転生したのは
「神に感謝を」
今、百次は女性の転生を見届けた。
転生の儀式が終わり、空間に残ったのは百次と天使の2人。今日の担当は四天使のラファアル。天使達の中では一番元気であり、選定の空気は明るくなる。今もラファアルは笑顔だが、対照的に百次は深刻な表情でいた。
「1人目で決まったから、昼食の時間には早いよね。この後はどうする?お風呂?食事?わ・た・し?」
椅子に座っている百次の膝に座るラファアル。百次の顔前に胸を突き出し、乗り抱きつくようにして誘惑もしてくる。だがその状況になっても、百次の顔は変わらないでいた。
「無言ってことは、YESってことよね。うふふ、こんな時間から好きだねえ。」
百次の上着に手をかけたところで、その腕を取られるラファアル。
「・・・・・1人目で決まったからじゃなくて、1人しかいなかっただろ。」
百次はラファアルをじっと睨む。
「そうだね、だから、こんなことができるんでしょう。」
誘惑とも挑発ともとれる表情でいるラファアル。百次の腕を取り、今度は自分の胸元をチラっと見せつける。
「こんなことのために1人しかいなかった訳じゃないだろ。」
「そうかも知れないけど、そんなこともういいじゃない。」
「もういいと割り切れないんだよ。」
「もう。いい雰囲気なのに。なにが言いたいのー。」
「条件にあった転生者を100人探すのが俺の転生条件だよな。」
「そうだよ。まだまだ先は遠いけど、気長にいこうよ。」
「そのために、ある程度条件に合致した人のリストをラファアルたちが用意。」
「条件に会う人を探すだけでも百次には大変だよね。」
複数ある世界では常に把握仕切れないほど人は死んでいる。その中から条件に合った人を探すのを、人間である百次が行うと途方もない時間がかかる。百次の転生に期限はないが、効率が悪すぎるので天使たちが見繕ってくれる。
「そのリストから、俺がこれだと思う人物と面接。」
「私たちは身体的特徴、経歴で絞り込んでいるだけだからね。」
「本人の意志と全条件が合致したら、転生。って流れだよな。」
「そうそう。それで百次の転生が一歩近づくのよ。」
「だからっといて、俺が速度重視で適当に選ぶことは許されない。」
「誰に自我を持った転生を行うか。そして、誰をそのまま見殺すのか。命の重さと軽さを実感しろ。ってことだね。」
百次へ顔を近寄せるラファアル。その表情には笑みがこぼれていた。選ぶ際にいやおうなく対象者の情報がわかってしまう。必要最低限な情報だけでなく、一般社会にある個人情報より、膨大で詳細な情報を
知ろうと思えば知れてしまう。
病死、戦死、事故死、大往生なのか。そこまでの過程は偶然、必然、仕組まれたものなのか。仕組まれていたなら、当人や周囲にはなにがあったのか。関係者以上に知れてしまう。
「なら、今回1人っておかしくない?」
今までリストには数十人~数百いた。だが今回リストに上がっていたのは1人だけだった。
「条件が条件だからだよ。これでも頑張って探したんだから。むしろ見つけたことを褒めてほしいくらいだよ。」
「・・・・・・・・・。」
口を開こうとするも辞めた百次。確かに条件は難しいものだと思う。よくいたとも思う。
「じゃあ、増えてからのタイミングにすればいいだろ。って言いたい顔をしているね。」
ラファアルがワザと口に出す。
「ああ。」
「うん。うん。そうだね。私もそう思うよ。」
腕を組んで何度も頷くラファアル。
「だけど残念。レキルア様から指定なので、私にも、百次にも拒否できない。」
ラファアルの言ったとおりだった。今回の選定条件は百次が選んだのではない、彼女らの主レキルア、百次に転生のチャンスを与えた女神がこれをするように言ってきたのだ。
転生者
ディーナ・スーン 23歳
転生条件
『転生者NO.13
聖女と呼ばれた者。』
転生者リスト
1 ディーナ・スーン
以下余白
レキルアの管理する世界において、聖女と呼ばれた、認められた女性は他にもいる。だが、百次に条件が出されたタイミングで亡くなった聖女と呼ばれた女性はディーナ・スーン唯一人であった。
ディーナ・スーン
彼女は信仰深く慈愛に満ちており、誰かを憎むことはなかった。彼女が慎ましやかな女性であったが、不正、理不尽には堂々と対峙する芯の強さがあった。そして、理不尽と戦うと決めた際の彼女は行動的であり、どんなときも冷静であった。
彼女は無学ではあったが聡明であり、彼女のもつ魔力は無意識に人を引き寄せ、発する言葉に人々を魅了し動かす力が備わっていた。
彼女は一般的な家庭に生まれ、信仰深いだけの女性であったが、見た目の可憐さと無意識の魔力により、多くの人が敬い、好かれていた。そして、周囲の人だけではなく、貴族や国の中枢にいる者たちにまで注目されるようになっていた。
世界が彼女を知ったのは、国が侵略されたときだった。侵略を始めた国は我が世界の中心と宣った独裁王の率いる圧倒的な傲慢さを持つ国であった。多くの無辜の民が蹂躙されることを、ただ静かに祈ることさえも否定するその国の侵攻に彼女は戦いを決意する。
あくまで一国民の彼女ではあったが、彼女を敬う有権者や同郷の者たちの協力のもと、戦争に参加した。彼女の存在は同胞を力づけ、時には敵兵を無条件で降伏させた。彼女の言葉は他国の協力を得ることになり戦争は優位に立った。最終的に侵攻しきた国も彼女に傾倒した国民の反乱により、王と周辺協力者が死亡。国の瓦解をもって、戦争は終わった。
戦後、侵略した国の人もに寛大な処置と慈愛の手を、と彼女が説き回ったことにより、侵略した国の国民に対する扱い、戦後の軋轢、遺恨はほとんどなく終わった。
この戦争を機に、彼女を聖女と呼ぶ人が現れ始めたが、彼女は自身を結果的に多くの死者を出した咎人だと言い、国を出ていくことを述べた。そして、数日後には彼女の意をくんだ協力者の手により、国を去っていた。
これら経緯の含め彼女は聖女と呼ばれた。
・・・・・・・このときまでは。