熱く舞う
「あの伝説の獣が還ってきた。2年前、このリングで死闘を制したあの雌豹。リングを裂く爪。キューティーパンサー復活~-------------------------」
黄色と黒色で彩られ、しっぽ、耳をつけたリング衣装姿の女性が煙の中から現れる。スポットライト、声援をあびながら、右手を上げ、堂々と花道を歩いていく。
「パートナーは謎の新鋭。大舞台が初試合の新兵。だが雌豹が認めた新星。白面の下の瞳はリングになにを見据える。その新星の名はマスカレイド・レイブ。ここに参戦ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
目元を覆う白色マスク、白と桃色のリング衣装の胸板の厚い女性がキューティーパンサーをあとを左手をあげて歩いていく。場馴れしたキューティーパンサーとは異なり、やや緊張した歩みであった。
(も、もう。無理、モモ君助けて)
マスカレイド・レイブこと勇者一加は精一杯の作り笑いで歩いているが内心限界に近かった。
「「「マスカレイドー」」」
聞きなれたギユ、エクバ、クノンの声援が聞こえて、自然と目線が3人に向く。ギユはお気楽に手をふっている。エクバとクノンはまたにらみあっている。その間に座っていたミニアドはため息をついている。
見慣れた仲間を見て少しだけ気が楽になった。
・・・・・・・つもりにしたかっったけど、無理だった。
新たな紹介と声援により否応なく自分の現状を認識せざるをえないからだ。
(どうして。こんなことに)
ここ数日、何度も何度もこの言葉が脳裏から心中、また脳裏へと行き交っていた。
時は2週間前まで遡る
一加たちは次の街へ向かう途中、魔物と戦闘中の一団を発見する。魔物は20匹程に対して、一団は10名、そのうち5名が負傷でうごけない状況であったことから、すぐさま一加たちは救助に入った。
「カウラス!」
「ラズ!クノンも。なんでお前たちがここに?」
互いの姿を認識したラズとリーダーらしき男が驚きあう。
「話はあと、負傷者は私が見る。ミニアドも手伝って。クノンは私たちの護衛。戦いはイチカたちにまかせるわよ。カウラス、こっちの指示に従ってね。」
「すまん。助かる。って、お前が負傷者を見る?とどめを刺す気か?まだ助けは間に合うはず」
「アホなこと言ってないで、早く。」
信じられないと目でも訴えていたカウラスと呼ばれた男性だが、すぐさま、戦闘に集中する。
「おらああ!野郎ども、天の助け、いや豹の参戦だ。恥ずかしいところを見せられんぞ、踏ん張れ。お嬢ちゃんたちの指示には従えよ。ダンバル、動けないヤツラをラズのところに運んで、そのまま護衛。」
「オッス!」
ダンバルと言われた3メートルはある人牛は負傷者4名を運んでいく。一匹襲い掛かるが、クノンの射撃が脳天を貫ぬいた。
そして、魔物を貫いた弾丸はエクバの胸先をかすめる。
「クノン!狙ったでしょ!」
エクバはクノンをほう振り返えるが、クノンは無表情で首を横にふる。
「エクバ、あの戦いに」
「わかってるって。」
おどつきながらの一加の言葉で、エクバは魔物のほうに振り替える。一加は視線をクノンのほうへむけると、クノンは舌打ちをしていた。
クノンは仲間となって以来、『勇者の剣』の役目を狙い、ときおり同じようなことをしている。エクバは今のところ、回避したり防いだりして無事であるが、そこから食ってかかり、喧嘩となるのにもう慣れてしまった。
この状況をラズとギユは笑っており、ミニアドも当初は止めていたが
「役目持ちの交代はときおりある。強い、役に立つほうがなればいい。ただ、無関係な人とイチカの負担にならないようにして」
と言って 面倒になって放置している。
一加は止めようと右往左往とするが、その場しのぎで精いっぱい。結果的にこの攻防で2人は著しく成長していた。
「これでラスト!」
エクバが魔物の首を切り落とす。
「ギユ、周囲にほかの魔物は?」
「いないですぅ~。姉さん。安心ですぅ~」
周囲を見渡したギユの返答を聞き、警戒態勢を維持していた一加もほっと安堵の表情となる。
「エクバ、あのお願い。」
「りょーかい。」
意図を理解したエクバは周囲に向かって声を上げる。
「おーし、魔物はもういないよー。警戒は私たちが続けるから、ケガ人は治療。動ける人は一息ついたら素材回収、遺体処理をおねがーい。」
「「「おー。」」」
エクバの指示を聞いて、体格がいいより、ガタイがいいと言う言葉が似合う面々はそれぞれテキパキと動き出す。ギユはルンルンと素材回収にむかう。
「警戒忘れないでね。」
「りょーかいでーす。」
振り返らずしっぽを振ってこたえるギユ。そのギユと入れ替わるように一加の前に立った男性は深々と頭を下げた。
「スマン。助かった。」
「あ、いえ。お気にならずに、頭を上げてください。それにケガは大丈夫ですか?ラズやミニアドの治療を受けたほうが。」
男性の右腕には真新しい爪跡がついている。
「なーに。もう血は止まってるから、安心してくれ。」
ぐっと力をいれる男性。確かに血は止まっている。切られたばかりだったはずと一加は不思議に思う。
「それよりも、お嬢ちゃんたちはラズとはどういった関係なんだい?」
「あ、旅の仲間です。そちらは?」
「オレたちは・・・・」
カウラスは力こぶを作り上げる
「「プロレス団体『リボンの闘士』」」
ラズは淡々と、カウラスは熱く答えた。
「・・・・・・プロレスラーですか?」
一加もその言葉くらいは知っている。詳しくはないが。
プロレス団体 『リボンの闘士』
現在総勢40名のプロレス団体 クエストで魔物退治をしながら、街で興業を行っている。
今から約30年前の来界者(勇者以外の異世界転移者の通称)。この世界初のプロレスラー、女子レスラー。活動時期は2年弱だが数々の伝説を打ち立てた女傑。
『パンサーマスク』
が立ち上げたこの世界初のプロレス団体。
「だから、皆さん、体格がいいんですね。」
クノンの説明を聞いた一加は助かった面々を見て感想を述べる。
「子供のころ、何度か月円王国での試合を見たことあったなあ。」
「ああ。あったわね。」
「あ、私も皆でみたことあります~。大迫力でした。」
エクバとミニアド、ギユは過去を振り返っている。この世界でもプロレス巡業はある。
「で、短期間だけ私たちは所属していたことがある。」
「それはどういう経緯なの?」
「オレと『月食い』の団長が知り合いなのさ。で、うちのちょっとしたピンチのときに助っ人として、入ってもらったてわけ。」
怪我人を見ていたカウラスが一加たちの会話に加わる。
「ピンチってにゃんですか~?」
「団体対抗戦に参加する奴が出れなくなって、その代わりにラズこと『キューティーパンサー』に参戦してもらったてこと。」
「あの蹴りを見たら納得するわね。」
あの重い蹴りの理由はこれなのか?それともあの蹴りがあるから参戦してもらったのか?治療を終えて合流してきたミニアドは話を聞いて考える。
「あ。お疲れさま、ミニアド、ラズ。怪我人は?」
「命に別状なし。ただ、カナナとランアンの2人は重症だったから、しばらくは安静ね。」
「そう。ひとまずはよかった。」
ラズの報告でホッとする一加。魔法や祈りでも完治できないことがあるのを一加は知っている。
「本当に助かったぜ。ラズ。お嬢ちゃんたちも。訓練を兼ねたクエストを終えた後に20以上の数だったからな。それに手強かった。ラズたちが来なかったら全滅してたかもしれん。」
「ここまでの魔物とは種類と強さが違ったから、ダンジョンの魔物の可能性が高いわね。それで死者が出なかったことは不幸中の幸い。」
「ダンジョンですか!」
ミニアドの言葉にギユが反応する。
「ふむ。そうなるのか。これはギルドへ報告もんだな。」
「そうしたほうがいいわね。私たちも同行させてもらうわ。」
ミニアドの言葉にカウラスは首をかしげる。
「なんでお嬢ちゃんたちも?」
「カウラス。私たちの妹の話をしたことあるでしょ。」
「妹・・・・・。ってことは勇者一行なのか。」
目を丸くして一加たちを見る。
「そういうこと。内密にしといてね。」
ラズのウィンクにカウラスは慣れたように手をあげ答える。
「ああ。そこは徹底しておく。でも、ま、どうりでひょろほそいわりには強いわけだ。」
カウラスは改めて一加を見る。
「あと胸板の厚い戦士って噂を聞いてたから、てっきり屈強な男と思ってたんだがな。俺達みたいな。」
『胸板の厚い戦士』に反射で胸を隠す一加。その様子を見てプッと吹き出すラズと申し訳なさそうにするカウラス。
「まあ、噂ってそんなものよ。」
「姐さん、助かりました。」
「ラズさん、ミニアドさん。ありがとうございます。」
担架で運ばれる治療された女性2人がラズへ声をかけるへ
「気にしないでいいわよ。カナナ。ランアン。それより痛みは?」
「私は大丈夫です。姐さん。」
「私もです。ラズさんに治療されるなんで思ってもいませんでした。」
「ま、そうかもね。ただ、流石にとどめを刺すつもりかと言われるなんて思わなかったけど。」
ラズの言葉に2人がビクっと反応する。そして、冷や汗が流れていた。
「あなたたち?」
2人の反応を見て、ラズの顔が笑う。
「ランアンはともかく、私は姐さんを信じていました。」
「ちょっと、さっきカナナだって、あれ生きてるって言ってたでしょ。」
「それだけしゃべれるなら大丈夫そうね。」
「「あ、イタタ。すいません」」
耳を引っ張られるカナナとランアン。
「ま、この2年でずいぶん頑丈になったわね。」
ラズは耳を離して二人の頭をなでた。
「積もる話もあるでしょうけど、重傷者もいることから移動しましょう。カウラスさん、ギルドへの案内お願いします。」
ミニアドが手を叩いて話を進める。




