熱く舞う2
プロレス発祥の街 キャンダ
この街を見た一加の感想は
(メキシコ?あ、間違ってたらごめんなさい)
街全体が陽気で明るい。メシキコに行ったことはないが、友人Nイメージのメキシコと重なる。
街の中央にはリング会場があり、会場入り口には女性レスラーの石像が置かれていた。 街は2週間後の対抗戦の話題で持ちきりだった。かつてラズも参加した対抗戦である。
カウラスと一緒にミニアドがギルドに現状を報告する。ギルドによりダンジョン検索が依頼となり、さらに国への連絡も行われる。一加たちもダンジョン検索から攻略が当面の目的となった。この時点で一加一行たちはそれだけだと誰もが思っていた。
「宿はうちのホームを使ってくれ。なに遠慮はいらん。」
カウラスの言葉に甘えて一加一行は『リボンの闘士』の拠点へ。そして、『リボンの闘士』社長の部屋へ案内される。
「お久しぶりです。チョウドさん。バンバニーアさん。」
ダンベルで筋肉トレをしていた人熊の男性と、椅子に座っている片眼鏡をつけた老婆に対してラズ、クノンは頭をさげた。
「おお。ラズもクノンの元気そうだなによりだ。」
「本当に久しぶりねえ。」
「お二人もお変わりないそうですね。」
2人に対して柔和なエミを浮かべるラズにチョウドとバンバニーアは目を丸くする。
「服装のせいか?本当に雰囲気が変わったなあ。ラズがカカナたちの怪我を直したんだって?本当なのか?どうしても信じられん」
チョウドはラズに近づいて怪訝そうにしている。ラズの頭が胸にも届かないほど体が大きい。人熊の中でも大きいほうだ。
一加はそれよりもラズに対してイメージの違いはどうなっているのか?それのほうが気になる。この部屋に来るまでも『リボンの闘士』のメンバーはラズの服装と雰囲気の違いに驚いている。その後ククノンを見て「クノンは変わってないね」と言うのがパターンとなっていた。
「そんなことより。黒髪の子が勇者イチカ。背の高いのがミニアド。金髪がエクバ、猫人がギユ。旅の仲間ね。」
ラズは呆れた顔をしてチョウドの視線を一加たちへ向ける。
「ん。んーん。」
一加のほうをまじまじと見るチョウド。チョウドの右目には縦に切り傷があり強面の顔にさらなる迫力を加えている。よく見ると体毛に隠れてあちこちに傷がついている。それらを見て一加は萎縮し、察っしたエクバとクノンがさりげなく前に立つ。
「おっと悪い悪い。あいさつが遅くなったな。ウチのもんを助けてくれてありがとうよ。勇者様よ。お仲間さんもな。」
険しい表情が一転し人懐っこい笑顔を見せたチョウド。
「あ、いえ。たまたま遭遇しただけですから。あとイチカで・・・・お願いします。」
エクバ、クノンの後ろから顔をのぞかせ頭を横に振る一加
「謙遜しなくてよろしいですよ。ゆう・・・・イチカさん。本当にこちらは感謝しています。ほら、チョウドさがりな、あんたの顔は笑っていてもおっかないんだから。」
バンバニーアは微笑んでチョウドの腕を引っ張った。訂正。腕をつかまれたチョウドはそのまま天上に向かって投げ飛ばされる。チョウドは天上を蹴って体を回転させ、元の位置に無事着地する。
この光景を初めて見る一加たちは目を丸くしていた。逆に見慣れた光景に笑顔のラズとあきれた顔のクノン
「で、ラズたちはこれからどうするつもりなんだい。」
「まずはダンジョンの捜索。そこからダンジョン攻略。」
「うーん。そうーかい。」
少し困った表情をするバンバニーア。
「なにか?バンバニーアさん。」
「今度の対抗戦の2日目なんだけど、カカナとランアンのタッグが試合に出るんだけど・・・」
2日目 女子レスラー戦の内容を思い出す一加
『リボンの闘士』参戦者
1試合目 シングル戦
若手人気ナンバー1エルフ 『エルフアストレイ』 エルフ カミュラ
2試合目 シングル戦
超重量級 『シャボンイズアンブレイク』 人兎 バビット
3試合目 別種族3人タッグマッチ戦
対空迎撃兵器 『無重力』 人間 レオマスク
芸術的寝技使い 『マジシャンさん』 人狸 サニアル
色々ヤバイ 『爆乳爆音』 有角人 ヒューン
4試合目 タッグ戦
タッグチャンピオンチーム 『ハイ・ヒート』
底なし 『オーシャン』 人間 カカナ
根性根性ド根性 『超絶咆哮』 龍人 ランアン
5試合目 シングル戦
70連続防衛チャンピオン 『静かなる支配者』 羊人 ライク
あのポスターどうやって作ってんだろう。自分のいた世界と変わらないポスターだったが、他の街や月円王国ではかった。違う疑問が浮かんだ一加であった。
「その2人の代わりに私に出てほしいってこと。」
「そういうこと。話しが早くて助かるわ。できたら、もう1人。うーん。そうだね。」
一加たちを吟味するバンバニーア
「イチカさんにお願いしたいところだねえ。」
「え?」
にっこり笑みを浮かべてイチカと目を合わすバンバニーア。一加は思いもしない要求に驚く。
「私はともかく。ナーシャやララパナを出せばいいんじゃないの?むしろなんであの2人が出ないのよ。てっきりでるもんだと思ってたわ。」
「ナーシャは去年結婚して寿退職。ララパナは来月出産。」
「はあ?あの2人が?」
ラズは本日1番の驚愕とした表情になる。その2人とラズは結婚と程遠い3人として、会話を弾ませてきたからだ。クノンが姉を遠い目で見つめている。
「そ。あの2人が。ラズも頑張りな。っと話が逸れたね。どっちにしろ女性で出せる人がいない。いきなり素人を出すわけにもいかんし、試合を無くすこともできない。そこにラズとイチカさんが来てくれた。ウチとしては天のいや勇者の助けさ。」
ラズも困った表情で、ミニアドのほうへ目線を送り、ミニアドも応じて前へ出てくる。
「宿を借りてる立場なので、経験のあるラズの参加はいいのですが・・・・。ダンジョン検索と攻略はこの街の安全面から早急に解決しないといけません。さすがにイチカまで外れると支障をきたします。」
「そうかい。じゃあ、その件に関してウチも試合に出ない男性陣が全力でバックアパップするよ。流石にダンジョン攻略もまかせろとは言わないが、他のことはなんでも言ってちょうだいよ。可能な限り協力するから、その変わりってのはどうだい。」
「ですが、魔物の相手は危険です。」
「今回は別クエストで消耗していたところで不意の遭遇だった。万全だったら、ここまで追い込まれることはないねえ。だろうカウラス。」
「ハイ。探索となれば今回のようになる可能性は低いです。ミニアドさん。俺達はそこらの冒険者にも劣らないように訓練は積んでいますし、この肉体への誇りもあります。」
カウラスは胸を張る。
「ラズ・・・・・」
「そうね。並の冒険者よりは鍛えているわね。だから、私やクノンが所属していた『月喰い』との交流や合同でのクエストもあったんだから。」
ミニアドの目線に対して頷くラズ。
「協力には感謝しますが、・・・・・イチカよりはエクバのほうがプロレスには向いていると思います。」
「私?」
あきらかにエクバを売ったミニアド。
「まあ。実際はそうだろうね。イチカさんとエクバさんならエクバさんのほうが長い年月鍛えてきいるのは体や佇まいからわかる。勇者のほうがはたった数か月、剣術と魔法の訓練。そこから旅での実践ってとこなんだろう。極端に言うと戦士として芯がない。」
バンバニーアの推測に一加とミニアド、エクバは目を丸くする。まさに言った通りだったからだ。
「だから、この2週間で体の芯から徹底的に鍛えなおさないかいってこと。剣士とみても筋肉不足、体力不足な体だけど、うちなら2週間でも見違えれるほどのことができる。なあ、ラズ。」
「まあ。できるといえばできるわね。」
ラズは一加に同情の目線を送ってうなずいた。その目線に不安となる一加。
「なに、筋肉ムキムキになるわけじゃない。うちのカミュラやヒューンみたいによりプロポーションがよくなる。ラズだって今の体格の原点はうちなんだから。宣伝ポスターみてるだろ?」
ウィンクをするバンバニーア。カミュラとヒューンの2人はレスラーというよりはモデルのような体つきではあった。ヒューンのリングコスチューム・・・あれでプロレスができるのか?余計なことを考える一加
「それにさっきから仲間の後ろにコソコソ隠れる。勇者としてそれはどうなんだい?」
「えっと。その」
「勇者として否応なく姿を見せないといけない場合があるんじゃないのかい。見られることにもっと慣れるべきだね。」
「それは・・・・・」
ミニアドも口を閉ざす。打ち解けたせいか、甘えるようになったせいか。月円王国を離れたせいか。一加は人の視線から逃れるようにエクバやクノンの後ろにいることが多くなっている。
「昔、人と魔物の戦争の際、先頭に立った勇者様を見たことあるが、もっと堂々としていたよ。そして、勇者様が剣を掲げたときの皆の熱狂を今も覚えている。だけど、イチカさんからはそのオーラや気迫を感じられない。平時でも勇者としてのなにかを感じられたものがイチカさんからは感じられない。」
「すいません。」
もともと気迫あふれる人物ではないが一加はしゅんとして頭を下げる。
「っと。イチカさん。すまんねえ、説教ぽくなって。まだ旅に出て間もないんだろ。そういうのも必要になるって話さ。」
一加の姿を見てミニアドは真剣に考え始める。過去に魔王やその配下が引き入る魔物の軍勢と勇者が先頭に立つ軍の戦いはあった。そのとき勇者は精神的支柱としての役割を引き受け、勝利へと結びつけている。
今の一加にそれは無理。正確には今は『勇者』の職業名だけしか効果がない。勇者の名以外、自身に人の支えとなる力はない。
月円王国 ダイビル将軍
クラフィード聖教国『十字連団』 ワードディ大隊長
東方の女性将軍 カザハナ
指揮官として名をはせる人物は役職、名前だけでその力を発揮しているわけではない。その姿勢が。その表情が。その視線が。その声が。その言葉が。その行動が多くの戦士を奮い立たせている。その力は接点の少ない、短い者であっても伝導する。
指揮官ではないが、カウラスにもその力はあった。 自分たちの助けが入ったのもあるだろうが、彼の檄でほかのメンバーが奮い立っていたのがわかる。
今の一加の場合、行動でこそ人を奮い立たせることはあるが、それでも自分たち仲間だけに対してだろう。それだけでは困るときが来るかもしれない。
「だから、ここで見られることや魅せることを鍛えていかないかい?戦争とは違って死ぬことはない、絶好の機会だと思うんだがね。」
ここで見られる立場であることの再認識と、見られることへの耐性を身に着けたほうがいいか?
いきなり軍の先頭にたつことは無理だろうから、この試合でどうだ?大勢の人前で戦うことなど普通はない。
「はいはい。そんなもっともなことを言って、魔王討伐後に謎の新人の正体は勇者だったって宣伝が使いたいだけでしょ。」
「あら。わかるかい。」
クノンの言葉に悪びれることなく頷くバンバニーア。このバB、、・・・商魂逞しいおばあさまだ。
ミニアドはややあきれながら思った。
「で、どうする。ミニアドさん。悪い提案でもないし、必要なことだと私は思うよ。なにちょっと大勢の前で1試合するだけさ。何万、何十万の前に立つわけではないんだから。」
バンバニーアの言葉でミニアドは止まった思考を再起動。数秒後結論が出たミニアドはバンバニーアの前へ立つ。
「もう少し具体的な話をしましょう。」
「そうかい。なら腰を据えて話そうか。おっと長くなりそうだから、カウラス、イチカさんたちは部屋に案内して、お風呂にでも入ってもらいな。あ。」
ミニアドの言葉に笑顔を見せるバンバニーア。
ギユやエクバもこのやりとりの意味を理解している。理解が追いついていないのは当の本人だけだった。ミニアド以外の仲間の視線を浴びてやっと一加は理解に至る。
「え?」
気の抜けた声を無視して、カウラスが部屋を出る。
「ではみなさん。自分についてきてください。」
「よろしくで~す。」
考えるのやめたギユは真っ先についていく。
「え?えええ?」
一加は混乱して助けを求め仲間に視線を向ける。
が。
他の仲間は気づいているこの件にもう意見を言えないことを。ミニアドの無言のオーラを見て気づいている。これは一加に必要なこと。避けられないこと。だから口出しするな。かわいそうかもしれないけど甘やかすな。そう背中で言っていることに気付いている。
「ダンジョン探索はまかせて。」
クノンはボソッと言って部屋を出る。
「ファンクラブをの会員NO1は私ね。」
エクバは一加の肩をポンとたたいて部屋を出る。街にはレスラーのファンクラブの募集ポスターや集会場があった。
「基礎から付き合うから頑張ろうか。あとでリングコスチュームやネームも決めきゃ。」
ラズは頭をポンとたたく。
「あの、ミニア」
「明日のために今日はもう休んでね。イチカ。」
ミニアドは振り返らない。やっと一加は逃れない宿命を認識した。




