ロザリオと銃
ギユが正式に仲間になり、2週間。一加たちは月円王国の領土を出て新たな国の領土へ入っていた。
目指す場所はクラフィード聖教国の中枢、大教会。
そこには、『勇者の剣』、『勇者の指針』と同じ役目持ちの人物がいる。
『勇者のロザリオ』
物理力とも魔法とも違う祈りの力によるサポート、治療、邪払いを主とする者。
「私たちのことは伝わっているはずなんだけど。」
ミニアドが大教会の門番に声をかける。月円王国の領土を出たとはいえ、王国の諜報員は世界を股にかけており、ミニアドたちは諜報員経由で情報を入手している。
「でっかーいですねー。姉さん。」
「そうね。本部となるとこんなに大きいんだ。」
元の世界でもこちらの世界でも教会との縁がなかった一加は感嘆の表情で大教会を見上げた。
「そうだねー。今までの教会がギユなら、こっちはイチカだね。」
「え?どうゆうい・・・・・・」
エクバの例えがわからず、振り返る一加。エクバの目線はすでに協会から、一加の首より下。それで全てを理解した一加は腕で比喩された場所を隠した。
「その穢れをここで払ってもらいなさい。」
「ぐえっ」
エクバの後頭部を杖でどついたミニアド。
「その凶暴性はここで払えないだろうね。」
後頭部を抑えながら、しゃがみこむエクバはミニアドを睨んでいた。その様子をギユは笑っており、一加はエクバを心配していた。
「馬鹿な話はここまでにして、行くわよ。教会内では騒がないようにね、ギユ、エクバ。」
ミニアドが歩き出し、ギユが続く。が一加は逆方向に進んでいる。
「・・・一加?逆だよ?」
一加の肩を叩いて止めるエクバ。
「あれ?」
エクバの顔が真っ白になっている。目もクルクル回転している。
これから会うのはエクバやミニアドと同じ役目持ち。自分がこの世界に来る以前から魔王討伐のため、世界のために生きてきた人物。自分を勇者として認めてくれるのか?そのことが一加には不安だった。
エクバやミニアドは一般人だったころの自分を知っている。勇者と自称するにはまだ早い気がするが、それでも勇者見習い?初心者勇者?くらいのレベルだと知っている。
だがこれから会う人は完成された勇者像をイメージしているかもしれない。過去に世界を救った勇者と同じレベルの勇者と思っているかもしれない。
役目持ちの人に
「期待外れ。あんたじゃ世界を救えない。想像未満。本当に勇者?あんたと同行は無理。胸だけ。」
心底軽蔑されたらどうしよう。
「尊敬する。想像以上。あなたなら必ず世界を救える。流石勇者様。足を引っ張らないように頑張ります。胸板の厚い戦士。」
逆に期待されすぎても困る。
一加はプレッシャーと不安で体が勝手に教会から逃げ出していた。
「不安なんですか?姉さん?」
ギユが回りこんで、顔を覗き込んでくる。
「・・・うん。その・・・・期待が・・・・・怖くて。」
どんどんと小さくなっていく一加はついにしゃがみ込む。
「期待?ああ。勇者としてね。そこは問題ないよ。一加はちゃんとした勇者だよ。私が保証するよ。」
エクバが一加の背中をたたいて勇気づける。
「姉貴の言うとおりですよ。自信をもってくださいよ~。」
ギユも同意を示す。しっぽを振って場と一加のテンションをあげようとする。
「3人は私を知ってるからそう思ってくれるけど、これから会う人は私のことを知らないんだよ。」
本音がダダ漏れの一加。本音が言えるだけ打ち解けたことは良いことだが、弱気な発言ばかりなのは困りどころとミニアドは少しだけため息。
「そこも安心しなよ。だから立って立って。」
「そうですそうです。心配ないですよ~。」
エクバとギユは一加の腕をとって立ち上がらせる。
「なんで、そんなことが分かるの?」
一加は2人の自信満々な顔が不思議だった。
「ミニアドが説明するから。」
「ミニアドの姐さんがなんとかするです。」
2人は胸を張って他人本願であることを白状した。
「・・・・・・・まあ。常時なにも考えてない猫と鼻の舌が伸びてる戦士よりは一加について説明できると思うけど。」
胸を張ってる猫と戦士に呆れた目線で答えるミニアド。
「一加もちゃんと、背筋を伸ばして胸を張りなさい。」
「・・・・・・うん。」
まだ表情の晴れない一加
「・・・・・不安でも会わないと始まらない。2人に無理やり引っ張って連れていかれ、もっと周囲に変な目で見られるか。自分で堂々とするか。選びなさい。」
教会への参拝者たちは教会まえで立ち止まっている一加たちに目線を送ってている。
「行くわよ。」
ミニアドは振り返り歩き出し、エクバ、ギユも一加を信じた表情を見せた後ミニアドの後に続く。2人の表情にこたえるように一加も意を決め歩き出した。ただエクバの後ろに隠れるようにだが。
大教会を進み、関係者専用の奥の間へ。
「お待ちしておりました。勇者様。」
部屋には6人の男女が待っていた。
気苦労の絶えなさそうの50代の神父。真面目な目つきとピシッと背筋を伸ばした40代男性神官。温和でにこにこしている70代シスター。青を基調とした服装の若い黒髪シスター。もう1人の若いの銀髪のシスターこちらは赤色を基調とした服装である。
この5人は教会関係者と見た目で判断はつく。20代2人のどちらが役目持ちなのだろう。一加はエクバの後ろから2人を見比べる。2人とも優しそうだ。
だがこの場で待っていたのはもう1人。その人物はこの空間で一番異質だった。
・・・・・軍服魔法少女?
一加はその少女を見てまずこう思った。
クラッシュキャップ、コンバットシャツ?だったけ?。
昔、ミリタリーオタクな友人Nが熱心に語られたことで、記憶の片隅にあったその少女の帽子と上衣。
その場の女性の服装は緑色クラッシュキャップ風の帽子。緑と白のコンバットシャツ風の上衣。これで軍服ズボンだったら、軍人と一加は思ったかもしれない。
だが下位はスカート。で、ガーターにストッキング。帽子もシャツもところどころにかわいさがある。
その服装足し算の結果が軍服魔法少女。
協会関係者5人が勇者一行に視線を送る中、彼女は目線を送るも、武器の手入れを休むことなく行っていた。
その武器も一加の目を引いた。
あれは・・・・・・えーっと。
軍服姿の友人Nが脳内に浮かんでくる。いや叫びながら駆け寄ってくる。
「フル。・・・・・・た・・・しゃラ・・・ 。カリオ・・・・しゅうば・・・・・ジゲ・・・・・」
「でっかい銃ですねえ。あの子より長いですよね~。姉さん」
一加の後ろにいたギユの声で友人Nが記憶の片隅から消えていく。
「あれは見た目でいえば対戦車ライフル~。かっけ~。」
友人Nの断末魔だった。
対戦車ライフル・・・・・・・・。
・・・・・銃。
友人Nの断末魔も虚しく。一加は少女の持つものを銃の一括りでしか認識できなかった。
この世界に来るまで一加もアニメや漫画でしか見たことなかった銃だ。ミニアド曰く、2代前の勇者が持ってきて、この世界にも普及したという。
銃本体の値段の高さ、弾一発一発の値段故、持つ者も限られるが、弱者や一般人の戦力向上に一役買ってはいる。さらに魔法の存在故、一加のいた世界とは全く別の進化も遂げているが、、それでもこの世界において、銃の存在は絶対とはならなかった。
銃口と指の動き、呼吸、気配から、放たれた銃弾を避ける、弾く。洗練された防具、魔法などにより防がれる。
それを実現できる存在が、それを実現できる防具がこの世界には存在するためである。
月円王国は勇者が降り立つ地であることから、魔法、剣に比率を置いているため、砲撃の部隊はあるが、銃を使う人物は極小数であった。
その銃・・・・一加のいた世界では対戦車ライフルに分類されるものに似た銃を慣れた手つきで整備を続ける少女。
「あなたも整備を辞めて。ほら。」
「・・・・・・・・・・・・。」
銀髪シスターに促され、手を止めた軍服魔法少女は金色の右目、銀色の左目でじっと一加を見ていた。
このころ、百次は選定NO.33を選び、内容を確認していた。




