夢を見た
「選定を始めるより、1つレキルア様より言伝をお伝えします」
「うん?なに?」
背筋をピっと伸ばして立っているガブリアルと椅子にユルっと座っている百次。
「今日より、『選定中に神のふりをしない』以上です。」
「はい?ええっとどゆこと?」
理解が追い付かない百次。それを冷ややかに見るガブリアル。
「言ったままです。神のふりをしないで人間として選定するんです。」
「あ。なるほど?」
少しだけ理解できた百次。だがそれの意味や意図までは理解できず疑問形となる。ガブリアルの視線が痛いがどうしようもできない。
「今までは君のいう神、私たちにとっての主レキルア様の立ち位置で選定作業を行っていた。だけどこれからは、ただの死んだ人間として、選ばれる魂と同じ存在として選定に臨んでもらう。」
「なるほど。」
「つまり。人間が人間の生き死にを決めているということ候補者が知ることになる。困ったら神のふりでごまかすことはできない。」
「う。それは・・・・・・。」
ガブリアルの説明に口をすぼめる百次。ガブリアルのいう通り困ったことは神のふりでうやむやにしてきた百次。文句をどう回避していくか大変になりそうと思った。
「説明などは変わらず私たちが行うし、やること自体は変わらないから、頑張って。」
「え?いやまだ心の準備と対策を考えていないんだけど。あ。ちょっと。」
ガブリアルは百次の都合を無視して選定を始める。
4人目の対象が空間を見渡した後、百次のほうを見る。
「申し訳ありませんが、ここはどこになります?」
(どう見ても美人な人間。)
目の前の対象を見た百次の感想。鼻の下が伸びそうになる百次の対して、対象者の表情は冷静であった。
「簡単に言うと死後の世界。」
「死後の世界・・・・・・・」
百次はこの言葉を聞いても冷静でいる対象から、パソコンにある対象の資料に目を移す。
エムニア・ララック9
第8世代AQ (アック Automata Quantum) 女性型
身長158センチメートル
装備 異常性能3Dプロッタ:ギルニード 1
身体内臓型疑似フォトン兵器:ラーシェル 1
武装内臓大型シールドバインダー:ライラ 4
兵器内訳 ガトリングガン 2
レールガン 1
空き 1
彼女と便宜上呼ぶが、百次の目の前にる彼女は生物ではない。ヒューマノイド、アンドロイド、ロボット、人造人間、呼び方はいろいろとあるが、作られた存在である。ドラゴンであったバルララのような人間ではない存在はここで何度もあっているが、そのどれとも違う存在であった。
彼女がいたのは一見、百次と変わらない世界である。その世界には百次のいた世界でいう架空の生物は存在しないが、1点だけ百次のいた世界とは異なっていた。その差は魔力。魔力を利用した機械工学がその世界には存在していた。
その例の1つがAQ 高度なAIにより独自で判断し、行動する機械。少子高齢化から労働力として誕生したAQはすでに世界のいたるところに存在し、あらゆる作業に従事じている。
エムニアは第八世代AQとして誕生した『最初の6体 (オリジンシックス)』の1体。
第八世代の特徴として、頭脳部分を専用空間に保管している。これにより頭脳部分の安全の確保とサイズを無視し能力向上を優先できるようになった。
『最初の6体』はそれぞれの目的のために戦いあった。
現状維持を選んだ個体 穏健派 女性型 黒琥珀
人からの完全脱却を望んだ個体 過激派 男性型 ビーク・ナム・スー
人になることを願った個体 慎重派 男性型 ネクスト8世
モノだけの世界を夢見た個体 超過激派 女性型 レルニ・シャム
人との共生を目指した個体 行動派 女性型 エムニア・ララック9
道具からの脱却を図った個体 硬派 男性型 武粋
エムニアは同じ目的を持ったマスターと戦ったが道半ばで散っている。
『最初の6体』による騒動は3か月続き、少なくない被害がでた。そして、ネクストアーマメント装着女性武隊『エニルマ』の参入により、『最初の6体』の全滅という結果で終結した。
勝利者のないこの戦いが、AQの在り方を考えるきっかけとなると思われたが、半年もしないうちに一般世間には忘れられた。
「そして、異世界に転生させる死者の魂を選定する場所。」
「転生ですか。」
黒い空間を見渡した後、百次を見るエムニア。
「そ。でその選定するのが俺。でこっちの女性がガブリアル、天使ね。」
「もう気づいていると思いますが、彼、百次は人間です。」
なぜそれを言う?百次は本日4回目の突っ込み目線をガブリアルに送るが当の本人は気にも留めていない。だが、エムニアの思考は別だった。
「少なくともここが私の活動していた世界とは違うことは、この空間で判断できます。」
説明が困難な漆黒の空間。さらに頭脳部分からネットワークが繋がらない。体が正常に動き、頭脳部分の繋がりも問題ないので、通信機能のみ故障も考えたが異常はない。そこから、ここが知識外の空間だと判断した。
「ですが私が死後の世界に来れるとは考えられませんし、転生もできないと思います。」
エムニアは疑問を述べた。
「なぜそう思うのかしら?」
「私はAQ、人とは違い機械です。」
「それが?」
本日4度目のやりとりだが、ガブリアルの表情は変わらない。
(誰だってそう思うよな。)
無言でガブリアルとエムニアのやりとりを見ている。百次も2回目の選定のとき、同じ疑問を持った。エムニアの前の候補者もまず同じ疑問を述べていた。
「人と機械は違います。」
「どう違うのかしら?」
「私たちの思考、行動はただのプログラム。遺伝子、経験様々な要因からなる人の思考、行動とは違います。」
「あなたはそう思うかもしれないけど、私たちからしたどれも同じ。いえ、私たちも同じね。体を形成するのが有機物か、無機物か、霊機物か、それが違うだけ。人の思考も行動も有機物からなる体のプログラム。私たちの思考も行動も霊機物からなる体のプログラム。ただそれだけ。」
「天使様の認識はそうなるのですか。では魂についてはどう説明するんですか?私は人の魂のありかたについて知識として把握していても、魂自体を認知したことはありません。」
「少なくとも神のいる世界に魂は存在する。それを認知できるかはその世界次第。あなたの世界はそこまでい至らなかっただけ。」
嘘を言っていない。エムニアはガブリアルと名乗った女性、天使の表情、動作から判断する。ただ見えるだけの表情からはそう判断される。
だが彼女が人ではないことも感知のモードを変えることで認めざるをえない。隣の人間は映るが、ガブリアルが映らないモードがある。逆に考えると百次という男性は人間と判断できる。なぜここに人間が?新たな疑問が浮かぶ。
現状の把握に努めながらも会話を進めるエムニア。探られていることに対して百次は気づかず、ガブリアルは素知らぬふりをしている。
「機械の魂もですか?」
「ええ。機械の魂も存在する。まあ、そこまで至る世界や機械は少ないけど。」
「私の世界はそこに至っていたということですか?」
「正確にいうと、あなたの世代、第八世代がそこにたどり着いたの。」
「・・・・そうですか。なら、私より先に壊されたビーク、ネクストも選定の対象なのですか?」
エムニアは百次のほうを見る。
「えーと。レルニ以外は対象外。ビーク・ナム・スー、ネクスト8世は既に一般的な魂の転生先に行ってる。黒琥珀、武粋は今回の条件に当てはまっていない。」
レルニの名前にエムニアは表情が変わりはしないが反応を示す。
それもそのはず、エムニアを破壊したのはレルニであった。意見が最も合わなく、死闘をくりひろげ、最終的に敗北した。
エムニアのシャットダウンされる直前の映像記録はマスター。自分が破れた際のマスターの顔が今でも記憶されている。マスターはどうしているのだろうか?ぶじなのだろうか?
驚くべきところはそれだけではない。レルニ、黒琥珀、武粋の名がでてきたことから、『最初の6体』は全滅したことになる。どのような状況になったのだろうか?
そして、自分が転生しない場合、レルニにその機会がいくことになるのだろうか?
「その条件というのは、転生する条件なんですね。」
「そゆこと。」
「条件とはどのような内容なのです?」
「まず、夢叶わなかった機械。」
「夢ですか?」
自分は機械。夢など見ない。
「そう。AQを道具ではない、1個人として人との歩み寄りをあなたは夢見ていた。」
人と機械の歩み寄りを目指したエムニア。それはマスターが望んだ世界であり、自分はマスターの願いをかなえるために戦ってきた。
機械である自分はそう思考してきた。
だがガブリアルはそれは夢だと述べた。そのことにエムニアは冷静でいるも思考が止まらない。自分よりは武粋のほうが夢を見ていたと考えてしまう。
「私は」
「あなたの結論がわたしたちの結論と一緒になるとは限らない。『ここにいる』というだけであらゆる疑問も理不尽も矛盾も納得しなさい。」
エムニアが言葉にする前にアブリアルが制する。
「わかりました。」
エムニアも話をすすめるため、この言葉を受け入れた。
「で、話を続けるけど、いいかい?」
「さきほど、まずと言っていましたので、他の条件があると思われますが、それはどのような条件ですか?」
こういう部分は機械だよなと、百次は思う。
「夢の叶わない新たな生。」
百次は条件答えた。
「詳細をお願いします。」
「あなたの望んだ。人と機械が歩み寄った世界にはならない。それだけ。」
「それは天使の力を持ってそうなることなんですか?」
「そういうこと。私たちは運命は操作できないけど、運は操作できる。」
「私はどのように転生するんですか?私の活動した世界の物語ではそのままの体だったり、新生児になったり、スライムになったり、自分のやってたゲームのキャラクターだったりしましたが。」
・・・・・この情報はどこからでてきたんだ?百次は不思議に思う。ネットワークは繋がっていないから、知っていたのだろうが?
「その体と装備でいくことになるね。」
今回の転生先で、エムニアの技術は異質に思われる。百次はエムニアのシルードバインダーを見てそう考える。理屈はわからないが浮いている4つのシールドバインダー。
「その転生先で私はなにをすればいいんですか?」
「なにも。自由に生きて。」
自由と言われて逆に困惑しているようだ。AQの特性のせいか、なにか目的があったほうがいいようだ。
「例えば、私の持ち得る技術知識を広めたりしても問題ないのですか?」
「あなたがもし、私たちにかかわることなく転生してそのようなことをしていたら、その生活を終わらせにいくために私たちは介入したでしょう。」
天使としての役目に口元にうすら寒い笑みが浮かんでいる。百次はその表情を見て背筋に悪寒が走しり、エムニアもどこか警戒しているように見えた。
「ですがこのような場合は問題ありません。」
笑みが消え去り真面目な顔つきに戻ったガブリアル。エムニアもホッとしている。
「転生者ということは話してもいいのですか?」
「話しても誰も信じない。世界はそういうふうになっている。転移者か、妄想って思われるくらいね。」
「私の前にも候補者がいたと思われますが、その方々はなぜ転生を断ったんです?」
エムニアは百次の表情から判断している。
「忠義。漢の矜持。約束。」
ガブリアルが分かりづらく答える。百次はほんの少し前のことを思い出す。エムニアとは異なりみなロボットらしい外見だった。
1人目 アブリアール
人と同等サイズで外見は騎士風。内面も騎士。
夢 人間である主の願い、主の最期を見届ける。
最期 主を守るために戦い果てた。
「主に仕えるのが我が生き様。それの叶わぬ生は不要。」
2人目 サンダーサンダー
3メートル大サイズ。戦い好きで荒っぽい。
夢 ライバルと認めたガックスに勝つこと。
最期 ガックスとの死闘に敗れる。
「漢同士の負けたら死んで終わりの闘いで俺は死んだんだ。俺が生きてたらあの闘いが死闘じゃあなくなる。それだけはさせない。それにあいつとの闘いで一生を満足している。」
3人目 バルムンガー
28メートル大サイズ コクピットはノド部分
夢 友との宇宙の最果てへいくこと。
最期 友を庇って大破
「友が僕を治すと約束したんだ。僕はそれを信じている。」
三者三様の理由だったが、誰1人悩むことなく、転生を断った。
「そうですか。」
エムニアは冷静に返事をしたがあの言葉で理解したのか?その表情からは理解できない。
「私が断った場合、次はレルニになりますか?」
「さあ?彼次第ね。」
ガブリアルの言葉に、エムニアも視線が百次へ。表情も目も冷静そのものだが、「レルニは選ぶな。」そう言っているのは百次も流石に気付く。
それはレルニの危険性からか、それとも敵愾心からなのかはわからないが。
「俺の仕事は条件にあった転生者を見つけ出すことだからね。」
まあ、リストには載っているが選ぶつもりはない。
レルニ・シャム
人と同等のサイズ。 冷静よりは冷酷。ロボット3原則?それがなに?
夢 全人類の死滅
最期 エルニマにより消滅。
いくら夢の叶わない転生とはいえ、危険すぎる。幸い候補者は少ないとはいえ、まだいるのですぐ選ぶことにもなるまい。
「で?どうする?もうそろそろ決断してほしいんだけど。」
「私で問題ないんですか?」
「問題があったら、とっくにガブリアルによって消されている。」
資料では判断できない、内面の問題。それを判断するのが今の面接作業。エムニアに条件対象外にあてはまるところはなにもない。暴れたりもしない。
「そうなるわね。」
「で?結論は?」
「転生の機会をありがたく頂戴します。私には夢とは別にマスターとの約束もありますので。」
「そ。了解。ちなみにどんな世界かは行ってからのお楽しみ。言葉は通じるから。」
百次は決まったことに内心ホッとする。
「では早速お願い、ガブリアル。」
「ええ。」
「その前に1つだけよろしいですか?私が破壊された後、マスターはどうなりましたか?世界は?」
ネットワークが使えない以上、この期を逃せば、知るりえる機会はもう訪れない。
「マスターは生きてるわ。それは以上は教えられない。」
「そうですか。」
生きてる。この言葉だけだが、エミニアはひとまず安心していた。
「ではお願いします。」
「ええ。」
「与えてくれた機会に感謝の意を。」
ガブリアルが目を閉じ手を広げる。光に包まれ消えていくエムニアは百次に頭を下げた。
「ここが異世界・・・・・・。」
光が消えると場所は海岸であった。感知モードを変更して四方を確認する、自然環境は元の世界とほとんど変わらない。
予想していたことだが、ネットーワークは通じない。今までのようにハッキングからの情報収集、資料、データ集めは不可能。主にそれらを駆使して戦ってきた自分の戦力ダウンは否めない。
どうもこの世界には今までの知識からは想像できない存在がいるようだ。それらとの戦闘を考えると今の武装で対応できるのか懸念が残る。
エムニアは戦闘に関する思考を一度停止する。
それでも生きていく。マスターとの約束のために。
エムニアは決意を決めた後、すこしだけ力をぬいて歩きだす。
「ふー。」
選定が終了して気を抜く百次。パソコン画面のエムニアはすでに歩き始めていた。
「はい、お疲れ。」
「うい。」
4人目で選ぶことができたので、早いほうか。
「どうだった。男が大好きなロボットとの話は?」
「ここが異世界ってのを再認識した。」
「意外と淡泊ね。」
残念ながら、そこまで高揚するキャラではない。これが一加の友人Nだったら、騒ぎ立てていたんだろうが。あの広範囲オタクいや、多次元レベルのオタクなら。
百次はパソコン画面の選定条件に目を向ける
『NO.37
夢を持ち、夢の叶わなかった機械が夢の叶わない世界で生きていく。
対象外 夢を諦めていないもの。
転生先アルトリウス 』
エムニアの夢 人と機械の歩み寄った世界。
エムニアのいく世界では運を操作したとしても無理だ。エムニアの転生先、一加のいる世界アルトリウスにエムニアみたいな機械は存在しない。存在しない以上は無理だろう。
いずれ、このパソコン、AQにたどり着くかもしれない。エムニアの機能停止が先か機械レベルの上昇が先か。どう考えても前者。
(まあ、そこはどうでもいいけど。)
百次にとって重要なのは、一加の力になれるか。今回はもともとがアルトリウス指定なのでとやかく言われることはない。
「じゃあ、私は戻るから。」
「あ、うん。」
選定が終了し、百次は自室でパソコンをいじる。
「あーと!!!!マスカレイド・レイブが飛んだAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!]
男性の声と歓声が部屋に響く。
「おお。」
画面内で戦いを見て鼻の下を伸ばす百次であった。




