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転生者選定NO.  作者: 鈴明明書房
35/49

熱く舞う5

「いよいよですにゃ~。あ、すいません。売り子さ~ん、こっちこっち。姐さんたちは同じやつでいいです?」


「お願い。」「ええ。」「うん。」


 ギユは売り子を止め、ミニアドたち3人もお酒を追加。なにも考えていないので、もう完成しているギユ。気楽に考えているので、まだ余裕のあるエクバ。内心不安でいつもよりは飲んでいるミニアド。大半の人には心中が読めないクノン。


「さて、どうなることかしら。」


 この大盛況な会場にイチカはどうなるか。こればかりは想像がつかない。


「神妙な顔をしない。酒もまずくなるし、他の客やイチカの目につく。ここまで来たら、なるようになるしかない。あとは2人を信じてるって顔で応援しなきゃ。」


「そうです。そうです。ここで、姐さんの真剣な顔は姉さんのプレッシャーになるだけです~。宣伝時の笑顔とやらをみせて欲しいです~」


「笑顔はともかく、その顔はイチカも不安になる。」


 エクバ、ギユ、クノンは酒を口につけた状態でミニアドへ非難の目線を送る。


「わるうごいざましたね。」


 否定できないので、ミニアドはばつの悪そうな顔で酒を口にする。


「今回は人前に少しでも慣れてくればいいんですよね~。」


「ええ。」


 そのための試合参加。


「姉さんなら大丈夫ですよ~。」

 

 どこまでも気楽でうらやましい


「試合ルールも影響しそう。」


「クノンのいう通りね。」


 どれも思った以上に過酷なので、一層不安と心配でいっぱいになる。


「毎回第1、5のシングル戦は特別ルールなし。で、昨日はノーロープ剣山マッチ、チェーンタッグマッチ、魔法効果ロープマッチ。今日はキャンバスチェンジマッチ、金網リングインカーズマッチ。次はなどんなのかな。」


 リングの周りは無数の針山なのにロープはなしの『ノーロープ剣山マッチ』

 ダッグは常時チェーンをつけた状態であり、両者がリングにいると電流が流れ続ける、1人がダウンでパートナーにも小爆撃の『チェーンタッグマッチ』

 どの試合も激しく、出血も酷い。ラズは大丈夫だと思うが、イチカには負担だろう。だからと言ってイチカを1人であのリングに立たせるのは精神的にきついだろう。


「あの~すいません。」


 リングを見据えていたミニアドは第三者の声に我にかえる。声の主は全く見知らぬ男女数名。観戦客だが、ミニアド達には声をかけられる理由が思い当たらない。ミニアドはギユがなにかしでかしたのかと思って、目線を送るが当人は首を横に振る。


「昨日と今日、ドレスで宣伝していた人ですよね。」


 その客のお目当ては自分と理解するが、より困惑するミニアド


「はあ。そうですが。」


 否定しようとも思ったが、不明点を解決するためうなずく。


「あの握手か、サインよろしいです?」

「カブリサやハーヌン国のアイドルですか?あ、それともモデル?」

「劇団の女優ですか?」

「ドレス姿素敵でした。」


「いや、その。」


 まさかの芸能人扱いに思考が追い付かない。


「はいはい。お嬢さん方。間もなく試合だから、申し訳ないけど握手だけで我慢してね。あと試合観戦しているのは内緒でお願い。」


 しーっとウィンクでお願いするエクバ


「ほらほら、固まってないで姐さんも握手、握手にゃ。笑顔、笑顔。みなさんも並んで並んで。」


 てきぱきと客を並ばせるギユ。


「え、ああ。はい。」


「あ、ありがとうございます。」


 エクバとギユに流されるまま、ほほ笑んで握手に応じるミニアド。どう対応せばいいか、困っていたので、正直助かっている。これでいいのか?という疑問もあるが今は仕方ない。


「リボンの闘志側の選手の応援よろしくね~。」


「とくに小さい方のね。」


「「はーい。ありがとうございました~。」」


 握手し終え、お礼を言って立ち去るミニアドのファンにミニアドも営業スマイルで手を振る。


「ふう。助かったわ。」


 ファンの姿がなくなり、ミニアドは安堵の表情。


「よ、人気者。」


「姐さんもこういうのに慣れたほうがいいんじゃないんですかにゃ~。」


「・・・・・」


 からかいの目線を送るエクバ、ギユ。無表情のクノン。


「はあ。」


 自分が見られる立場になるとは思ってもいなかった。まさか、握手まで求めれれるとは。


「お、入場だ。」


 会場の明かりが消え、リングにスポットライトが照らされる。そこには流浪のプロレス支援団体『闘いの準最前線』のリングアナがたたずんでいた。


 対抗戦では『闘いの準最前線』の者がリングアナ・レフリー・実況を担当している。さらにゲスト解説として、『スリー・シャンズ』の選手数名が来ており、現在は『深紅の脳細胞』マシャカルが呼ばれている。


「長らくお待たせしました。対抗戦第4試合参加選手の入場です。赤コーナーより『リボンの闘士』キュティーパンサー&マスカレイド・レイブ。」


 リングアナが赤コーナー側の手を挙げると入場曲が流れる。


 実況の紹介に合わせて、堂々としたラズと緊張したたたずまいで一加が入場してくる歩いている。


「「「マスカレイドー。」」」


 エクバたちが声を合せて声援を送る。それに一加も反応し、こちらに目線を送ったように見えた。


「ほら、クノンももっと大きい声で。」


「エクバのは心がこもっていない。」


「はあ?」


「なに?」


 くだらないことで2人がにらみ合う。ギユは気にせず手を振っている。くだらないことやしょうもないことで止めるのはキリがないのでミニアドはもうやめている。律儀に対応するのはもう一加だけだ。それもだいぶオロオロとまどってからだけど。


「イチカ、少しだけ緊張している感じかしら。」


 歩みだけみるとそう思える。


「なに言ってんの、ミニアド。内面は限界近いと思うよ。」


 ミニアドの考えをエクバは否定する。内面については自分よりエクバ、最近はクノンもだが、2人のほうが正しく読みとる。なのでミニアドは素直にこの意見を受け取る。


「この人数でも厳しいかしら。」


「うーん。それだけなら、イチカは大丈夫だと思う。王国の儀式やカカナたちを助けたときはしっかりしてたからね。だから人前という理由だけじゃないと思う」


「私もエクバのいう通りだと思う。試合ルールのせいかも。選手は試合前に聞くから、もう知っているはず。」


「にゃー。今までより過酷なやっつってことですか、クノン?」


「痛みを伴うなら、イチカはあそこまでならないと思う。なにか精神的にくるのかも。」


 クノンのいう通り、戦いの経験があるから、痛みに立ち向かう勇気が一加にはある。


「どんなルールにしたのかしら。」


 脳裏になにかを企んでいたバンバニーアの顔が浮ぶ。


「もう、頑張ってもらうしかないわね。」


「にゃーに悟ってるんですか、姐さん。精一杯応援しましょう。」


 ギユは立ち上がって尻尾を振る。


「そうね。ギユのいう通りね。」


 こういう部分は見習うべきなのかも、そう考えたミニアド。


「わかればよろしいです。あ、売り子さん、お酒~。おつまみも~。」


 こういう部分は修正すべきなのかも、そう考えたミニアド。



 リボンの闘士側の入場が終わり、極闘衆側の入場となる


「青コーナーより『極闘衆』ダーティーパンサー&ディアボローニャ。」


 音楽が変わると同時にリングアナが青コーナーに手を挙げる。


《狩りを返す時は来た!以前の死闘から牙と爪を砥いでた黒豹。血の雨を降らす爪。ダーティーパンサー、リングイーーーーーーーーーーン。≫


 キューティーパンサーに似ているがより禍々しい黒色と赤色のコスチュームを来た女性が煙の中から現れる。褐色肌に栗色の髪をなびかせた彼女は声援に応じることもなくリングへ進んでいく。


≪黒豹と組むのは2本角の悪鬼だ。犠牲者の血を蓄えた特注樽を掲げ、今日もその角で対戦相手の血をつぎ足す。ディアボローニャがついに参戦。≫


 赤い角2本の角が頭頂部にある有角人の女性が酒樽をもって歩き出す。肩パットのついた丈の短い半そでジャケット、その中にはチュ-ブトップ、右腕に腕ベルト、ショートスパッツ膝まで覆うブーツ等、ヒール全面に押し出した姿である。


 ≪ダーティパンサー&ディアボローニャ、リングイーン。リング中央で待つキューティパンサー&マスカレイド・レイブと早速に睨み合っています。≫


≪こうしてみると、新鋭マスカレイド・レイブが小さく見えますね。この体格の差をどのように覆すのかが見所になると思います。≫


 ほぼ身長が同じのキューティーパンサーとダーティーパンサー。ディアボローニャはその2人より頭2つ分背が高い。今はマスカレイド・レイブを見下ろしている。


「やっと借りが返せる。」


「あら、もう返却期限は過ぎてるから無理ね。」


 2匹のパンサーの間には人ひとり分の隙間はもうない。互いの体温を感じるくらいの距離だ。


「カカナ・ランアンの代わりがあんた?」


「は、はい。僭越ながら、ご先輩方の代わりに参加させてもらってまちゅ。」


 設定として後輩。正体不明の胸囲の新人ということは、追加宣伝ポスターで周囲には知らされている。ただし、噛んだのは素だ。


「一体何者なんだ?戦えるのか?」


「ひ、ひみちゅです。」


 困ったら「秘密」と答えるように言われてる。


「ここで試合ルールを発表します。」


 会場全体の目がリングアナに。ビクッと反応したマスカレイド・レイブ。そのしぐさをエクバたちは見逃さない。マスカレイドとは対称的に他の3人は動じていない。


「まずはこちらをご覧ください。」


 リングアナが指を鳴らすとリングの周り4選手の立体映像が写し出される。さらに大映像板にも選手たちの映像が現れ、さらに各選手の下には100パーセントと数字も出ている。


「今試合は『服剥ぎマッチ』 試合に特殊な道具は不要。決着方法はたった1つ、対戦相手のコスチュームの総面積を20パーセント未満まではぎ取る。以上がルールだ!」


 服剥ぎ・ふ く は ぎ・HU KU HA GI


 その言葉に男性陣の大歓声がリングを揺らした。


「ああ。なるほど。」


 興奮を抑えて納得したエクバ。口元の笑みを手で押さえている。


「こういうことね。あのババア。」


 頭を抱えたミニアド。イチカにはキツイ内容だ。


「・・・・・・・・」


 無言で立ち上がったクノン。


「どうしたんです?姉御?」


「念のため、男は皆殺し。映像魔石は破壊する。だから銃を取ってくる。」


 その目は本気である。


「にゃ。落ち着くです。姉御。大乱闘はだめです。」


「ちょっ、だめよ。座りなさい。」

 

 歩き出すクノンを慌てて止めるギユとミニアド。



 相手に剥がれされたコスチュームを着なおすことはできない

 コスチュームの総面積が20パーセントになったら脱落、2名とも脱落で敗北

 剥がされた割合は常時、大映像板に出される

 剥がされたコスチュームは明後日オーディション販売

 

 詳細ルールが大映像板に映し出される。


 リングではダーティーパンサーがリングアナのマイクを奪い取り、キューティーパンサーを指さす


「キューティーパンサー。まさかこれに納得するわけないよな。」


 その言葉を聞いて、マスカレイド・レイブは一縷の希望を見出す。「このルールの試合は破廉恥すぎてできない」と言って。態度にこそ出さないが懸命に祈る。


「20パーセント?そんな半端な数字はいらない。総面積0パーセントで敗北。それでいいよなああああ!」


 全裸で敗北 負けたら全裸。


≪おおーっと。ダーティーパンサー、敗北条件を全裸に指定したあああああああ。いいのか。これを公衆の面前に見せていいのか。会場外の良い子は今すぐお家へ帰れ。保護者は目を隠せえええええ。≫


 会場に再び大歓声、リングの揺れを感じるマスカレイド・レイブ


 この大歓声や提案に動じることなくマイクをもぎ取るキューティーパンサー。拒否することを祈るマスカレイド・レイブ


「当ったり前ね。黒豹と猛牛の毛皮を会場の入り口に飾ってやるわ。」


 会場入り口を指さすキューティーパンサー。


≪キューティーパンサー、この提案を受け入れ、さらに勝利宣言。この会場の新名物となるのかあああああああ≫


 固まったマスカレイド・レイブをしり目にマイクをリングアナに返すキューティーパンサー


「双方リーダーの合意により、敗北条件は総面積0パーセントと変更します。」


 三度目の大歓声。


「なお、この試合のレフリーは フラン・サグノ。」


 女性レフリーがリングに入った。


「フランか・・・・・。」


 ミニアドとギユになだめられて、とりあえずは大人しくなったクノン。しかめっつらとなりフランを見つめる


「なんかあるの?」


「仕事は開始と決着の合図だけっていうレフリー。反則は注意しない。ロープブレイクはしない。カウントもとらない。ノータッチも気にしない。」


「つまり、ヒールの集まり極闘衆が有利と。」


 フランはボディチェックをすることなく選手をコーナーに下げる。


「ミニアドのいう通り。戦いはに余計な口だし、手出し、決まりは不要なんだってさ。」


 クノンの説明に行先不安となるミニアド。


 なんで0パーセントを受けいるのかなあ。ラズの性格ならそうなるんだろうけど、イチカがいるんだから。


 コーナーでラズはイチカになにか話している。イチカはうんうん頷いている。


「もう私たちも腹をくくるしかにゃいです。」


「そうね。」


 ドンと胸を張ってリングを見たギユ。


「さっきからなんで黙っているの?」


 しばしエクバが無言だったことを疑問に持つクノン。もっと騒ぎ立てるはずだとミニアドも思う。


「あの衣装がドンドンはがされるイチカがみたい気持ちと、野郎どもにイチカの素肌を見せたくない気持ち。あの美しい肢体を見るていいのは私たちやせいぜい彼氏のモモ君だけって気持ち。イチカのすばらしさをこの世に知ってほしいという気持ち それらの気持ちの板ばしゃああ。」


 エクバの首すじにひじ打ちを決めたミニアド。ミニアド越しに蹴りを腹部に決めたクノン。見事な攻撃に拍手をするギユ


 

「なんで、変更しちゃったの」


「20も0も変わらない。裸が嫌なら勝つしかない。」


 実際20パーセント近くまで服をはがれたら、既に手で隠さないといけない状態になる


「でも・・・・。」


「でもって言ってももう遅い。試合に集中しないと本当にここで裸になるわよ。それは嫌でしょ。」


 無言で頷くマスカレイド・レイブ


「ならあなたのすることを伝えるから復唱。最後まで頑張る。はい」


「え、あ」


「復唱!最後まで頑張る。」


「さ、最後まで頑張る。」


「最後まで諦めない!」


「最後まで諦めない」


「最後まで前を向く!!」


「最後まで前を向く!」


「よし。あとはいつもの戦いと一緒よ。経験、経験。」


「う、うん。」


 弱弱しくも頷くマスカレイド・レイブ。


「まずは私が出るから、この雰囲気を肌で感じる。向こうが交代したらこっちも交代。なにもできなくてもいいから、とりあえず耐える。いい?」


「うん。」


 リングから出るマスカレイド・レイブ


「よろしい。なら行くわよ。」


 優しい目から険しい目となりリング中央へ振り替えるキューティーパンサー。


カーーーーーーーーーーン!


 開始試合のゴングが鳴った。




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