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転生者選定NO.  作者: 鈴明明書房
3/49

転生するのは

交際を始めて2年、何かあるたび彼は「君のためなら死ねる。」と言ってくれていた。そして、彼女はそれを恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、それでも「そんなことになんてならないわよ。」と流していた。


 男は田舎から飛び出しギルドでクエストをこなす戦士であった。若手だが実力もあり、さらに外見もよく、周囲からは有望株としてもてはやされていた。女は貴族であるのを隠し(周囲にはばれていたが)、クエストを受けていた戦士であった。

 

 そんな2人は自然と、女が言うには必然と公私ともにパートナーとなり、さらに名が広まっていた。仕事ではとあるクエストでの働きが認められ2段昇級も決まり、プライベートでもことあるごとに肉体を重ね、死亡する前日も絶好調だった。


 だが、そんな2人はあっさりと死んでしまった。激しく劇的でもなく本当にあっさりと。それもクエストで同行した新人のちょっとしたミスが原因であり、2人だけなら死ぬことはなかったかもしれない。


 そんな2人に神は微笑んだ。2人はそう思った。


 2人は気づいたら見知らぬ暗い空間にいた。そして、自称神の男性とその神に仕える自称天使の女性が目の前に現れた。2人とも自称神の方には威厳や知性、力を感じられず、神と言われても信じることはできずにいた。


 自称神もそれは見抜いており、


「万能でもないし、神格だってそれぞれだからね。」


 と大して気にも留めていなかった。この器が神の証拠なのかもと2人の脳裏をよぎっていた。


 だが、隣にいる自称天使は違った。見た目は10代半ばにしか見えず、口調も神以上に軽いものであはあったが、その天使の持つ気配に普通でないものを感じとっていた。このため2人は天使の説明を大人しく聞いており、そこで自分達の死と条件次第で異世界に転生できることを告げられたのだった。


 2人は転生できることに驚愕し、それ以上に歓喜した。死んだら終わりなのは誰だって知っている。だが自分達は例外的に生き返ることができる。それを知って喜ばない人はいるだろうか。


「それでどのような条件なんですか?」


 待ちきれないのを隠さず女は自称神に質問する。女は条件をクリアできる自信があるからだ。それは男も同じであり、また2人とも自分の死を受け入れがたいのもある。


 そんな2人に対して、神の顔はやや不快となる。その表情の変化を2人は見逃さず、礼儀正しさを装う。自称神だが、天使の存在を鑑みて、神であるのは間違いないだろうし、機嫌を損なうのは避けたいと2人は考える。


「まず、基本条件だけど、今の体で転生するか、それとも赤ちゃんからやり直せるかは選択できる。今の体でも異世界の言葉、ある程度の常識と平均的な病気への耐性はつけるから。」


 神の説明を聞いて2人とも脳内でどちらを選ぶかを考える。


「んで、こっちが重要。考えるならこっちについて考えなよ。」


 自称神の雰囲気が重く変わる。その雰囲気に2人は固唾を飲む。


「転生できるのは1人。」


 この条件を聞いて2人は互いの顔を見合わす。


「はあ?2人一緒じゃないのかよ。」


「そうよ。そんなの酷いわ。」


 2人は大声で抗議する。2人ともここまでの話を聞いて2人で転生できるものだと思っていたのだ。


「どっちが生き返るかは、2人で決めて。」


 神は微動だずにせずいる。逆に天使は笑いだした。


「くふふ。あっははは。何を勝手に勘違いしているの。そんなこと私たちは一言も言ってないじゃない。」


 2人を蔑んだ眼で天使は見下ろしていた。その眼にプライドの高い2人は我慢することができなかった。


「ふざけるな。」


「バカにしてええ!」


 2人は天使に飛びかかる。だが、天使はその2人を軽くあしらい、2人は地面に伏せることになる。


「どすうる?まだ、駄々をこねる?」


 見下した笑みを見せる天使との圧倒的実力差を感じ、2人は口を閉ざす。


「もういいよ。でどうする?何を言っても条件は変わらないけど。」


 天使を制し、自称神は2人に改めて尋ねる。条件は変わらないではなく変えれないだけど、自称神、実際はただの人間百次は心で零す。ここまでこれと同様の光景を6度見てきたので既に慣れていた。


 そんな百次の前で2人は互いに見つめあっていた。


「ねえ。私のために死ねるんでしょう?ずっと言ってじゃない。私まだ死にたくないわ。終わりたくないわ。だから死んで。あなたのことは忘れないから。ね?」


 女は哀願の表情で男の顔を見て、その腕をつかむ。


「いやだ。俺だってまだやりたいことがある。」


 男は冷静にその腕を払う。このやりとりを見ている天使は喜々としている。


「何を言っているの。私のために死ねるって嘘だったの。私だってまだやりたいことがあるわ。やらなきゃいけないことも。私はここで終わるわけにはいかないのよ。私は。」


「俺もこんなところで終わる人間じゃない。まだ有名にもなっていない。」


「田舎出身のあなたは貴族の私と付き合って有名になれたじゃない。」


「お前だって、俺のおかげでクエストが成功したじゃないか。あの姉、兄に負けないくらいの成果をあげたじゃないか。」


 田舎出身の男は有名、金持ちになりたかった。地元で地味に小さく終わるのが心底嫌で、田舎を飛び出してクエストへ挑むようになった。目標への最短距離を行くため金銭、地位を持っている貴族の女に近づき、交際までつかみ取った。女の家名の良さ、本人の外観の良さ、意外な戦力もあり、男は狙い通り、名と金を手にいれることができた。貴族故の感覚のずれ、金遣いの荒さに内心、あきれたり、イラついたりしながらも公私ともに充実することになった。


 女は3番目の子であり常に優秀と評される兄、姉と比べられていた。劣等感をいだいていた女は、2人とは違う手段で自分を認めさせるため、クエストへ挑むようなった。そこに自分の家名を知って近づいてきた有望株の若手の男とチームを組み、女の想像以上に力を持っていた男のおかげで家族や周囲の人物は女を認めることとなった。田舎者感まるだし、知識のなさに内心、あきれたり、イラつきながらも公私ともに充実することになった。


 2人ともここで終わらせるつもりはなかった。さらに先へ、さらなる高みを目指して邁進している途中だったのだ。だから自分があのクエストで死ぬなんて思いもせず、死ぬ直前までこれは何かの間違いと思っていた。


 そんな自分たちの前に思いもしなかった異世界転生のチャンス。当初こそ驚いたが、今はもう、そんなチャンスを自分が選ばれるのは当然と考えていた。自分は転生できる。世界こそ違うもここまでできた自分なら必ず、また成功する自信があった。

 

 こんなところで終わってたまるか。今、2人の心中にはそれしかなく、2年間の交際相手を、パートナーを蹴落とすのに全力を注いでいた。


 2人のやりとりを交互に見渡す天使と百次。天使の表情は本当に楽しそうであり、逆に百次は憂鬱にしている。


「ウリアル、もういいよ。」


 百次の言葉を聞いた天使、ウリアルは口をニヤリとさせ、獲物の自分の背丈はある大斧を具現化させ、軽い口調で2人へ声をかける。


「おーい。」


 2人がこちらを向いたとき、事は終わった。斧が2人の体を真っ二つにし、魂はこことは異なる場所、魂から記憶、人格を浄化する場所へ送られた。2人の異世界転生のチャンスはここに終わりを迎えた。2人は真っ二つになった瞬間でも自分が転生できることを疑わずにいた。


「それじゃないとダメなの?」


 百次はウリアルを怪訝な目で見る。天使たちは死者の魂をそれぞれの転生先へ送る力を持っている。対象を光で覆い送るのが基本だが、天使たち個々の武器で攻撃することでも送ることができる。天使たちは条件に納得せず襲い掛かってくる奴を後者で対応している。だが、ウリアルは基本的に武器で送るしかしていない。


「うーん。これが一番。ひひっ。」


 ウリアルは斧の柄を地面につけ、満足した表情をしていた。斧でぶったぎりたいだけじゃないのか、百次にはそうしか思えなかった。


「それより、次、次。」


 斧を消したウリアルの顔には次の獲物を寄越せと出ている。百次はパソコンに目をやると画面には先ほどまでの2人の情報が入っていた。


 男は手に入ったお金のほとんどを田舎へ仕送りしており、そのおかげで貧困であった田舎は少しだけ生活に余裕が生れていた。女は家名を利用してギルドの運用を一部改善しており、それは他のギルドも採用することなり、後世名を遺すものであった。


 2人は死ななければ、もっと有名になっていたかもしれない。そんな2人も自分の転生を求め、最後は醜く言い争っていた。


 世界が違っても人間は同じ。思考も醜さも。この醜さをウリアルは喜々として見ている。


「へいへい。余計なことを考えている場合じゃないよ。」


 ウリアルは机に座り込み、百次の顔を除きこむ。百次は自分の顔を除く天使を見て考える。見た目はかわいいし、性格は明るく人懐っこい。諍いを好むのをさえ、なんとかならんかな。ガブリアルも他の2人もどこか性格に歪みが見え、辟易するときがある。


「はいはい。私に見惚れてないで、次々。」


 ウリアルにせかされ、パソコンをいじる百次。







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