天使の仕事
はい。こんにちわー。
皆のアイドル・心の清涼罪・試練の女神レキルアに従う天使が一角・四姉妹天使の末妹・転生選定者の補佐約の1人、ラファアルだよー。
今日は私たち、天使の仕事をあなたにお し え て あ げ る。
早速いくよー。
お仕事その1 私たちの主、レキルア様の補佐。
食事や着替えなど日常生活のお手伝い。管理する世界を視察する際のお供。レキルア様の身辺護衛。
簡単に言うと、専属メイドとして働いているよ。以上。
お仕事その2 転移者の把握
異世界転移者はそれなりにいて、私たちはその1人1人を把握しておくの。あ、安心して、四六時中監視しているわけではないから。転移者も3パターンあるんだよね。
人為転移者
その世界の住人によって異世界から召喚され者。
ここ最近だと、南羽百次の彼女で勇者として召喚された九十九一加だね。
神為転移者
世界を管理する神の力によって転移した者
神の管理する世界の住人を神の考えのもと転移させるわけだから、行先は神有界か神来界になるわ。
無為転移者
まれに世界同士が繫がって、運悪く、運良く?異世界転移した者。
ここ最近は異世界転移の物語が増えた影響で、そういう人って増えているんだよね。あ、人間の思いって結構世界に影響あるんだよね。実感することなんて少ないと思うけど、本当だよ。
お仕事その3 転生者の把握
神が管理している世界だと死んだ者は魂の集う場所で記憶や能力を浄化して新しい世界に転生するんだよね。
魂の浄化がない例外としてあるのが、神が選定して異世界へ行く神為転生者、大半はこのパターンに該当するよ。まれにあるのが偶然、浄化されず転生した無為転生者。すっごくまれにあるのが異世界の住人によって魂だけ呼ばれた人為転生者。
これらを転移者と同じように把握しているんだよね。
お仕事その4 選定された死者の転生。
レキルア様が選ばれた死者の魂を異世界へ転生させること。その対象者への説明もするし、質問にも答えるよ。たまに、レキルア様や私たちへ不逞を働く者を迎撃することもあるんだよね。
ちなみに、その時の私の武器はこの大鎌。え?天使じゃなくて死神みたい?ひっどいなあ。まあ、似たようなこともしているから、全否定はしないけどね。
今はレキルア様の代わりに人間の死者、南羽百次が選定してるから、出番は格段に増えたね。どういうことだって?百次はハズレをひくことが多いってことだよ。
お仕事その5 あ。
あーザンネン、今回はここまでだね、終了の理由?それはね、私はこれから、お仕事その5に行く時間なの。だから、ごめんねー。じゃあ。
百次はパソコン画面で天使ラファアルの行動を見ていた。
「はーい。こんにちわ。」
「な。どこから。」
自室で1人机で休憩していた男。その部屋の扉や窓を開けることなく侵入し、その女性に声をかけられるまで、気づかなかったことに男は戦慄していた。
「天使・・・・・と思えば一番分りやすいよ。」
「はあ?」
天使の微笑みとは程遠い、悪魔の笑顔。大鎌を教鞭のように扱っているラファルの佇まいは、男には意味不明に思えただろう。だがそれも一瞬、男はすぐ冷静さを取り戻す。
「その天使様はなんのようです。」
「君のこれからについてね。わが主よりの言伝を。」
雰囲気が変わったことにも警戒を示す男。今は、できるだけ情報を集めようとしている。
「えーと、要約すると、異世界転移により、この街に新たな知識、思考を与え、街の発展、世界への一石を感謝。自身も以前より充実した生活をしてよかったですね。」
男は無為転移者であった。以前はブラック企業のサラリーマンで、なんのとりえもなく、日々鬱憤のたまった生活をしていた。だがある日、気づいたらこの世界におり、生活は一変した。
「だがそれもこれまで。これから、今すぐ元の世界に戻るか、それに反抗して、死ぬか選べ。以上。」
大鎌を男に向けるラファアル。言葉は適当だが、目の前の女は、本気であることを男は察する。
「な。」
男は大学でも友を作れず本を読みふけていた。それにより得た知識のおかげで、今の生活を手に入れることができた。好意を向けてくれる女性が4名。忙しさもあるが充実した日常。周囲からの尊敬、元の世界では得られなかったものがここでは得ることができた。そのため、元の世界に戻りたいという気持ちは男になかった。
「どうする?って言っても帰るしかないと思うけど。」
「あんたが天使なら、あんたの主はこの世界の神ってことなのか。」
「ん。そうなるね。」
「俺がここに来たのは、その神様の考えじゃあないのかい。」
男にはここに来た原因はわからなかった。そんな魔法もないので神によるものかとも思っていた。実際そう述べた街の女性もいる。
「ううん。偶然。運がいいのか、悪いのか。どっちだろうね。」
「数日待つことはできないのかな。そしたら、1つの案件が解決するんだけど。」
男は冷静に嘆願する。この場を脱する方法を脳内で考えながら。
「その間に私を迎撃する準備をするんでしょう。実際、今も仲間を呼ぼうとしてるんでしょう。弱い君の代わりに。」
「っつ。」
ラファアルの言葉通りだった。男は机に座ったまま、死角にある非常ベル(この世界の技術なので、ただ音を鳴らすものだが。)を押すつもりだった。
「それでも結果は変わんないけど、面倒だから、ダメ。あと、君の後を追うことになる人が増えるだけだよ。あんまり関係ない人を巻き込んじゃうと、私がお叱りうけちゃんだよねえ。」
「・・・・。」
「じゃあ。元の世界に戻るよ。あ、反抗しなければ痛くないから大丈夫。」
大鎌を構えるラファアル。1呼吸して大鎌は降られる。
「まってまって。せめて。」
慌てふためく男の首元で大鎌は止まる。
「せめて、周囲にいなくなる理由を教えてから。」
「うーん。それって戦力を呼ぶってことになるよね。」
「1人!今ここにいるのは1人だけだから。戦わないから。」
「その子が、君を助ける行動になるかもしれないじゃない。この状況だと一番頼りにもしている子でしょ。」
男は反論できなかった。ここにいる子は自分よりも強く、相手が誰であろうと立ち向かう勇気があるものだった。そして、自分に好意を向ける1人。このことを知れば、天使に反論し、自分を逃がすのに手を惜しまない人だった。
「俺は、この世界というより、今の生活が気に入っている。元いた世界にはなかったものをたくさん実感している。俺を必要としてくれる人がいる。俺に期待してくれている人がいる。俺は半端にしたまま、この世界と別れたくない。」
「あ、そ。」
「今、俺がいなくなったら、この街はたちいかなくなる。発展させたことを感謝しているんだろう、多少の目こぼしがあってもいいんじゃない。」
「いなくなったら、いなくなったで街の人は行動しなければならない。君に依存する街で止まってはいけない。重要ようなのは考え続けること、行動し続けること。君のいた世界はそれを繰り返し繰り返し、途中脱落とかもあると思うけど、繰り返したことでこの世界にはない技術、知識を手に入れている。同じことをこの街もこの世界をするだけ、してもらうだけ。」
「じゃあ、俺がここに来た意味は。」
「せいぜいその進化の過程を少し飛躍させただけ。」
「俺が持ってきた知識で救われた命だって。」
「だから、感謝の意を述べたでしょ。」
「なら、まだ救われる命だって。」
「あるかもね。」
「なら。」
「だから?」
「な・・・。」
男は唖然とした。仮にも天使を名乗る存在が人々の苦しみを気に留めていない。
「天使や神はこの世界のためになにをしてるんだよ。」
「世界はつくるけど、この世界の行く末はこの世界の住人が決めること。私たちはちょっと試練を与えるくらいだよ。苦しんでいる人がいるなら、天使や神に頼むんじゃなくて、自分たちの手で救いなさい。今救えなかった苦しみを次に繋げなさい。ってことだよ。」
「そんな。良心とか痛まないのかよ。俺だって」
「君たちと私たちじゃあ、感覚が違う。あとさ、君はこの世界にきたから、痛むようになっただけでしょ、元いた世界ではそんなこと考えたことないでしょ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
男は絶句する。ラファアルのいわれた通りだった。
「元いた世界で上手くいかず、この世界でいろいろ手にいれて、充実している。だから、この世界にいたい。」
男は肩で息をしている。今の生活がここで終わる予感を拭えないでいるからだ。それはあの鬱屈とした生活に戻ることを意味している。それだけは嫌だ。今の生活は知識の差によって成り立っている。元の世界では結局役立たなかったこの知識のおかげで。
「私の主はそういう人物が嫌いなんだよ。元いた世界で頑張りなさい。」
ラファアルが再度大鎌を振り上げる
「私も忙しいから、問答はここまで。そうだね。優しい優しい私は別れの書いた一筆を残すくらいの時間をあげようかな。どうする?」
「お、」
「お?」
「俺はこの世界にいたい。あんな生活なんかにいいいいいい。」
男はナイフを手にラファアルを襲う。
「はい。さよなら。」
ラファアルは焦ることもなく冷静に、冷徹に、冷酷に大鎌で男を縦に2等分した。男の体はそのまま光に包まれて消滅。
「この世界や人のことを本当に思うなら、手紙くらいのこせばいいのに。」
呆れた顔をしながら天使はそう告げ、この世界から消えた。
お仕事その5 無為転移者、無為転生者への対応
さっき話に出た無為転移者と無為転生者は知識や経験の差から多かれ少なかれ、周囲や世界に影響を及ぼすんだよね。そのことから、無為転移者、無為転生者をどう扱うのか神が決めているんだよ。発見しだい、すぐ本来いるべき場所(元の世界か、魂の集う場所)に連れていく、放置する、説得して知識を使わないようにさせたり、記憶や経験の浄化をしたりとかね。
私たちの神レキルア様は即刻の帰還で、神の中でも特に厳しい方。厳しい理由なんだけど、そういう人達って元の知識のおかげでノウノウと生活している人が多いんだよね。でもそれを試練の神であるレキルア様は許せないんだよ。どんなときも考えろ、努力しろ。もっと血と汗と涙を流せって方針なんだよね。
レキルア様の元で転生した人が同じことにならないかって?ああ。それは大丈夫、そんなことができない形で転生させているから。あ、でも今ならチャンスだね、百次の選定中はそのことを度外視して行わせているから。だから、のし上がるチャンスかも、どうする死ぬ?なーんてね。




