熱く舞う8
「やああああ!」
「らあああ!」
咆哮しながら両者はリング中央へ走り出す。ディアロボーニャの裏拳をしゃがんでかわし、腰元へタックル。それに耐えディアボローニャはマスカレイド・レイブに膝蹴り2発。3発目を逃れようとしたマスカレイド・レイブに対して、ディアボローニャは角を振り下ろす。
≪ディアボローニャの角一閃。マスカレイド・レイブかろうじて回避いいいいいい≫
≪わずかですが掠っています≫
マスカレイド・レイブの服の正中線に対して、切れ目が入る
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」
男性陣の叫びの中、角の追撃が入る。身体を貫こうと迫りくる角を体をひねるも、脇腹に激痛が走る。
「つーーー」
左わき腹部分の服が避け、体からは出血。痛みで声を抑えられない。
≪これも串刺しは避けるが、ダメージで動きが止まるマスカレイド・レイブ!≫
デイアボローニャはマスカレイド・レイブを酒樽の破片上へボディスラムで投げつける
「あああああああ」
この試合一番の大ダメージを喰らい、リング上で悶絶するマスカレイド・レイブ
「破片上へのボディスラムが決まったあああああああああ。もだえ苦しむマスカレイド・レイブ。だが追撃は終わらない」
「マスカレイド!」
キューティーパンサーの声に反応したマスカレイド・レイブは追撃の蹴りをなんとか躱しつつ、あご先を蹴りあげ、一旦間合いを広げる。
≪マスカレイド、なんとか追撃を避け間合いを取った≫
≪ここは交代して呼吸を整えたいところでしょうが、場所が悪いですね。経験の差がでたところになります。ノータッチで助けようとしたら、相手も当然対応してくる。≫
赤コーナーの前にはディアボローニャが仁王立ち。ゆっくり呼吸をしながら、マスカレイド・レイブは自分の身体を確かめながら立ち上がる。
左わき腹の負傷はそこまで深くはない。背中は血が出てるし、めちゃくちゃ痛い。でも動けないわけじゃない。今までの負傷とは違う痛みだから、声にでただけ。血はでたけど、これぐらいなら戦ってる。
・・・・うん。戦える。
いつのまにか怪我をしても戦うことが普通になっている。元の世界ではこんなことは絶対になかった。
こんなときだが、異世界にいること、戦う人になっていることを再認識してしまう。なんとなく可笑しくなって口元が緩む。
最後まで戦う。最後まで諦めない。最後まで前を向く。みんながいる。試合前の言葉を思い出し反復する。痛いけど落ち着いた気がする。
「なにすましてんだあ」
ディアボローニャのパンチのラッシュ。ガードするもロープまで押される。そしてロープの反動で前に押し出されたところで左脇腹を狙った前蹴りが来る。マスカレイド・レイブはその蹴り足に飛び乗り、ディアボローニャを飛び越える。そして、着地するや、後頭部を狙ったハイキック。
≪頸椎へのハイキックが決まったああ≫
疲れのせいか、頭部へは届かなかったがぎりぎり頸椎には届く。届かなかったことが恥ずかしかったマスカレイド・レイブ。ただ誰も気づいていないと思って安心している。が、実際のところ、
「頭部には届かなかったのね」
「頭部狙い」
エクバとクノンは気付いていた。
ディアボローニャはぐらつくも、すぐさま振り返り右ストーレート。
「やっ!パンサー!」
だがマスカレイド・レイブは一本背負いでディアボローニャを酒樽の木片へ叩き付ける。さらにキューティーパンサーのムーンサルトプレスも同時に決まった。
≪一本背負いにムーンサルトプレス!これは痛い!≫
≪タフとパワーのディアボローニャ。少しでもダメージを与える手段としては○ですね≫
今度はディアボローニャが苦痛でリング上で悶絶する。
「ディア!」
リングに入ってきたディアボローニャは新たな酒樽をマスカレイド・レイブにぶん投げた。酒樽を察して逃げようとするが
「おいおい。出された酒を前にひくのかよ」
ディアボローニャに腕をつかまれ、そのまま酒樽が衝突。
「マスカレ!・・・・っ」
「こぼした酒でわるいね。」
ディアボローニャは割れた破片をキューティーパンサの右肩に刺して、蹴り飛ばす
「ダーティー!」
立ち上がったディアボローニャはマスカレイド・レイブをドラゴンスープレックス。リングに衝突する直前にダーティパンサーがマスカレイド・レイブの両足を掴んで広げる。マスカレイド・レイブは自身の重さ、ディアボローニャのパワーと技の切れ、さらにダーティーパンサーのパワーと重さの加わった状態でリングヘたたきつけた。
「あっ・・・・・」
≪ここでスープレックスが決まったああああああああ。マスカレイド・レイブ、ダウンン≫
≪本来ならカウントを取られるところですが、この試合にはルール的にもレフリー的にもありません≫
立ち上がったキューティーパンサー、目線を一瞬マスカレイド・レイブに向けるもすぐさま目の前の敵へ
≪パートナーが倒れたが、キューティーパンサーは全く動じていない。≫
「なんか声くらいかけてやらないの?」
「ん。必要ない。いろんな意味で」
「そ・・・・・・な・・・・・・」
ダーティパンサーはキューティーパンサーから目線を外す。外さるを得ない。ディアボローニャも目を丸くしている。
「・・・・・私は・・・・・・・・れない・・・・・・・・・かた・・・・・・・」
どう見ても意識が朦朧としている状態でマスカレイド・レイブが立ち上がったのだ。ふらつき、血を流しながら、なにかをつぶやきながら。
「たたか・・・・・」
2人での渾身の一撃。普通の試合なら試合終了にこぎつけている。ましてやこんなに早く立つとは思ってもいなかった。
「終わって・・・・・」
「・・・・・あんたに決めればよかったかしら?」
「正解ね。KOかはともかく長時間は離脱してたわね」
「こいつは何者なんだ!」
「救世主!!」
「終わってない・・・・・あれ?私?」
意識がはっきりしたマスカレイド・レイブ。とりあえず体の痛みを我慢しながら、戦闘態勢をとる。ディアボローニャとダーティーパンサーがこちらを見る目がおかしくて不思議に思う。
≪たったああああ。渾身の一撃を食らった状態から立ちあがったああああああ≫
≪・・・・・・このわずかな時間で立つなんて、私には自信がないですね≫
含み笑顔のマシャカル
「パンサー。あのこの状況は?」
「驚いてるのよ!あなたの鈍さに!」
キューティーパンサーはダーティパンサーへソバットを決める。「鈍さ」に一瞬ショックを受けるもすぐさま動き出すマスカレイド・レイブ。
「やああ!」
ディアボローニャの顔面にパンチがクリーンヒット!
「あれ?」
「効いてはいるのか」
パンチを喰らっても平然としているディアボローニャ。その様子を見て自身の力が弱っていることに気付いたマスカレイド・レイブ。すぐさま間合いを広げ、対策を考える。
ディアボローニャは酒樽を手にとろうとしたので、その酒樽を踏み台にして顔面を蹴り上げる。そこから腕を掴んで肩車となり、体を後方へ倒しながらディアボローニャをロープへ持たれかけさせ、三角締めを決める。さらに腕はアームロック。
≪これは三角締めとアームロックの同時掛けか。≫
≪パンサーのほうはゴリー・エスペシャルですね≫
キューティーパンサーはダーティーパンサーにゴリー・エスペシャルを決めていた。
「うおおおおおおおおおお」
「つーううううううううううううう。まだああああああ」
ダーティーパンサーは右腕に力を入れて、技を外し、そこから先ほど破片を刺された右肩に腕を突っ込む。
「ったあ!」
痛みで力が抜けたところをゴリーエスペシャルから脱出。
「はあああああああああ」
「つっしゃああああ」
互いに投げ、打撃、関節、締め、剥ぎ取りを息つく間もなく仕掛けあう。
≪おおっとダーティパンサーはディアボローニャを助けることなく攻撃をしかける≫
≪信頼でしょう。さきほどキューティーパンサーがダウンしたマスカレイド・レイブを気にかけなかたように、ダーティーパンサーはディオボローニャが自力で脱出できると信じているんです≫
≪なるほど!≫
リング内では動と静の攻防が続く。
≪ここで、ディアボローニャは三角締めから脱出≫
長い脚でマスカレイド・レイブの顔を攻撃しつつ、空いている左腕で関節を外すことに成功したのだ。
リング外に落ちたマスカレイド・レイブだが、すぐさまリングに入り、のど元へチョップを決める。
≪こちらも熱戦となるううううう≫
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「パンサー」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ダーティー」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ディアー」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「マスカレイドー」」」」
会場の熱狂も最高潮へ。
≪ここで、ディアボローニャはフロントチョークから脱出した。」
立ち上がった2人。マスカレイド・レイブはロープに飛んで、フライングボディアタック。それをディアボローニャはキャチ。
≪ディアボローニャ、フライングボディアタックを受け止めベアハッグだああああああ≫
「らああああああああああああああああああああああ」
「か。はっ」
≪これで決める気のようですね。パンサーのほうもそろそろでしょうか≫
キューテイーパンサーの数字は48パーセント。ダーティーパンサーの数字は54パーセントまで減っていた。
「はああああ」
キューティーパンサーはアトミックドロップを決める。
≪おっとマスカレイドが動いた。これは?≫
打撃を決めるも一切緩まらないベアハッグ。マスカレイド・レイブは熱い胸板でディアボローニャの顔を覆いつくしたのだ。
≪抱き着いただけですね。ただ、思いっきり力を込めて、窒息させるために。終盤になってからは執拗に首を狙って攻撃していたのもこれを考えてかな。≫
ダーティーパンサーのボディスラムが決まる
≪ボディスラムが決まったああああ。なるほど!ですがディアボローニャはそれを取り外すつもりはないようですけど≫
キューティーパンサーは頭をつかんでボディにパンチ3連発
≪ディアボローニャも脇腹を徹底的に狙って攻撃していました。そして、この攻防で技を先に決めたのはディアボローニャ。意地とプライドから技が決まっているのに自分から離すことはない。≫
「あっ。・・・・・はあはあ。ふうう」
吐血しながらも技?を離さないマスカレイド・レイブ
≪キューティーパンサーはリバース・ゴリーエスペシャルを極めたああああああ≫
「こんなもので」
懸命にあがくダーティーパンサー。いろいろと見えそうになり男性客の目は見開いている。
「悪いけど、今回も・・・いや。今回は負けられないのよ。」
「はっ。今まで負けていい戦いなんてあるかしら?」
「負けていい戦い、じゃなくて負けられない戦いなのよ。私たちの戦いは。」
「なにが違うのよ。」
「あのちいさい背中にこの大きい世界を背負わせた戦いってことなの」
「なによ。それ」
「知らなくてもいいわ。そして寝れ!」
キューティーパンサーは背負ったままロープを駆け上がった。
≪キューティーパンサー、コーナー上で大ジャーンプ≫
キューティーパンサーは全力でリバースゴリーエスペシャルを絞めあげ、そのままコーナーにダーティーパンサーの頭部をぶつけた。
≪コーナーにダーティーパンサーを叩き付けたあああああああ≫
「はなしはまだ・・・・・」
リングに着地し、気絶したダーティーパンサーを離す。
≪ダーティーパンサーKO!≫
≪もう一方も決まります≫
「やああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・」
マスカレイド・レイブの咆哮が止む。
≪ディアボローニャが膝をついた。≫
「はあ。はあ。はあ。」
足がリングに届いたマスカレイド・レイブは静かにディアボローニャをリングに寝かせた。
≪マスカレイド・レイブが我慢比べにしょーーり!≫
≪ですが、試合はまだ終わっていません≫
≪そのとおり!この試合は服剥ぎ試合。相手の服を全てはぎ取ってこそ勝利となります≫
「あと少しだけ頑張りなさい」
ふらついて膝をつきそうになるマスカレイド・レイブの腕をとって支えたキューティーパンサー
「はあ。はあ。はあ。・・・・・うん。」
頷いたマスカレイド・レイブ。
キューティーパンサーは倒れているダーティーパンサーとディアボローニャの服を容赦なく乱暴にはぎとり、男性客は大絶叫。
はぎ取った服をマスカレイド・レイブは体を隠すようにかけてあげる。これには少数の男性客からブーイング。その男性客たちにはエクバ、クノン他数名からコップ投擲の制裁がはいる。
「「「「「「30・・・26・・・23・・・・20・・・18・・・15・・10・・・・」」」」
観客が減っていく数字をコールしていく。
「「「「「7・・・・・・3・・・・・0!」」」」」」」
数字が0パーセントになったところで、レフリーが試合終了の合図を出し、ゴングが鳴り響く。会場も大歓声に包まれた。
≪試合終了ーーーーーーーーーーーーー。勝者はキューティーパンサー&マスカレイド・レイブ≫
≪いい試合でしたね。≫
マスカレイド・レイブことイチカの試練は終了した。
リングを降りて控え室に向かう途中
「お疲れさま。面白い試合だったよ。」
「あ、ありがとうございます」
「どーも。」
イチカ達に声をかけたライク
「試合頑張ってください」
「ん。ありがと」
不適な笑みを浮かべ入場していった。
35分後 ライクの『エクスキューション』が決まり決着はつく。こうして2日目の対抗戦は終了した。
対抗戦が終了した翌日、服剥ぎされたリングコスチュ-ムのオーディション。最高額購入者にはコスチュームにサインの書き込みと握手付きであり、一番高額だったのはダーティパンサーのパンツ部分だった。
二日の休息を挟みキャンダの出発日
「い・ろ・い・ろ・とお世話になりました。」
「なにこっちこそ。」
ミニアドはバンバニーアと握手。見てるほうがハラハラとする雰囲気を醸し出しており、一加は気が気じゃなかった。が、目の前にあるのはチョウドの満面の笑み。
「ダンジョンの排除。選手の代打。祭りの売り上げ向上とこっちはだいぶ助けられたよ。ありがとうな。」
「いえ。」
「なにか手助けが必要なときは言ってくれ。『リボンの闘志』が全力で助けるよ」
「そんな。悪いです。」
豪快で表裏のないチョウド。本心で言ってくれているのが一加にも分かる。
「遠慮しなさんなって。なあカウラス」
「はい。社長のいう通りです。」
横に控えていたカウラスがうなずく
「イチカさん。我々は同じ釜の飯を食った兄弟の助けを拒まないんでね。なあ、みんな」
「オッス!」「そのとおり」「あったりまえ」「そうですよ。イチカさん」「まかせーなさい」
カカナ、ランアンたち選手の面々がそれぞれポーズを決めて答えた。面々の端でライクも目をつぶりながら頷いていた。
「あ、ありがとうございます」
互いに笑顔で握手する一加とカウラス
「ま、そのときは頼むわ、カウラス。またね」
「ああ、またな、ラズ、クノン」
「また。」
小さくうなずいたクノン
「それじゃあ、行くわよ。」
ミニアドが振り返り、歩き出し、ギユ、エクバが続く。クノン、ラズも歩き出し、一加はもう一度頭をさげてから歩き出した。
「・・・・・・・・」
少しだけ。少しだけ大きくなったように見える。パソコンの画像越しが、2週間前の一加とは違う気がする。
成長している。死んだ自分とは違い、勇者として肉体的にも精神的にも成長している。差が広がる。
「そんなに凝視してると正直引くわ」
冷たい声に振り替えるとそこには、冷たい目線を送るガブリアル
「・・・・・・俺がここで鍛えたら、転生したときに影響はある?」
「・・・・・・・肉体的強さは別として、技術、知識は魂にも刻まれるものだから、それを覚えておくことはできるわね。」
「ふーん。」
「それで、君はどうするつもり?」
「いや、俺も時間はあるから、なにかしようかなって。」
「・・・・・・あなたはイチカのいる世界に行けないのに?」
百次の転生先の世界は決まっている。そして、ガブリアルのいうとおり、そこは一加が戦っている世界、アルトリウスではない。助けたくても直接は助けることはできない。
「・・・・・俺には、1つだけ転生の際に願いを叶える権利がある。」
レキルアいわく、転移に巻き込まれて死んだ者へのお詫びの特典。なんでも叶うわけではないがけっこうなことができるらしい。できるならそれで力を得て、アルトリウスに行きたいがそれはダメだった。一加を助けたい、自分の最大の望みはかなわない。
「そうね。それが?」
「それで・・・・・・」
思いつく手を話しだす百次。少しだけ感心したガブリアルであった。




