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転生者選定NO.  作者: 鈴明明書房
29/49

ロザリオと銃6

 一加渾身の一撃を喰らった大型骸骨剣士は祈りの効果もあってチリとなって消えた。


「ふう。あ。」


 倒した安心感と力を出し切った一加はその場にふらつき、倒れそうになる。エクバが慌てて走り出すが、それより早くクノンが一加の体を支えた。


「あ、ありがとう。また力抜けちゃった。・・・・勇者なのに情けないね、」


「・・・・・・そんなことないよ。」


 自嘲気味な一加に対してクノンは首を横に振る。


「にゃーんか、ちょっとの間に雰囲気かわってませんか~。」


 クノンの顔を覗き込んできたギユ。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 無視をするクノン。自覚しているのか頬が赤い。


「あれ~。姉さんだけにですか?このチームのTHE・妹の私は無視ですか~。クノン姉。」


「・・・・・・・・・・・・・・。」


「あ、顔が赤いで。ぎにゃ。」


 重さのあるラズとは違い、キレのある蹴りをギユに決めたクノン。


「はい。まだ。気を抜かない、抜かない。主を倒すのがここの目的ではないでしょう。ほら、ギユも立って。」


 ミニアドが手をたたきながら、大型骸骨剣士が死守しいていた術式に目線を向ける。これの対処が今回の目的である。


「ミニアド、イチカ、悪いんだけど、その前に伝えてることがある。」


 ラズが2丁の拳銃を袖下のギミックに戻しながら2人の前に立つ。


「姉さまも雰囲気も変わったというか、むしろこっちのほうがしっくりきてる気がしますね~。」


「そりゃあね、こっちが素だからね。」


 ギユの言葉に笑みを浮かべるラズ。一加の中でラズのイメージが変わる。


「ここで言うということは、機密事項?」


「まあ。そんなところね。」


「役目と関係があるの?」


 ミニアドの質問に真剣な顔つきとなる。


「私は本物の役目持ちじゃない。」


 ラズの告白にクノンを除く4人は戸惑いを隠せないでいる。


「えええ。あ、分かったです~。あれです。クノン姉が本物ってことですねえ?」


「そうなの?」


 疲労からかギユの考えを信じた一加。


「違う。」


 ギユの考えを即否定するクノン。


「じゃあ、あの場にいた教皇補佐だ。あの姉さんこそ聖女って感じが」


「そうなんだ。」


 またギユの考えを信じた一加。


「それも違うんだよね。」


 今度はラズが答え、何も考えていないことを一加は恥ずかしくなり、目を伏せてしまう。


「ええ。じゃあ、だれでにゃぷ。」


「どういうことって言うべきなんだけど、一通り聞いてからにする。エクバもイチカもあんたも質問は後。」


 ギユが騒ぎ立てる前にその口を抑え込むミニアド。


「ありがと。ミニアド。」


 ウィンクをするラズ。


「本来、『勇者のロザリオ』の役目を持っていたのはアイジー・オーバ。クノンの双子の妹。」


 ラズは腰の袋を手にとりだし、クノンは自分の左目付近に手を触れる。

 


 

『勇者のロザリオ』 アイジー・オーバ。享年17歳


 外見はクノンと一緒。異なるのは瞳の色で、クノンは金色だが、アイジーは銀色。


 ラズ7歳、双子0歳時、ろくでもない親が魔物に殺され、オーバのヤドリギに入居する。そのため双子は実の両親のことを知らないが、姉やヤドリギの家族がいたことで、苦に思ったことはない。


 ラズ14歳、双子7歳時、教会によって、アイジーが役目持ちに選ばれる。アイジーは教会住み込みで訓練の日々。ラズとクノンはアイジーを守るために傭兵集団『月喰い』に入団、重火器の扱いや銀操術、サバイバル知識の習得に励む。


 ラズ24歳、双子17歳時、クノンはクエストで左目を失明する。とき同じく聖教国周辺で発生した流行り病によりオーバのヤドリギ関係者大半死去。アイジーも治療に協力するも発病。


 アイジーのことを耳にした姉妹は戻ってくる。このとき、関係者は「生きているのが奇跡だ」と言うくらいまで、アイジーは衰弱しており、もう長くはなかった。


「「アイジー!」」


 2人はアイジーの待っている部屋に飛び込む。


「・・・・・ねえ・・・・さん。クノ・・・・・ン。」


 ずっと昏睡状態であったアイジーは目をうっすらと目を開ける。


「うん。私たち帰ってきたよ。」


 クノンがアイジーの手を握る。アイジーの手から圧力を感じない、そこにあるだけ。


「役目のことは忘れて、まず。元気になりなさい。」


 ラズはアイジーの頬に触れる。


「そうだよ。今はぐっすり休んでな。あ、もし、アイジーが必要な場面があるなら、私が変わってあげるから。」


「ふふ。・・・とう」


 クノンの言葉に微かに笑みを浮かべるアイジー。


「でも・・・・もう・・・・いいの。」


「なにがいいのさ。」


「わ・・・し、もう・・・・」


 自分の最期をはっきり自覚していたアイジー。


「何言ってんのよ。魔王退治に挑む役目持ちがこんなことで諦めちゃだめよ。」


「姉さんのいう通りだよ。それに約束覚えているでしょ。3人で勇者と一緒に世界を旅すること。私さこの大陸しか回ってないけど、それでも広いんだよ。訓練もひと段落ついたんでしょ。それなら少し遠くに行くくらいはできるでしょ。元気になっていっぱい、いっぱいいろんなものを見ようよ。」


「うん。行き・・・・たか・・・・・」


 励ましに応じるように微笑みを浮かべるアイジー。


「行きたかったじゃなくて、行くわよ。『月喰い』のメンバーにもアイジーを紹介したいし、あとレスラー団体とも知り合いになったのよ。きっと会うと面白いわよ。」


 ラズもアイジーの手を握る。

 

「うん。・・・・・・・・・クノン。・・・・目」


 包帯で隠された左目を見つめるアイジー。


「ああ。ちょっと失敗しただけ、アイジーより問題ないよ。」


 笑顔を見せるクノン。もう右目には涙があふれている。


「私が・・・・死んだ・・・・ら・・・私の目・・・・・・使って。」


 クラフィード聖教内では身体の移植をよしとしない考えの派閥がある。それでもアイジーはクノンの体のことを想う。


「何言ってんのさ、元気になるんだから、必要ないよ。だから死なないで。」


「ねえ・・・さんも、その・・・・ときは、・・・・・もう・・・たたかわ・・・・なく」


「なに言ってんのよ、それはアイジーよ。もし明日勇者が来て、役目もちが必要なら私が変わるから。だからまず体を治しなさい。時間をかけてもいいから、勇者だってすぐ戦えなんて言わないでしょ。」


 ラズも両目から涙をこぼす。


「たたか・・・・・うのは私・・・・だ・・・・で・・・いよ。」


 アイジーは首を横に振る。


「なに言ってるのよ。今は休みなさい。」


 ラズたちが、アイジーの言葉の意味を知るのは後になる。


「ねえさん。クノン。ゆう・・・・にや・・・はた・・・・せな・・・・あやまって・・・・。・さい・・・・にあえ・・・よ・・った。」


 アイジーの言葉が小さくなる。部屋にいたシスターは別のものに教皇たちへの伝達を頼む。


「ありがとう。」


 最後の言葉は2人の耳にはっきり聞こえた。


 後日、アイジーの遺言に従い、クノンは左目の移植を行う。反対派閥がいるも、アイジーの意志の尊重、アイジーに世界を見せたいと言うクノンの言葉により教皇が許可した。


 アイジーは左目以外にもう1つ残したものがある。それは彼女自身の灰。


 アイジーは病に罹ってから、死ぬ直前まで、自身に祈りをかけていた。その結果、彼女の灰は魔石のような祈り用の媒体となっていた。


 この灰を使えたのはラズとクノンのみだった。銀操術の才も関係すると思うが、アイジーの遺志によるものと教皇は述べていた。


 そして、祈りの才が多少なりともあったラズが役目持ちを継いだ。アイジーが身体の成長に合わせて行った7年の訓練を、ラズは傭兵仕込みの無茶修行経験とド根性、姉の立場から2年ですべて行った。その結果、平均的な神官よりも上を行く実力を得た。(それでもアイジーよりは劣るらしい)


 この経緯とラズ本人の性格から、伝統と格式を重んじる騎士団長からは好かれておらず(もともと孤児のアイジーも反対していた。)、教皇への恩義(自信を役目として容認してくれたこと、流行り病で経営困難になったヤドリギの住人を保護してくれたこと)から騎士団派好みの聖女のような人物を演じていた。


「はっきり言って、あの騎士団長とは一生折り合いがつくとは思わない。」


 ラズは苦虫を噛み潰したような顔をしてはっきり答えた。


「ええ。暗殺とか、騎士団とかに邪魔されないんですか~?」


「そう思える訓練はあったけど、騎士団クソ上層部の98パーセントはともかく、一般兵はそこまで頭固くないよ。」


 物騒なことを言うギユに、全否定しないラズ。


「とまあ。これが伝えんきゃいけなかったこと。」


 一加のほうへ向きなおるラズ。


「ごめんね。姉妹で迷惑かけちゃって。」


 本来の役目持ちが力になれなかったこと。役目持ちのふりをしている自分。一加への不満をずっと表に出していたクノン。そのことをラズは気に病んでいた。


「あ、いえ。そんなことはないです。その、むしろ、役目持ち制度のせいでラズたちに迷惑をかけちゃっててすいません。」


 話の内容に思考が追いついていない一加。自分でも変なことを言ってると思う。


「それに、私にとって役目持ちはラズですし。ああ、そのアイジーさんが役目持ちじゃないって意味じゃないです。アイジーさんは私なんかよりもずっと役目持ちの矜持を持っていたんだなって思いましたし、死んだ後でも助けてくれるなんて立派だなって。それにクノンにもいっぱい助けられました。」


 上手いことを言えず、だんだん小さくなっていく一加。


「そう。ありがとう、イチカ。」


「そんな。これから3人ともよろしくお願いします。」


 素直な感想とアイジーへの気遣いに感謝を隠し切れないラズ。一加が勇者であることを心から良かったと思った。


「でもさ、このことってしゃべって良かったの?」


「それよ。エクバ。「どれも隠しとうせ」って騎士団長は言ってたけどね。どう考えても無理でしょ。実際無理だったし。」


 ビシっと指さすラズ。


「だから、騎士の待っている地上じゃなくてここで話したのね。」


「ミニアドのいう通り。ま、騎士はともかく、騎士団長の前では知らんぷりしてね。」


 ウィンクと悪い笑みをうかべたラズ。




「それじゃあ。やること終えて帰りますか。イチカは休んでいていいけど、私のすることはちゃんと見といてね。」


「うん。」

 

 ミニアドが術式に振り替える。


「あ、その前に姐さん、魔石貸してください。あの大剣を地上に送り飛ばしたいんで~す。」


 ギユが手をこまねきしている。大型骸骨剣士の一部ではなく装備品だった2振りの剣、体格的に使えるものいないが、金にはなる。ギユはそう考えた。


「・・・・・この術式の魔石は節約してねって言ったよね。」


 振り返るミニアドの顔はギユは直視できなかった。


「ひゃい。では姐さんの転移魔法で一緒に飛ばしてもらうです~。」


「・・・・・・・・猫人が置き去りになる可能性があるけどいいかしら。」


「ぎにゃああ。姐さんならできますって。できますって。」


「あのね。先人たちの経験や記録からこの術式を覚えたし、似た環境を用意しての実践もしたけど、ダンジョン自体で使うのは初めてなのよ。」


 ギユの頭にアイアンクローを決めるミニアド。


「わっかりました。剣だけで我慢します」


「わかればよろしい。」


 ミニアドはようやく術式の破壊にかかる。それを見ている一加の横にクノンが並び立つ。


「・・・・イチカ。ごめんなさい。」


「え?・・・・・・?」


 謝れることをした記憶はない一加。


「私、ずっとあなたが不満だった。」


 バツが悪そうにするクノン。


「覇気はない。ミニアドやエクバの後ろに隠れている。すぐオドオドする。優柔不断。エクバやギユに振り回される。ゾンビや骸骨にビビる。すぐ泣きそうになる。自信のない表情ばかり。私にも恐れを抱いている。胸でかい。本当に勇者なのって思ってて。」


 全てが言葉の矢となって一加に刺さっているが、クノンは気付いていない。


「それはあの、全部私のせいなんで」


「姉さんのことを考えるとイチカに任せられないと思って。」


 身内を失ったクノンだから、より自分が不満だった。一加は仕方ないことだと思った。実際クノンのいう通りであり反論もできない自分がいる。


「でも・・・・・・・・・・・」


「でも?」


「イチカは勇者だよ。私が間違ってた。」


 クノンのまっすぐな言葉に一加は照れてしまう。


「私、イチカのこと好き。」


 突然の告白に一加はフリーズする。この言葉にエクバは反応して2人のほうに近寄る。数秒後、一加の脳内大会議の末、これは友として、仲間としてのことだろう、エクバと同じことだろう、百次のそれとは異なるものだろう、一加はそう結論付けた。同じく脳内大論争を終えたエクバも同じ結論に至っていた。


「ありがとう。クノン。私も好きだよ」


 だが、一加は知らない。長い傭兵集団それも曲者しかいない『月喰い』との生活で、クノンの恋愛知識に大幅なズレがあることに。(ラズはいたって普通である)


「だから。」


「だから?」


 クノンは一息貯める。


「脱出するわ。イチカのもとに集まって。」


 ミニアドの言葉は耳にはいるが、頭には届いていない一加、エクバ。その横で骸骨剣士の大剣に未練タラタラのギユ。


 ミニアドの転移魔法『離脱』が発動した。




「自分の言ったことわかってんの?クノン?」


「イチカは私の嫁。それ以上はあってもそれ未満はない。」


 1人の人間に胸がドキドキして熱くなった。それは『恋』。

 明日も分からぬ俺達は、その感情に従って即行動すべき。

 燃えるほどの愛に狂うべし。

 愛を止めれるものなし。

 「○○は俺の嫁。」これで女は堕ちる。

 いちゃつけ、べたつけ、からみつけ!


 傭兵集団の面々がクノンに押しえた言葉。クノンは助けられたときのあの湧き上がる感情は恋と結論づけ、行動に移った。


 その宣言からエクバとギユの争いが勃発するが、ミニアドはとりあえず、騎士たちに状況報告。


 試験はもう終了ね。


 一加の様子からそう判断する。いがみあう2人の頭を杖で叩き、教会へ戻ることにした。


 ラズ・オーバ 『勇者のロザリオ』 

クノンオーバ

『勇者の剣二振り』(一加案)『勇者の剣真打』(クノン案)『使われない勇者の剣』(エクバ案)

『無音の碧弾』(ミニアド案)『双眸の碧鷹』(ラズ案)『ミニマム銃士』(ギユ案)


 が勇者一行に加わった。



「イチカは私の嫁。」


「おおおおおい。」


 この言葉にエクバより発狂した百次。ただでさえ、エクバとアンな関係の一加。今もオドオドでいているとはいえ、顔には笑顔も見える。


 自分は忘れられているのではないかと不安なのだ。異世界の環境ゆえ、押しの弱い一加は表面上は押し切られる可能性が高い。内面だって危うい。


 恋人が 異世界転移 寝取られた 


 エクバと一加のアンな関係を知ったとき、ウリアルの詠んだ俳句。この俳句が脳裏を駆け巡る。


 ツンとしていた昨日とは全く表情の違うクノン。どう見ても一加にデレついている。


・・・・・・ツンデレ?


 これってツンデレ?あってるこの分類で?一加はハーレムを作るのか?次はヤンデレか?ボクって言う奴か?俺様系か?


 混乱している百次はとりあえず、ツンデレの意味を知らべ始めた。







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