転生も金次第2
「これが参加者の識別番号になります。今後は胸に掲げられた赤色の数字であなたたちを呼びます。」
ガブリアルたちは参加者へ札を配る。各々の札を見てあることに気付く。
「裏にも青い数字があるけど。」
「こっちは桁が多いな。」
「はーい。青色の数字は資産だよ~。やっぱりみんな桁が多いねえ。」
ラファアルが手を振って青色の数字の答えを出した。
「やっぱ。そうか。」
「ん。でも俺の記憶する資産より少ない。」
「そうだ。もっと多いぞ。」
「私の場合は多い気がする。」
「おい。どう・・・あ、すいません。」
金の多いものが有利なオークション。自分の生き死にを決めるのに金はいくらあっても困らない。
焦りでつかみかかろうとする者もいたが、ウリアルだっためにすぐ止めた。
「既に気付いていると思いますが、ここにいる人たちは同じ世界にいるわけではありません。」
ガブリアルの言葉に参加者は互いを見渡す。さきほどオイタをした猫人、自分たちとは毛色の異なる服装から想像はしていた。
「そのため、資産の価値を統一したのが裏の数字となります。記憶と合致している人はその基本となった世界です。」
これがオークションの武器になることを知った参加者の目つきが変わる。
そして、しきりに裏側の数字に目を向ける者はいる。その目は焦り、敵意とそれぞれ。
「はーい。ちゅーもーく。みんな、自分の資産を確認したねえ。ここからオークションのルールを説明してくよー。」
ラファアルが手を振り、参加者の視線が集まる。
時間は10分。
その10分経った段階で最も高い金額を示していた者が転生の権利を得る。
そのお金は資産から減っていく。
他者へのあらゆる妨害は禁止
審判ウリアル
「例え私が誤審をしても文句は言わせないよー。言う勇気と覚悟があればだけど」
ローテンションのウリアルからでる圧迫感で場の空気が凍り付く。
「も~。ウリアルのせいでまた空気が凍り付いた。はーい、テンションあげていこうね~。それで説明の続きだけど~。なら、最初から大金を積めばいいと考えるかもしれませんが、それはそれで負担となるよねえ。」
「そのラインを見極めてください。」
ラファアルが凍り付いた空気を溶かし、ミカアルが説明を再開する。
「そして、もう一つ大チャンスのルールがあるよ~。よーく聞いてね。はい。説明。」
「ふ。私の資産なら確実に勝てる。」
ウリアルがクールかつ凛々しい表情でセリフを吐く。宝塚?宝塚の公演を見たことはないが、そのイメージを浮かべる百次。
対象者がポカンとしている。
「あ、あいつは私より確実に資産が多い。どうしよう。困ったなー。」
棒読みのガブリアルは頭を抱える。ミカアルの演技の上手さを諦めていたラファアルだが、頭を抱える動きだけはするよう念入りに指導していた。
「ああ。私にもっとお金をかせぐ手段があれば。」
大げさに残念がるミカアルの体がなめまかしい。男性対象者の目があれだ。
「おやおやおや。お金がなくて困っているのかね?なら前貸しするよ。」
百次の役割は悪徳金貸し。百次はアタッシュケースを開ける。ケースの中には女神の顔の描かれたお札の束。
アタッシュケースを受け取ったミカアルは涙ぐむ。
「あ、ありがとうございます。これで私も転生できるかも。」
「あくまで前貸しだからな。後で必ず取り立てるぞ。身内がどうなっても取り立てるぞ。」
「ええ。わかっています。必ず返します。それじゃあ。」
ミカアルが百次よりアタッシュケースを受け取り、走り出す。
「・・・・・・体でもいいよ。」
百次はいやらしい目つきでミカアルの揺れる部分をみていた。無論演技である。だが練習の段階からガブリアルは信じてくれなかった。
「はーい。わかったねー。答えは借金、借金。」
ミニ寸劇は終了。ぽかんとしている対象者たちは我を取り戻す。
「借金をして権利を競り落とす可能性をあげる。むろん借金を支払うのは身内。」
「そのことに悩む奴はいないと思うけど。ひひっ。」
借金をすることで権利を得る可能性がある。このことで他人の資産を気にしていた対象者を希望を持つ目となった。
「これ意味ある?」
ボソッとつぶやくガブリアルであった。
「はーい。ルール説明しゅうーりょーう。あとはどうやって権利を手に入れるかよーく考えてね。」
ラファアルの言葉に対象者たちは息を飲んだ。
「おーい。転生先はどーなってるんだ?」
1人の対象者が手を挙げる。
「第4世界の豪商ダスパーニ家。その第1子で長男。君たちにとっては少ないかもしれないけど、お金に困ることはないわね。」
ガブリアルの答えに、対象者は安堵した表情となり、各々の感想をこぼす。男ということで困惑した表情の女性もいる。
「今のところは。」
ガブリアルが小さくつぶやいた言葉を聞いたものはいなかった。
15分後、転生者は決定した。
「はい。ここまで。買い取ったのはナンバー19。」
ウリアルが勝者を指さす。
「はーい。おめでとう。」
ラファアルが拍手をし、ミカアルもそれに続く。
「ふざけるな。俺のほうが上げた金が多いぞ。」
「それは私もよ。」
時間オーバーで19より高い金額を示したという者。
「19は時間オーバーだわ。」
「私のほうが時間ぴったしよ。」
19は時間オーバー、自分は時間ぎりぎりに金額を示したと言う者。
百次には皆同じタイミングに見えたが、判断するのはウリアル。その判断にケチをつけた複数の対象者たち。全員ではないが少ない数とは言えない。
「ああ?審判は私だって言っただろう。誤審だろうと判定は変わらないっていっただろう。だから諦めろよ。」
目を見開いて対象者を見下ろすウリアル。見下ろされた対象者たちは怒りと諦めれない気持ちから、ウリアルに襲いかかる。
が。
あっさり返り討ちにされた。
それも消されるわけではなく、普通にボコられた状態。金を稼ぐ才はあるが、人を瞬殺する才は持ち合わせていない対象者の限界であった。
倒れた対象者の首を踏みつけウリアルは一言
「まだやる?」
ウリアルの睨みに他の対象者は首を横にふる。
「それでは19以外にはご退席してもらいます。」
「それじゃあ、お疲れさまねー。」
ラファアルが笑みを浮かべ手を広げる。
倒れた者、ウリアルの狂気に震えていた者、諦めた者関係なく光に包まれ消えていった。
「はーい。ナンバー19、ええっと。ラルガ・ゴン・ゼフィル。権利買い取りおめでと~。」
ラファアルはナンバー19の資料を見て確認する。
天使たち区分でいうと第5世界の住人であり、持っていた資産は対象者の中では第3位。ゼフィルはすべての資産を使用し、借金した金額は百次の世界でいう6000億。金を提示したタイミングもベストタイミングと言えた。
「早速行いますが。なにか伝えることあります?」
「いや。なにも。頑張って生きて。」
ミカアルが百次に尋ねるが、ささっと終わらせにいく。
「それじゃあ、転生先で頑張って借金を返してね~。」
「借金なんです。それ?」
腕を広げたラファアルにナンバー19は目を丸くする。
「この転生の権利を得るためにした借金ね。」
困った顔でミカアルが説明する。
「お金は生前の資産から減るんじゃあ。」
「・・・・・借金の対象はあなたの新たな家族のことです。なのであなたの生まれるダスパーニ家になります。ちなみに借金はダスパーニ家の資産を大幅に超えています。」
「な!」
淡々としたミカアルの言葉にナンバー19は見た目に合わない声を上げる。
「あれ~?劇ちゃんと見てた~?ちゃんと考えた~?」
ラファアルがナンバー19の顔を覗き込む。ぶりっこのように笑顔だが、目の奥は氷のように冷たい。
「あくまで前貸しだからな。後で必ず取り立てるぞ。身内がどうなっても取りたてるぞ。無論借金を支払うのは身内。って言ってたよね~。」
ウリアルが百次、ガブリアル、ラファアルの順に真似をする。
「ほら、身内が支払うって言ったよねー。」
「だから、それは生前の会社や家族じゃあ。」
「資産はそうですが。借金の説明でそのように誰か言いましたか?」
「私は言ってないよ~。」
「言ってない。」
「私もです。」
天使たちの回答にナンバー19は口を閉ざす。
「私はよーく聞いてねって言ったよね~。よーく考えてねって言ったよね~。」
「理不尽?説明不足?私たちに優しさを求めるのは間違っている。」
「転生のチャンスを得ることだけでも、幸運ですよね?」
「そういうことね。」
目つきが、表情が、声色が、天使とは程遠い。ナンバー19は上司と判断した百次に目を向ける。
「えーと。もう決まったことだし、頑張って生きて。」
百次は投げ出した。早く終わらせたい気持ちでいっぱいだった。ナンバー19なにかを叫んだが、百次の耳に届くことなく送られた。
5人だけとなった空間は鎮まる。
「これでこの選定は終了ね。」
「はい。お疲れさま。」
「お疲れ。っていうほど疲れてはないと思うけど~。」
「100人選んで終わり、あとは見てるだけって楽なもんだね~。」
天使たちが百次のもとへ集まる。
「条件上そうなるだろ。」
ラファアル、ウリアルに対して口を尖らす百次。
NO.33
転生の権利を多額で買い取る者。
家族や会社を我欲のために潰せる者。
オークションで基本は生前の資産を使う。借金で来世の資産を使う。
百次は我欲をむき出せる100人を選ぶ。
百次はこのオークションの参加者、資産を使うことに躊躇しない人物、借金することに躊躇しない人物100名を選んだ。実際はいつも通り、天使が用意した直近で死んだ一定以上の資産を持つ1000名の中から100名ではあるが。
それでも辞退した人がいるのは百次に人を見る目がないか、被害にあう家族や会社を思ってかは不明。
「金で転生するって他の神はしてるの?」
百次はこの条件を聞いたとき天使にそう聞いた。この選定だと生きている人に負担があるのは明らかである。
「・・・ええ。レキルア様は実施していませんが、他の神々が行っています。」
「百次も聞いたことあるでしょう。経営主が死んで変わったら、一気に経営破たんした会社の話。」
「百次の世界では新しいトップの力不足のせいだけど~。」
「神々の管理する世界なら死者が転生の権利を買い取ったためってこともあるー。ひひっ。」
「その神は何を考えてそうしてるわけ?」
「さあ?」
考えもせず返答するガブリアル。
「一文無しから立ち上がる家族や社員をみるためかしら?」
首をかしげるミカアル。
「強欲好き?ひひっ」
目をくるくる回しているラファアル。
「おもしろいから~?」
にっこり笑みでのぞき込んでくるウリアル。
結局天使たちも知らない。
選ぶことに苦痛を感じないんだろうか?神はそのことを感じたり考えたりすることはないのか?生きている家族や社員にまで負担を与えるこの方法に。だから、百次は逃げるようにナンバー19を転生させたのだ。
・・・・いや、ないか。あの聖女1択のときで分かっていたはずだ。レキルアにはないのだろう。全部の神がそうではないと思うが、苦痛を与えることをなんとも思わない神はいる。
神ってろくでもない。
百次はそう思うが口には出さないし、出せない。自分の転生のチャンスを逃がさないために。
自分もろくでもない。
百次の考えはここに行き着く。
「ま、あなたが悩んでもなにも解決はしないわね。」
「辛いようなら、今日はもう休んだほがいいわねえ。」
「悩んでる姿はレルキア様の笑みに繋がる。ひひっ。」
「試練はまだまだ続くよ~。」
仕事を終えた天使たちは戻っていた。立ち上がる気にならない百次は一加の様子をパソコンに流しだす。
「おおおおい。」
その映った状況に百次は叫び声をあげた。




