウリアルはその者たちを喜々として、斧でぶったぎり転送させていた。
延々と醜い争いを見せられるのもキツイ。切られる人を見るのもキツイ。
(一加見て、寝よ。)
精神的に参るわけにはいかない。転生するのもだが、一加の力にもなりたい。だからしっかり休むようにしている。というか天使の1人に言われている。
「帰って寝るわ。」
「あっそ。」
天使は天使用の領域へ行き、百次も執務空間から自室へ戻る。
天使が用意してくれた、生前住んでいた部屋と同一の部屋へ。部屋の間取り、物の配置も一緒。服ものこったあり、さらに一加が置いていった一加のあの服や下着まである。天使には冷やかされ、蔑まされたあの服。
部屋には電気も通っており、テレビやパソコンも使えるので食事以外は困らない。食事も天使の力でなんとかなっている。
自宅のパソコンをいじり、一加の状況を確認。
「また、やってる。」